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69.手を取り合う

 次に目を開けると、そこには巨大な機械の前に立つスミスさんの後ろ姿があった。

 彼は俺らの方を振り返ることなくずっと目の前の巨大な機械を眺めていたが、すぐに静寂は破られた。

「やはりグエン王子はその選択を取りましたか。今、王都は大混乱ですよ。王国内に緊急放送がかかってエルフは全員どこかへ避難しているようです。それにクレア王女やパトラ王女も積極的に避難に協力しているようです。いやはや、これが貴方の作りたかった未来像なのかもしれませんね、フィセル様」


 彼はそういってゆっくりと俺の方を向いた。

 機械は先ほどからまばゆく光っており、魔力濃度がかなり高いのが魔力に鈍感なはずの俺でもわかる。恐らくヴェルなんかは息をするのもやっとに違いない。

「皮肉にも今顕著に表れていますね。人間とエルフが協力しています。そしてそれは俺が作りたかった未来です」

 俺はそんな空気の中、顔がはっきりとは見えない人影に向かって言葉を発した。

 エルフと人間が手を取り合う。

 それこそが俺の思い描いた未来だから。


「…私の事はおおかたグエン王子から聞いているのでしょう」

「えぇ、建国前の五〇年間、すなわちエルフが人間を支配していた時代に両親と兄弟を殺されてしまったと聞いています」

「その通りです。そして幼かった私は訴えようとしたのにもかかわらず、そのエルフは軽い罰で済みました。もはやあれを罰とは言えませんね、権力とは恐ろしいものです」

「確かにあの時代を生きた人間の方はつらい思いをされたと思います。ですが、人間に対するエルフの嫌悪感を緩和するためになくてはならない期間でもありました」

 俺の後ろからヴェルが反論する。

 何を隠そう、俺もまだあまり過去については深く理解できていない。

 だけど少なくとも今だけはヴェルたちの味方でいようと思った。

「ならば私は、私のような人間はただただ泣き寝入りしろと?」

「一応エルフが人間を殺さないように、ひどい扱いをしないように監視する組織は設けていたのですがまさかそんなことがあったとは」


 そんなヴェルは俺の後ろから申し訳なさそうな顔をしながら話す。

 嘘はついていないように思えるがどうなのだろうか。

 真相は当事者の彼らしか知らない。


「国王の耳に届いていないと? それは不思議な話ですね。いえ、この出来事はそれくらいちっぽけなことだったのかもしれませんね。あなたたちが積み上げた死体の数に比べれば」

「そうかもしれません。反論はしません」

「そうですか、ならばやはり今回の計画は間違っていませんでしたね。あなた方も過去、人間に酷い思いをされたのでしょう? 苦しかったでしょう? 妬ましかったでしょう? 今でも人間の事を苦手だと思うエルフは少なからずいるでしょう? やはり人間とエルフは共存できないのです、別々で生きるべきだったのです。まぁもう遅いですがね。最初に人間がエルフを奴隷にした時点でどちらかは滅びる運命にあったのかもしれません」

「だからこうしてエルフを全員殺すと?」

「はい、ここで一からすべてをやり直します。ここでゼロにしないとまたいつかエルフが人間を支配する日が来るかもしれませんからね。それに…、私はエルフを心の底から憎んでいますから」


 そう言ってスミスさんは再び巨大な魔法具に向き直った。

 こうして話している間もどんどん部屋の温度は上がっているし、音も先ほどより騒がしくなってきた気がする。

「この魔法具が開発できたのは貴方のおかげでもあるんですよ、フィセル様。あなたがすべてのエルフの居場所を探知する魔法という奇想天外な魔法を開発しなければ私の計画はうまくいっていませんでしたから。そしてグエン王子のおかげでもありますね」

「俺はまさか、俺の開発した魔法がこんな形で使われると思っていませんでしたけどね。考え直す気はありませんか?」

「ありませんよ。…ただ、一つだけフィセル様に聞きたいことはありますね。どうしてあなたは、エルフを助けようと思ったのですか? あの家にあった資料には当時エルフは奴隷扱いが普通だったと記されていたらしいのですが」

「そんなの、奴隷扱いを受けている時点でおかしいじゃないか!」


 思いもよらぬ質問に俺は声を荒らげて答えてしまい、はっと我に返る。

 少し浅めに深呼吸をして俺は再びスミスさんの方を見つめた。


「私はおかしくないと思いますよ。だってエルフは人間に敗れて奴隷になったのでしょう? そしてあなたが変な気を起こしたせいで私が生まれたときはエルフが人間を支配する時代になってしまっていた。そしてそれによって私は家族を失った」

「で、でも!!」

「でもエルフの多くも人間に家族を殺されたとでも言いたいのですか? そしてだから私がエルフを恨むというのは見当外れとでもいうつもりですか? 私が生まれた時代が悪かった。で終わらせるつもりですか!?」


