58.物語
更新が遅れてしまい本当に申し訳ありません。
また、次回からようやく?真実編を始めていこうと思います。
どんなペースで更新していけるかは正直分かりませんが、今後とも応援いただければ幸いです。
愛しの騎士が帰宅したのはその日の夕暮れだった。
玄関の方からバンの声がしたと同時に全速力で向かうとそこにはいたっていつも通りの表情を浮かべた金髪エルフの姿があった。
「バ、バン! おいどうするんだよやられたぞあのバカ王女に!」
俺が興奮冷めやらぬ状態で口早にそう告げるとバンはにこっと薄っぺらい笑みを浮かべて俺に静止を求めた。
言いたいことは分かっているから落ち着けと目で訴えかけてくる。
「落ち着いてください主。その件で今日彼女にはたっぷり言っておきましたから」
「よ、よかった。でももう王都にも大分流出しちゃってるもんね」
「俺たちの絆はあんなものではないとみっちり指導してきましたので、次巻をお待ちください」
「そうだよね、俺もそう思う・・・。今なんて言った?」
何か聞こえた気がして俺が再び聞き直すと、バンは「何かおかしなことを言いましたか?」と言いたげに首を傾げた。
「いえ、俺と主の関係をもっと明確に書き表していただくために主について語ってきました」
「待てっ! え、あれ? 俺がおかしい? ちょ、いや、その」
余りのことに考えがまとまらない。
俺はてっきりバンがあのバカ王女に執筆を中断させるものだと思っていたが、現実はどうだ。
こいつも乗り気だ。
「いやバンはまとも枠であってくれよ!!!!」
そして頭を抱える。
そういえばエルフたちにまともな奴はいないんだった。
俺はいったい何を期待していたのだろうか。
足元が崩れ去っていくような感覚が全身を襲う。
「俺はまともですよ? 主と俺が物語の世界で生きるって素晴らしいことじゃないですか」
「いやそうだけど内容! 内容がダメだろあれ!」
「まああながち間違ってはいないのでは?」
「おいバン! 口ぶりがヴェルみたいになってるぞ!」
「いえ、嬉しくてつい」
「嬉しいの!?」
「そのうちダニングも出てくると思いますよ。男三人の三角関係です」
「ダニングも!?」
ツッコミが追い付かず俺はとりあえずリビングへ向かうことにした。
もうこれ以上考えても頭が痛くなるだけだ。
「・・・・・分かったよ。まぁ、あれを見て俺たちがモデルだと判断できる人はそういないだろうからね」
俺がそう言いながら振り返るとそこには先ほどちょろっと名前が出た銀髪の従者がまたも無表情で俺のことを見つめていた。
・・・え、俺なんか変なこと言った?
「ヴェ、ヴェルどうしたの? そんな怖い顔して。というかいつからそこに・・・」
「いえ、名前が呼ばれた気がしたので来ただけです」
彼女は目を閉じたままそういった。
危ない、変なことを口走っていたら大変なことになるところだった。
「い、いや別に大したことはないよ」
「そうですか。それならいいですが・・・、ご主人様は一つ勘違いをなさっていると思いますよ」
「勘違い?」
「はい」
彼女に勘違いと言われ、一頻り考えを巡らすも特に何も思いつかない。
すると彼女は一つため息をついてバンを指さした。
「バンが今この国で、いえ周りの国も合わせたこの世界でどれだけ有名人であると思っていらっしゃるのですか」
「え?」
余りの事に言葉を失う。
いや、確かにバンはいろいろ外交をやったりしてるし王城にも出入りしているから有名だと思うけれど・・・。
いや、待て。王城に出入り?
これって普通じゃないよな?
「バンのこと、いえそれだけでなくアイナやルリやダニングの事を知らない者はこの世界において少ないですよ。それはハイホルン王国でもジランド王国でも変わりません。少し麻痺なさっているようですが、特にこの者たちはこの国の中心人物だったのですよ」
「・・・・・・・・」
そういえばそうだった。
この家で再び共同生活を送り始めてから忘れがちだったけれど、このエルフたちは相当やばい奴らだった。特にアイナなんかはもう威厳のカケラもないから忘れていた。
ルリとももう何度も共に依頼をこなしているが、受ける視線ももう普通なものだと慣れてきてしまっている。
「ですので、あのモチーフがバンだと気づかぬものは少ないでしょうね。・・・これから頑張ってください」
そして彼女はそう吐き捨てると踵を返して去っていった。
俺が再びバンの方を見ると
「まぁ、面白いですしいいんじゃないですか」
とバンが笑ったので俺は軽く腹を小突いた。
その晩、この話が夕餉の時間の酒の肴になったことは言うまでもない。
それでも、皆で笑いながら食べる飯は本当においしく、心の芯まで暖かくなった。
このままこの日常がいつまでも。
そう願わずにはいられなかった。
前に蓋をした現実と向き合わなければならない時は必ず来る。
たとえそうなったとしても、俺は変わらずエルフたちと笑いあいたい。
そう思いながら口にしたスープは、どこか苦く感じた。




