68.王子の過去
明日10/15に、本小説の第二巻が刊行予定です。
twitterの方に、書影などを掲載させていただいているので良ければぜひお立ち寄りいただけたらと思います。
また、過去編などの書下ろし小説もいくつか書籍の方に掲載させていただきましたので、もし見かけた際は手に取って頂ければ心よりうれしく思います。
今後ともよろしくお願いいたします。
四人のエルフが外へと飛び出していったあと、部屋に残されたのは俺とヴェル、そして倒れている騎士たちとグエン王子であった。
俺はまずグエン王子に近づき傷口に回復薬を塗って肩をゆする。
すると一分もしないうちに意識だけは取り戻した。
さすが俺の開発した回復薬なだけある。
「ん? なんだ、俺は撃たれたのでは…?」
「俺が治しました。そんなことより、いったい彼は何を企んでいるのか早く教えて下さい。時間がないんです」
俺がそう言うと、グエン王子は「あぁ、なるほど」と小さく言ってばつが悪そうに顔をしかめた。
「教える訳がなかろう。そもそも敵の傷を治すという思考に至っている時点で、お前がどこまでお人好しかわかるな」
段々と顔色がよくなってきたグエン王子はそう言って鼻を鳴らした。
だけどルリに折られたりつぶされたりした骨や臓器までは治っていない。
それなのにまだここまで自我を保っているのはさすがというべきか相変わらずというべきか。
「別にお人好しだからじゃないです。情報が欲しいから回復薬を使っただけです」
「俺がしゃべるとでも? お前は馬鹿か」
「いえ、あなたなら裏切られたらすぐこちらに手を貸すと思っただけです。なんとなくですけど」
「残念だったな。俺はあいつを裏切らねぇよ。丁度いい、少し話を聞いていかないか? そしたらスミスが何を企んでいるのかはわかるぜ」
「時間がないので手早くお願いします」
「そう急かすでない。あれは俺がまだ幼い時だったか—— 」
グエン王子は過去を懐かしむように目をつむり、ぽつりぽつりと話し始めた。
◇◆◇◆
俺は王族の一人としてこの世に生を受けた。
といっても国王の次男の息子だから、次期国王には遠いと周りから言われたり、その国王の長男の娘が、女であるにも関わらず非常に優秀で、この辺りでは珍しい女君主として名を馳せることができるのではないかと、有望視されていたから誰も俺に興味なんて持たなかった。
さらに、王族の者はそれぞれ固有の魔法を使うことができるんだが、俺の魔法は一日に一人だけにしか使えないという、かなり微妙なものであり周りからは雑に扱われていた。
これに加えてこの国は、俺が生まれた時はすでにエルフという種族との共存を掲げており、王城内にもその雰囲気が強くでていた。
この王女も親エルフの筆頭であったがゆえに支持者が多かったというのも言える。
まだ少年だった俺は正直どうでもよかったが。
だが俺には一つ、才能があった。
それは様々な魔法具の開発についてだ。
だから俺はずっと部屋にこもって、時間上がればいろんな魔法具の開発にいそしんだしそれが生きがいだった。友達なんて呼べるものもいなかったから、この時だけは夢中になれた。
だけれども周りの評価はひどいものだった。というのもこの国は、人間よりもエルフの方がそういった開発に優れているという認識だったのだ。
例を挙げるのなら、エルフだけが作り方を知っているとされる回復薬や転移玉と呼ばれる魔法具などだな。要は人間が手を出すものじゃないという風潮が強かった。
だから「それは人間なんかがやるものじゃない」とよく言われたものだ。
親族にも周りのエルフにも。
だけど俺はそんな声を無視し続けた。
それだけが生きがいだったから。
もしかしたらこれがエルフに対する憎しみの原点だったのかもしれない。
この時はそこまで強い思いは持ってなかったがな。
そんな自分だけの世界を持ち始めて数年が経過して、俺が十八歳になった時だった。
確か王族のパーティーの最中だったか、あいつが俺に話しかけてきたのは。
「私は今クレア王女の執事をやっております、スミスと申すものです。少しお話をしませんか」
これが俺とスミスの出会いだった。
話を聞いてみると奴は過去、もっと言えば俺たちの知らない建国前の時を生きており、その時にエルフに酷いことをされたから、どうにかして復讐をしたいと言い始めた。
この時代、過去について話すのは法律で禁止されていたが、興味を持った俺は全部聞くことにした。
そこでスミスの両親と弟は、エルフによって殺されたことを知った。
更にそのエルフは何の罪にも問われなかったらしい。
スミスは十歳にして天涯孤独になったらしいのだ。
そしてこんな世の中は間違っているとも言い始めた。
エルフと人間が共存できるわけがない。私のような思いを持つものはたくさんいると。
でもなんでそんな話を俺に? と奴に聞くと俺の力を貸してほしいとのことだった。
俺はそれを聞いて、本当にうれしかった。
初めて俺のことを必要としてくれる人が現れたのだから。
こうして俺とスミスはエルフを殲滅する計画を練り始めた。
俺は王子としてではなく、研究者として奴に手を貸したんだ。
その計画とは、すべてのエルフのみに向かって放たれる光線を開発することだった。
そしてこれに必要なのはその装置と、すべてのエルフの居場所がわかる探知魔法の二つであった。
俺は奴にそんな探知魔法を知らないと奴に言ったが、なんでも二〇〇年前にその魔法を確立した研究者がおり、さらにこの王国のどこかにその研究書が眠っているとのことだったから、俺はまずその巨大な光線を放つ機械を作成することにした。
