71.終戦+エピローグ
「はっ、はっ、フィセル様・・・」
「フィセル様をかばいつつも頑張った方でしょうがもうおしまいですね。それにタイムオーバーです。ほら、ご覧になってください元国王様」
もう腹部や脚に何発か銃弾を受けてしまい、横になるのがやっとの中で上を見上げると巨大な機械の最上部にどんどん球状のエネルギー弾が生成されているのが見えた。
あれがこの国にいるすべてのエルフめがけて降り注ぐということでしょうか。
「で、ですが私がここにいるということは貴方も巻き添えになるということでは」
「残念ですが、この建物だけは対象外になるよう魔法が設定されているのです。それに、あなた方は是非とも私のこの手で殺して差し上げたいですしね」
再度上を見上げると、その魔力の激流が波のように機械を通り抜け張り裂けそうにも見える。
そうか、あの人は間に合わなかったのですね。
「何やらまだフィセル様は抵抗しているようですがもう手遅れのようです。ほら、ともにこの腐った世界の終焉のカウントダウンをしましょう。私たちを犠牲にして作り上げたこの国の崩壊の時間です。十、九、八…」
スミスさんが私の手を握り持ち上げる。
あぁ、これはもう駄目かもですね。
後はシズクたちが何とかしていることにかけるしかありません。
あの人たちならなんとかしてくれているかもしれません。
やはり私たちは間違っていたのでしょうか。
いやそんなことはない。
そう言い切ってしまえば、今までの犠牲は全て無駄になってしまう。
「五、四、三…」
この状況を、フィセル様ならもしかしてと思えてしまったのはなぜでしょうか。
なぜだかここに来た時、彼ならなんとかしてくれる気がしていたのですがどうやら気のせいだったようです
「二、一。これで終わりです」
そして機械は巨大な光線を空めがけて解き放った。
その光線は眩く光る火柱のように勢いよく上空に立ち上っていく。
もはや立っていられないほどの振動が部屋の中に響き、窓がすべて割れてあふれ出る魔力で気を失いそうになる。
「そうです、そのまま上空ではじけなさい! そしてすべてのエルフはこれで…」
もう無理だと下を向いた時だった。
私が心酔する彼の声が聞こえてきたのは。
「なるほど、だからこの辺りだけ探知魔法から除外されていたんですね。解読完了です」
私がその声の方向に目を向けると、今までと全く雰囲気の違う、いや、かつての雰囲気をまとったご主人様が両手に魔法陣をまとわせた状態で空を眺めていた。
「どうして、どうしてはじけない!? ど、どうなっているのです!」
その声に従い、もう一度機械が出すレーザーを注視すると、ただひたすら空に向いそのエネルギーが果てるまで上空に伸び続けているのが見えた。
行く当てもなくただただ自由な空を目指して。
「な、なぜ…。なぜエルフに向かってはじけない!」
「俺が設定を変えたからです」
ただただ呆然とその火柱を眺めていた男性の呟きに、ゆっくりと近づいてきたご主人様がそう答えた。
「設定を変えた…ですと?」
「はい。この機械にかけられていた『すべてのエルフを探知する魔法』には、この部屋が除外されるように設定されていました。それはもちろん、ヴェルがいるから。除外しないとここにまでエネルギー弾が降ってきてしまいますからね。だから俺はこの魔法の構造を書き換えて、この王国すべてが除外範囲になるよう設定したんです」
私はご主人様のこの雰囲気をどこかで感じ取ったことがある。
そうだ、これはご主人様と最初に私が会った日。
奴隷市場でご主人様と初めて会った時と同じ雰囲気だ。
「なっ!? で、でもどうやって!? あの魔法を作ったのは過去のあなただ! 今のあなたでは、どうにもできないのではなかったのですか!?」
「…できました。どうやら俺にはちゃんと過去の俺の能力が備わっていたらしいです。でも、いままでその事実から逃げてきました。そうしないと、自分の罪の重さに耐えられなかった」
「そ、そんな…」
「だからこれで終わりです。このレーザーがエルフに降り注ぐことはありません」
ご主人様がそう言うとスミスさんはガクッと膝から崩れ落ちてうなだれた。
どうやら本当にこれで終わったようだ。
ように思えた。
「…どこまでも、どこまでもあなたは私のすべてを奪うのですね!!!」
「っ! ご主人様!!」
「ならばあなたの命だけでももらいましょう! それが私の最後の革命だ!」
スミスさんが懐からもう一丁の銃を取り出し銃口をご主人様に向ける。
何とか反応しようと私も足に力を込めたが先ほど負った傷に激痛が走り足を取られてしまう。
だが銃口のその先にいるご主人様はいつもと違う。いや、言うなれば昔の『奴隷』を見るような悲しい顔でスミスさんのことを見つめていた。
「ヴェル、君は何もしないでくれ。…スミスさん、それであなたの心が晴れるのなら俺は甘んじて受け止めます。だけど一度だけ、俺にチャンスをいただけるのならその銃を下ろしてください」
「チャンスですと? いったいなんのです」
「俺はこの世界を変えるために様々なことをしました。そしてそれによってあなたの日常が奪われたのは紛れもない事実です」
「そうです! あなたによって私の家族は、自由は、尊厳はすべて奪われたのです!」
「だけど俺はそれでもやってきたことを後悔していません。いや、後悔するわけにはいきません。そうでなければ犠牲になった人たちに顔を向けることができない。だから俺は止まるわけにはいかない。俺らは正義として進み続けるしかないんです。たとえやっていることが悪だとしても」