 なんて答えればいいのかわからず言葉に詰まる。

 確かにスミスさんが言っているのは間違っていない。

 どっちも正しくて、どっちも間違っている。

 今この場に正解なんてない。

 あるのは各々の正義だけだ。 


「私は、歴史が変わる瞬間というものは必要だと思っています」

 だがそんな口の動かない俺に代わって再びヴェルが話し始めた。

「そうですか、いやそうですよね。そう思っていなければあのような政策はとらないですものね、国王様!」

「私の役目はエルフと人間が共存できるような時代が数百年後訪れることができるようにこの平穏を守ることだと自負してきました。すべては何百年もかけて人間もエルフも最初から仲間だったと思えるような時代にするため。そのために犠牲は必要でした。そのために嫌悪感を少しでもなくすために種族格差を作り、過去を亡きものにしてきました」

「犠牲が必要…? あぁ、なんだ最初から私たちは切り捨てられていたのですか。この先の、この国を見据えているあなたたちと、過去をいつまでも恨み続けている私が分かり合えるはずがありませんでしたね。ただ、もう私の勝ちのようです」


 スミスさんは俺らに背を向けて我が子をなでるように轟音をとどろかせる巨大な機械をなでた。

 その機械はもう限界がきているといわんばかりに音を上げ、光を放っていた。


「これで私の夢が叶う。すべてのエルフはこれで…」

「まだわからない。俺が何とかして見せる」

 だが俺はまだあきらめていない。

 全てのエルフを殺す? そんなことさせてたまるか。

 スミスさんからしたら俺たちは悪に違いない。

 ほかの人間の中には俺たちを全ての元凶だ、悪魔だと罵る者がいるかもしれない。

 ならば俺は悪でいい。

 この世界でエルフと人間が笑いあって過ごせる未来が来るのなら俺は喜んで悪になろう。

 そのために俺は生まれ変わったし、ヴェルたちも今までを生きてきたんだ。

 ここまで来たらすべてを貫き通すしかない。

「何をばかなことを。この状況からどうされるおつもりなのですか?」

「正直この国は二〇〇年前からほとんど魔法や魔法具が発展していないと思っています。なら、昔の知識で俺がこれを解除して見せます」

「そんなことできないとは思いますが」

「やってみないとわかりません」

「無理でしょう。…ですがあなたなら奇跡を起こすかもしれませんしね。そっちがその気ならば私も手を打ちましょう」

 胸元に手を入れ何かを握るスミスさん、地面を蹴る俺とヴェル。

 言葉を発しなくても俺とヴェルが何をすべきかはお互いもうわかっていた。

「ご主人様には指一本触れさせません。ご主人様、早く前へ!」

「ヴェル頼んだ!!」

「ならばあなたも殺してあげましょう! 人間の裏切り者が!」

 俺の方へ銃口が向けられたがその前にヴェルが魔法をスミスさんに放ち体制を崩す。

 その間に俺は何とか機械の向こう側に回り込むことができ、メインパネルのようなところにたどり着くことができた。

 いけるか、過去の俺。

 頼む力を貸してくれ。

 機械の向こう側では金属がぶつかり合う音と先ほど聞いた乾いた音が何回も放たれたがとりあえずは一旦無視だ。

 俺は息を深く吐いてその機械に向かい合った。


◇◆◇◆


『今王都にいるエルフの方は早く王城へ来てください! 緊急事態です! その他のエルフの方もできるだけ安全な場所に避難するか、救助を待ってください!』

 王国内にクレア王女の声が響き渡る。

 王城には腕利きのエルフたちによって、最高水準の結界が張られ、王国内にいるエルフたちは全員そこに避難することになったが、いきなりそんなことを言われてもみんながみんな動くはずもない。

 だがこの国の中心人物であったエルフたちや、王女の呼びかけによって事態がただ事ではないと浸透していき、王国内はパニックになりつつあった。

 そんな中多くの人間、特に若者を中心として王国内に避難勧告を伝え続け子供や妊婦のエルフたちに手を差し伸べる者たちが多くいた。

 そして中には五十歳を超えているに違いない人間の人たちも協力していた。

 彼らはエルフに辛い思いをさせられていたに違いないのに。

 それは彼らが、今現在王国に何が起こっているのかわからないから、思うがままに行動したのかもしれないが、グエン王子たちが否定したエルフと人間の絆というものは確かにそこにあった。

 建国からの数十年で変わったものもあったということだ。

「よし、かなりいいペースで集まってきてるぞ。だけど正直この防御結界でどこまで耐えられるかだな・・・。もっと分散させるべきだったか?」

「いや、人を集めた方がより強固な結界を張れるからいいと思う、それに騎士団の人たちも結界に協力してくれているからこれでいいと思う」

「あとはご主人たち次第だな。正直俺たちはこれ以上何もできん」

「そうですね…。私たちは私たちのできることを、フィセル様にはフィセル様のできることを全うしてもらうしかありませんからね」

「私は何とかなると思うな! それに私の魔力で結界を張ればどんな隕石だってへっちゃらだよ!」

 五人のエルフたちはそう言って、王城の中央で空を見上げた。

 ここにいない仲間の事を想って。

 エルフが滅ぶまで、残り十分。


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