幸いにも王子であるために金も作る道具も、材料も全て簡単に手に入った。
さらに一年ほど前スミスがその過去の研究書が眠る家を発見し、無事にすべてのエルフの場所がわかる魔法を得ることができた。
そこで新たに、その魔法を開発した謎の研究者が転生するかもしれないということ、そしてスミスさえも知らないエルフたちにも奴隷時代があったことも知った。
その研究者に仕えていた六人のエルフが、今のエルフをまとめる中心人物であることも。
このことをスミスに報告すると、もうその研究者は転生しているということを知らされ、そこから今回のような計画を思いつくに至った。
まず、その研究者を拉致して洗脳させる。そして上手く事が運べば、そのまま中心人物である六人のエルフを殺させる。正直あのエルフたちを殺すことのできる者は王国中探してもその研究者しかいなかったからだ。
また、その研究者を拉致した理由としては、俺の開発した魔法光線機械は動き始めるまでにかなりの時間がかかる上、とんでもない魔力を垂れ流すために起動中にバレてしまう恐れがあった。
そのため魔力探知を阻害する結界を張った建物に、我を失わせた状態で呼び込む必要があった。
そうすればお前らがここに入ってきた時点から機械を起動できるからな。
そしてそれは見事に成功し、あと残り二十分もしないうちにすべてのエルフに向かって光線が降り注ぐ。
◇◆◇◆
「これが俺たちの計画の全貌だ」
彼はそうつぶやいた後息を深く吐いた。
「お前がその研究者だろう、フィセル? 羨ましいよ、お前が生きた二〇〇年前は、自分の作った魔法具が評価されて。この時代じゃ何を開発してもエルフの二番煎じだなんて言われる。この時代で研究者は只の異端児なのだよ」
「でも、それがエルフを憎む理由にはなりえません」
「あぁ、そうだ。俺は俺を認めてくれたスミスのために頑張っただけだ。そして今日、長いエルフと人間のいざこざに幕引きだ」
「間違ってるよ!!! 殲滅なんて間違ってる!!」
俺がそう叫ぶと、グエン王子は先ほどとは違い、俺のことを真剣な眼差しで見つめた。
「俺から言わせてもらえば、お前たちの歩んできた道も間違ってると言わざるを得んな。現にスミスのようにエルフによって天涯孤独にされた人間だって少なからずいる。そいつらは過去について話すなって口留めまでされておるのだぞ」
「でもそれは過去に人間が…」
「だからそいつらと俺らは何の関係があるっていうのだ!? なんだ、スミスは生まれた時代が悪かったで済ませろとでもいう気か!?」
あまりの剣幕に俺は一歩後ろに下がった。
彼も大声を出して腹の傷が痛んだのか、顔に顰め面を張り付けた。
「それは…」
「だから寿命の違うエルフと人間は共存するのではなく、大人しく不干渉っていうのが正解だったんだ。だが、それはもう無理だからこうして殲滅してゼロにしようって言っいるのではないか! …まぁ俺はエルフを再び奴隷にしようとしていたし、こうしてスミスに捨てられたがな。だが、スミスが満足するのなら、俺はそれで構わない」
「……」
「ただ、俺はエルフにそこまで悪いことをされたことがないから結局はよくわからないってのはあるかもしれないな。…手を出せ」
彼はそういってポケットから何やら紫色のガラス球を取り出した。
見るからに怪しいその球を俺は素直に受け取ることが出来なかったが、彼は俺の手を引っ手繰り、無理やりそのガラス球を握らせた。
「使う、使わないは自由だ。一応言っておくと、これを使えばスミスのところまで行ける。ただ信用できないのなら捨てるがいい。…回復薬の礼だ」
「これは…? 赤玉でも青玉でもないように見えるんですが」
「お前のレシピを見たらいろいろ不完全なところがあったからな、俺なりに改良したものだ。あとは好きにしろ俺はもう眠ぃんだ」
「どうするのですかご主人様、まさか使うつもりですか?」
今迄だんまりを決め込んでいたヴェルが、横から心配そうな顔でこちらを見る。
だが、スミスさんがどこに行ったのかわからない上これを使うほかない。
もしかしたらとんでもないところに飛ばされる可能性だってある。
ただグエン王子の話を聞いて時間がないのは確かだし、スミスさんがどこにいるのかは結局わからなかった。
「なんでスミスさんの計画を邪魔するようなこと?」
「言っただろ、回復薬の礼だって。それに、そこのエルフのお前、ヴェルだっけか。お前はこの国の建国前の国王なのだろう? 何か弁明でもあるのなら、死ぬ前にスミスに言って欲しいと思っただけだ。あとは好きにしろ」
「わかりました。使わせてもらいます」
俺がそうつぶやくと、グエン王子はそっぽを向きヴェルが俺の腕をつかんだ。
表情からは不安があふれ出している。
「…信じるのですかこの者を」
「なんとなくだけど、グエン王子は俺と似ている気がするんだ。生まれる時代が違ったら俺もこうなっていたかもしれない。だからちょっと信じてみたくなったんだ。それにもう時間がない」
「ご主人様は相変わらずおバカですね。わかりました、私もお供します」
「エルフと人間の絆、か。人間同士ですら分かり合えない俺たちにその未来はあるのか」
「何かおっしゃいましたか?」
「何も。早く行くがいい」
彼の言葉を聞き終える前にガラス球を地面に落とすと、眩い光が俺とヴェルを包み込んだ。
そして次に目を開けると、そこには巨大な機械の前に立つスミスさんの後ろ姿があった
誤字脱字報告、本当にありがとうございます。
また、本日まとめて最後まで掲載させていただきます。