「…負けた方が悪で、勝った方が正義とはよく言ったものですね。これで私は国家を陥れようとした大罪人、そしてあなたは国を救った英雄なのですからね」
「そうです。だから俺はこの命をもって、少なくとも種族の差で苦しむ人がいない世界にしていきます。どうかその役目を担わせてくれませんか。第二のあなたが生まれないように」
ご主人様がそう言い切ると、この場には沈黙が流れた。
その後、朧げに立ち上がったスミスさんは、唇をかみしめながらご主人様の目を睨みつけ、その首元を掴む。
全く抵抗をする様子も見せないご主人様に、スミスさんは吐き捨てるように言葉を紡いだ。
「とんだ綺麗ごとだ。そんなものが通用するとでも思っておられるのか?」
「通用する、ではなくて通用させて見せます。六人のエルフたちと」
「いったい何が貴方をそこまで突き動かすのだ」
スミスさんがそう振り絞るように尋ねると、ご主人様は一度私の目を見て目をつむった。
「初めて見た奴隷市場、用済みと破棄された奴隷たち、そして戦争孤児と出会った記憶です。俺はそれをもう見たくない」
「あなたのその身勝手な行動が、私を、人間をもそうさせたのだ!!」
「なら好きなだけ恨んでください。俺はもう逃げません。俺も当時の人間を許していませんから」
そしてご主人様がそう言うと、スミスさんは少しあっけにとられた表情を浮かべた後、思わずと言わんばかりに膝をついた。
「ふ、ふふっ…。なるほど、これが覚悟の違いですか。なんだか馬鹿らしくなってきてしまいました」
「馬鹿らしく、ですか」
「ええ。あなたによって私の人生はめちゃくちゃにされ、その報復計画もあなたに破綻させられた私は、一体どうして生まれてきたのでしょうね。ここであなたを殺したところで私も二度と監獄から出られないでしょう。ならば一生をかけてあなたを恨み続ける。それが私の生きる意味なのでしょうか」
「……」
「もし私も生まれてくる時代が違ったらエルフと肩を組んで過ごせていたのでしょうか。今の私にとっては死んでも嫌ですけど」
「そうだと俺は信じています」
「ここまでくるとあなたのその意気込みがどこまで通用するのか、どこで打ち砕かれるのかが少し気になってきました。いやはや、計画がめちゃくちゃにされたのにどこか清々しいのはなぜでしょうか」
「貴方もどこかでエルフと手を取り合えたらと思っていたからではないですか?」
「それはないですね。私は心の底からエルフ、そしてあなたを憎んでいるので」
「そうですか」
「ええ」
スミスさんが笑顔とともにそう言い切ったと同時に後ろの扉があき、数人の騎士団とともに五人のエルフが入ってきた。
「ここからとんでもなく太いレーザーが出たけどやっぱりか」
「その通りみたいだね。アイナを信じなくてよかったよ」
「なっ!? 兄さんだって『俺はこっちだと思うよ(キリッ)』って全然違う方指さしてたじゃないですか!」
「アイナ、空気を読んでくれ。多分そういう感じじゃない」
「ダニングおじさんの言う通りだよ」
「へぇっ!? い、いやそんなことよりも早くだれかヴェルさんに回復薬を!」
「待て! あのジジイ銃持ってるから迂闊に近づくな!」
「そうだね、もし変な動きしたらあいつの首吹っ飛ばすから」
「まて、ルリ。落ち着け、どうどう」
「私は犬じゃない!」
…まったく、騒がしい人たちですね本当に。
でも、この声が届くということは、全てをちゃんと阻止できたみたいですね。
なによりです。
そしてその一部始終を見届けたのち、再びスミスさんはご主人様の元へ向き直った。
「…フィセル様、あなたのお仲間は本当に愉快なのですね」
「はい、かけがえのない仲間です」
「その関係を破壊したかったのですが、残念です。これからは監獄の奥底でずっと見守るとしましょう。あなた方が第二、第三の私と戦うところを。あなたの顔が苦しみに染まるその日まで」
「はい、すべて俺たちが阻止します。何度でも」
「そうですか。では最後に一つだけ。私が清々しかったのはあなたという人に負けたからですよ。…私はこれで失礼します。せいぜい喉かな日常を」
そういってスミスさんは銃を地面に投げ捨てて、自分から騎士団の方へと向かっていた。
こうして私たちの戦いは幕を閉じたのだった。
◇◆◇◆
あの後国王からは、あの光線は国家秘密のプロジェクトで、装置が誤作動したからあのように避難勧告が出たと説明が入った。
もちろん嘘である。
ただ、国家に歯向かったものがいると公に言うわけでもないので妥当な対応であろう。
というかシズクとヴェルがそうさせた。
そしてあの後、グエン王子の姿を見た者はいないという。
また彼と相まみえることはあるのだろうか。
また、あれから俺たちの生活は特に変わったりはしなかった。
色々あって一時は衝突しちゃったけれど、しっかり過去の話を聞きなおして、胸の中をすべて話して、そして俺たちが出来ることをみんなでやっていこうとなった。
スミスさんのような人たちのことを胸に刻んで。
第二第三の彼はまたいつか現れる。
だから俺たちにできることは、その計画を止めることだ。
犠牲になった人たちのためにも進み続けよう。
でも、少しくらいは休み休みでやっていいと思う。
この素晴らしい世界をもっと素晴らしいものにしていくにはゆっくりとやっていくのが大事なのだから。
後悔するような選択をしないためにも。
俺はこの6人のエルフとまた一歩ずつ進んでいく。
住み慣れた二〇〇年前の家に似た森の中の家で。
ときに真面目に、ときに楽しく。
この人生をかけて、世界を変えていく。
だからそれまでは…。
「いつまでも一緒ですよ、ご主人様」




