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64.突入

 シズクがはじき出した敵の拠点は王城から遠く離れた、グレイス街というそれなりに栄えている街の大きな建物であった。

 大きな建物といっても外装は古く、路地裏で人影もない場所にポツンと鎮座する薄気味悪い。

 どうしてこんなところを拠点にしているのか、一体どれくらい彼らの計画が進んでいるのかわからなかったが、私たちは六人全員でここへと向かうことにした。

 クレア王女やパトラ王女に一声かけようかとも思ったが、まだ王国がいつも通りであることからあまり騒ぎを大きくしないほうがいいと思い、何も言っていない。正直この判断がどう出るかは分からない。

 信じていた執事のスミスと名乗る者が、相手側だったと知ったらどうなるかわからなかったからというのが大きいが。

「この建物だな。油断すんなよ、何してくんのかわからねえぞ」

 考え事をしている私の耳から入ってきたシズクのささやきに緊張が走る。

 ご主人様を連れ去ったグエンという王子は、エルフを全て奴隷に戻すためにまず私たちの動きを止めようとしている。必ず何か仕掛けてくるはずだ。

「ここは慎重に…」

 一番前を歩いていた私が後ろを振り返った瞬間の事であった。

 ルリが全身に魔力を迸らせ、殺人鬼のような眼を光らせているのが目の端に映った。

「ちょっ、ルリ!?」

「お兄ちゃんを奪ったのはどこのどいつだ?」

 ルリがそう口走ったと同時に閃光が走り何かがはじける音がした。

 その少しあと、ゆっくりと目を開けるともうルリの姿はなく扉がくりぬかれたように黒煙を上げていた。恐らく魔法で無理やりこじ開けたのだろう。結界が張ってあったが、問答無用でそれごと焼き切ったみたいだ。余りの強引さに当の本人以外は言葉を失ってしまった。


「ちょっ、え? ルリ!? ヴェルさん私たちも早くいきましょう!」

 アイナがその後を追っていき、バン、ダニングの順にどんどん中へと入っていく。

「おい、私たちも行くぞ。ぼーっとしてても、何も始まんねぇんだ」

「…そうですね。行きましょうか」

 こうして私たちは敵の拠点へと正面から侵入していった。


 ◇◆◇◆


 扉をくぐり中に入るとそこには地下へと続く大きな螺旋階段が一つ、ぽつんと立っているだけであり、私たちは脇目もふらずに駆け下りた。

 一体どれくらい走っただろうか。

 とりあえずよくわからない量の階段を駆け降りたその先、そこには一つの大きな扉がありこれまた破壊されて黒煙を悲しく上げていた。

 恐らく目の前をひた走る茶髪のエルフの仕業に違いない。

 そして開けた視界のその先には、とても外装からは想像できないほどの広い部屋の中でにルリとご主人様を連れ去った男が剣をぶつけあっていた。

 そんな中、その男は私たちに気づいたようでルリを力ずくで払いのけさらに距離を取る。私たちはこちら側に後退ったルリを私たちは軽くなだめて目の前の男を見据えた。

 ご主人様を拉致した男を。


「ちっ、そのじゃじゃ馬娘はどうにかならんのか? 馬鹿げているだろうその者の力は」

「申し訳ありませんね、グエン王子。この子、主人を連れ去られて気が立っているもので。というか随分と余裕ですね。場所も突き止められた上に計画は何も進んでいないように見えますが」

「計画? なんだ、俺の計画の全貌でもわかっておるのか?」


 グエン王子はそう言って、剣ではなく口で戦おうと言わんばかりに剣を鞘に納めた。

 正直、後ろにいる双子のエルフならば数刻としないうちに目の前の男を切り刻み、灰にできるに違いないが、魏主人様の居場所が分からない以上それはできなかった。

 先ほどから刀を握りしめる音が後方から響いてくる。


「えぇ。なんとなくですけどね。大方一般人の方には、この王国の人間はかつて、エルフに支配されていたと言いふらしてエルフへの不満を貯めさせ、逆にエルフにはかつて人間にもっとつらいことをされたんだという不満を呷って内部から衝突させようとしているのでしょう? そして人間側が勝つには私たちの存在が邪魔だからご主人様を拉致して私たちの戦力を削ごうとした。そうすればあなたの嫌いなエルフも排除出来て、人間からは支持が高まるから次期国王に近づく。違いますか?」

