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56.フラッシュバック

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。

王城を出てようやく街に出ることのできた俺とバンは商店街の活気に身を任せてぶらぶら歩きまわっていた。やはり城下町ともなると活気はうちの国に勝るとも劣らないし、その場にいるだけでどこか気が高ぶるような感じがハイホルン王国では見たこともない魚や薬草でさらに勢いずく。


何かお土産に買っていったらダニングやシズクは喜ぶだろうか。

いや、シズクに珍しい薬草とかをもっていくと変な薬とかを作って大変な目にあわされそうだからやめておこう。もう一度経験済みだ。


「なんとかなりましたね。ご協力ありがとうございました」


そんな空気を楽しんでいるとバンが少し悩まし気な顔で俺に話しかけてきた。

俺の横を歩くエルフの方を向くと厄介ごとが何とかなったといわんばかりの笑顔で俺の方に微笑んでいた。


「まぁいいんだけどさ、あの反応はちょっと予想外だったな」

「ですね。・・・彼女の新しい扉を開けてしまいましたかね」

「多分ね。可哀そうに、こっから暴走しないといいけど」

「その時はまたお願いします。主もあそこまで言い返すとは思っていませんでしたけど」

「なんかクレアに似てたからいつもみたいに言い返しちゃったよ。なんかあったらフォローをお願いね、俺はどうしようもできないから」


他人事のように先ほどの出来事を振り返っていると目の前に人だかりができているのが見えた。どうやらそこは魚市場らしく、近づいていくと巨大な魚が店の外に吊るされていた。今から解体ショーをやるという店主の大きな声が俺たちの方まで届いてくる。


「なんだろうあれ。・・・って見て見てバン! すごい大きい魚が吊るされてるよ!!! 行ってみよう!!」


そういって俺は人だかりの方へと走っていく。

さすがは海に浮かぶ島国というべきか、こんな状況は王都で体験したことがない。はやる好奇心で足に力が入る。


「ちょっ待ってください主、焦るところ転びますよ!」

「早く早く!! ほら、急いでバン! こんなこと王国じゃ滅多に見れないよ!!」


俺はバンの警告を無視して俺は笑顔でその人だかりへと走っていく。

そんな俺を見てバンがどこか悲しそうな顔をしたのが一瞬見えた気がしたが、そんなことは目の前のものに対する好奇心ですぐに隅へと追いやられてしまった。


 *********


『早く早く!! 急いでくださいバン! すごいですね、ハイホルン王国ではあんな魚見たことがない!!』

『お、お嬢様お待ちください、はしたないですよ!! もっと周りの目を・・・』

『はしたない? ふふ、そんなもの好奇心の前では目障りでしかないです! ゴミ箱に入れて燃やしてしまいなさい。ゴミゴミ~♪』

『いや立場をお考え下さい、お嬢様ーー!!! ちょっ、後で怒られるのは私なのですが!?』

『バンは真面目過ぎなのよ、もっと私のように柔軟になりなさいな』

『いやお嬢様が奔放なだけですって!! 王女としての自覚をもっと・・・』

『あーあーあー、何も聞こえなーい。そんなに止めたかったら私を捕まえてごらんなさいな、ほーれほれ』

『あーっ、もう!!!!』



百年以上前、俺は同じようなやり取りを経験したことがある。

今と違う点は、目の前を走る人物が違うということ。

そして、俺の姿が違うということだ。


百年前、俺は人間の姿でこの街を訪れていた。

主が開発した『人間の姿になれる薬』を飲み、およそ百年前のハイホルン王国の王女様に仕える護衛として。


「早く早く!! ほら、急いでバン! こんなこと滅多にないよ」


主が俺の方を向いてそう笑った瞬間、なぜかかつて俺が愛してしまった女性が重なって見えてしまい忘れたくても忘れられない過去がフラッシュバックした。


なぜか重なるその雰囲気。

多分俺はあの人に、当時いなかった主の事を重ねて見ていたのかもしれない。

あの人の雰囲気はどことなく主に似ていたから。


そういえばそうだった。

何も考えていないようで本当は誰よりも周りの事を想っていて、かと思えばたまに子供のような振る舞いを見せて。かつて彼女は一度こうつぶやいたことがある。


『私が国王になったときは、不平等を全部なくしたいわ。一度エルフの奴隷市場を見学に行ったことがあるけど・・・あれは無くした方がいいわね。私一人では流石にどうしようもできないけれどバンはどう思う?』と。


俺の心の中で輝く二つの光。

だからこそ俺は種族が違うにも関わらずそんな彼女のことを愛してしまったのかもしれない。


震える手を胸元に持っていき優しく押さえつける。

そこにはあの指輪がある。

叶わなかった誓いを込めたあの指輪が。


俺はいつになったらあの人の事を忘れられるのだろうか。

百年以上経ってもまだ忘れることができない。

あともう百年もすれば薄まるだろうか。


・・・主がこうして転生に成功したことで嫌でも思い知らされてしまう。

転生できるのはあの魔法を使うことのできた主だけだと。


でもどこか希望を持ってしまう。

もしかしたら彼女も何らかの奇跡で転生できているんじゃないかと。


自分でも分かっている、そんなことは起こらないぐらい。

ただ今日だって思い出の場所に訪れただけで、ここにあの人がいるような気もしてくる。そして俺は馬鹿だから探してしまう。

もう居るはずもない彼女のことを。


俺が手を下した彼女のことを。


「バン!!! 立ち止まってないで早く!!!! どうしたのさ急に」


主が俺を呼ぶ声に呼び戻されるように現実世界へと戻ってくる。

顔を上げるとそこには不思議そうな顔をした主が俺の手を握っていた。


「好奇心は時間が命なんだ。早くいくよ!!」


そして俺の手を引っ張って駆けていく。


「・・・はい、行きましょう」


俺はせめて、この手だけは絶対に離してたまるものかと思い主の手を強く握った。

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