「なるほど、面白い推察だ。それで?」

「正答率はどれくらいですか?」

「そうだな、五十%ってところであろう」


 五十%と聞き、私は少し目を伏せた。

 もう少し高いと思っていましたが、他にもまだ何かあるようだ。


「まぁ、当初の予定は大体そんな感じであったよ。だが意外と手こずってな、おいそこのお前であろう黒髪の。お前のせいで新聞も放送機器も全部使い物にならなくなってしまった。いつからこの国の情報媒体を掌握していた?」

「建国からだ、当たり前だろ。手は先に打っておくんだよ、馬鹿な人間とは違ってな」

 シズクがそう答えるとグエン王子は忌々しそうに彼女のことを睨んだ後、吐き捨てるように呟きながら地面を蹴った。


「そういうところなのだ。そうやって他の種族を見下して腹の中で笑って。俺はな、エルフと人間は絶対に分かり合えないと思っているのだ。そうであろう? そもそも寿命も違うのにどうやって分かり合えというのだ。そして過去にはお互いに支配していた時代があったときたらそれはもう無理であろうよ。利用するかされるかしか道はないのだ」


「あなたは何か勘違いしていませんか? エルフは人間を奴隷のようには扱っていませんよ。あれはエルフ側からのできる限り最大の妥協です。私たちエルフをモノのように扱った人間とは天と地ほどの差があります」

「っは? どの口が言っておるんだ。現に俺の…。いや、これは口留めされている。…まぁいい。とにかく俺はエルフが嫌いなのだ。というか人間の方が優れておるのだよ」

「話になりませんね。というかあなたの計画はもう破綻しているのでは? 早くご主人様を返してください」

「ご主人様、か。虫唾が走る。それにあいつの命は俺が握っていることを忘れたか?」

「主を殺すのなら、俺たちはお前を殺すよ」


 グエン王子の一言に限界が来たのか、今迄沈黙を貫いていたバンが口を開いた。

 いや、バンだけじゃない。

 他のみんなも臨戦態勢だ。


「おお、怖い怖い。じゃあもう帰してやろう。スミス! フィセルを寄越せ!」

 だが、突如その絶対に忘れないと胸に誓った名前が聞こえてきて、六人の動きが固まった。

 なんでこのタイミングで? や、無事なのか? 回復薬はいくつ持ったか?

 などと思考を張り巡らせた後、ちょうど私たちが入ってきた扉の方から誰かが入ってくる音がした。

 一斉にバッと後ろを振り向くとそこには、受け入れがたい真実が私たちを待ち受けていた。

「エルフ? エルフはゼンブころさなきゃだめだ」

 そこにはぶつぶつ何かをつぶやきながら焦点の合わないうつろな目でゆっくりと近づいてくるご主人様の姿があった。

 右手には剣が握られている。

「フィセル様!」

 そうアイナが叫んで地面を蹴ったと同時にご主人様の右腕が動き切っ先がアイナに向いた。

「アイナ、避けろ!」

 そしてその鋭利な刃がアイナの白い肌に突き刺さろうとしたぎりぎりに瞬間になんとか反応できたバンがア、イナの服をつかんで投げ飛ばした。

 その拍子でバンの腕を行き場を失った剣がかすめていく。

「くっ、みんなご主人から距離をとれ!」

 一番野太く響くダニングの声で、硬直しかけていた体が何とか動き始めてすぐに距離を取る。

 ご主人様はその場からは動くことはなかった。

「てんめぇ、ご主人に何しやがった!」

「お前は本当に殺す」

 その中でシズクがグエン王子の方へと向き直り走っていく。

 それと同時にルリも聞いたことのないほどの音を踏み鳴らしてグエン王子へと刃を向けて言った。

 だが当の本人は満足げな顔で私たちエルフのことを見据えていた。

「言っただろう? これが残りの五十%だ。フィセルにお前たちを殺してもらう。そうすれば万事解決だ。お前たちはフィセルに刃を向けることができないだろう? あぁ、もしお前たちが自分の首を切って落とすというのなら戻しても構わないぞ。フィセルは今、俺の魔法でこのようになっておるのだからな。さぁ、どっちを取る? フィセルか、エルフの未来か。ふっ、ふははははっ!」

 ひとしきり高笑いをしたのち彼が指を鳴らすと扉の方からたくさんの騎士が詰めかけてきた。

恐らく、王城で彼があらぬ噂を言いふらして作り上げ、即興的なた反エルフ団体なのだろう。何とも哀れなことか。

「まぁ、どうやって壊したかと言えば、お前らがやってきた過去の事を事細かに説明しただけだけどな。恨むのならそんなことをしてきた自分たちを恨むがいい! そして、ここで死ね」

 こうして私たちは三十人を超える騎士と、一人の青年に囲まれてしまうのであった。


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