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53.食べ物の恨み

もう少し日常話が続きます。

その日はひどく暑い日だった。

外に生い茂る木にはたくさんのセミがまとわりついてその存在感をこれ見よがしに主張し、体を引き裂くような熱を上空に浮かぶ真っ白な太陽が吐き出し続けていた。

そんな中王都を歩き回り疲れ果てた俺が家に帰るや否や飲み物をと、冷蔵式貯蔵庫を開けるのは至極当然のことであろう。ましてやそこにおいしそうなプリンが「私を食べて」と言わんばかりに輝いていたらそれはもう食うしかないだろう。


俺は悪くない、悪くない。

いや確かに外装がえらい豪華だな、とかなんかエルフ文字が書いてあるなとは思ったけどまさかここまで大ごとになるとは・・・、ねぇ。


「えー、今なら私の楽しみにしていた超高級プリンを食べたものを少しの罰で許して差し上げます。だから早く名乗り出てください」


もはや恒例である、皆がそろった夕食の場で金髪碧目のエルフがそう叫んだのち机をたたいたが名乗りを上げる者はいなかった。

俺はぐっと拳を握り息をひそめることしかできない。

疑いの矛先がこちらを向かないことを祈って。


「私じゃねえぞ。甘いものは苦手だしな」

「俺もだよ。というかアイナの食べ物に手出しをしたら大変なことになることくらい俺が一番知ってるさ」


黒髪のエルフと、金髪の男性エルフがそう言うと怒りに身を震わせている体の起伏に乏しいエルフは理解したようにうなずいて見せた。


「はい、私の中で容疑者は三人です。ルリかヴェルさんか、フィセル様か」


おっと、やばい。

どんどん外堀が埋められて行っている気がする。

俺は誰にも見られないように拳にぎゅっと力を入れた。


「そういえば、今日の昼にご主人が厨房に来て・・・」

「どわっ!!! ダニング、ストップそれは気のせいだ!! 多分暑さに負けて見えた幻覚か蜃気楼だ!!」

「いや蜃気楼はこんな室内では・・・」

「いいから!!!!」


そんな焦りを知ってか知らずか、茶髪で大柄のエルフが俺の方を見て何か大変なことを口走りかけたのを察知して直ぐに握っていた拳を開いて口をふさぎにかかる。

頼むよ、仲間だろ。

とアイコンタクトを送ったが気づいてくれているかはわからない。


「私は違いますよ。第一ここにいるエルフたちはアイナの食い意地のすごさは身をもって知ってます。となるとこんなバカなことをできるのはここ200年の記憶のない誰かさんしかいない気がしますね」

「私も違うよ!! 今日は一日任務に行っていたから!!」


え? なにそれ本当に知らないんだけど。

アイナってそんな食い意地張ってるの?

こんなかわいらしいエルフが?


俺の記憶にはそんな情報ないのだが。

というかもうみんなの中で犯人が一人に絞られているみたいなんだが。

まてまてまて。


「・・・フィセル様? あなたなんですね犯人は」


あ、詰んだ。

そう思ってからの俺の口の動きは自分でもびっくりするほどだった。

本能も理性もこのままだとやばいと泣き叫んでいる。


「いや、それはその、知らなかったというか、わざとじゃないというか、たまたま! そうたまたま目に入っちゃって・・・。不可抗力! 不可抗力だよ!! あれ? い、いつもの温和なアイナはどこに行ったの? なんか目が騎士団長の時のそれなんだけどねぇ!? ちょっ、待っ!!!」


「たとえ私が敬愛するフィセル様とは言え、今回の件に関しては許せません!! 天誅です!!」


「ひぎゃぁあああああああ!!」

こうして俺ことフィセルは、日中浴びた太陽の光よりもきつい魔法を元・騎士団長であるアイナに浴びせられるのであった。


こんなのどかな毎日が、俺たち7人の日常だ。


*************


「そう怒るなよアイナ。プリンなら俺が作ってやるから」


「違います!! あれは今日限定の特別なプリンなんです!! ほ、本当はみなさんの分を買ってきたかったんですけど一人一つまでで・・・」

「おーい、生きてるかご主人。回復薬飲めるか? にしても傑作だなおい! まさかアイナのモンを食べる怖いもの知らずがいるとはな」


「あ・・・・、あ・・・・」

「全く仕方のない人ですね。ほら、ゆっくりでいいですから」


丸焦げになった俺の口元にヴェルが回復薬を流し込んでくれる。

さすが俺が調合した回復薬なだけあって飲んだそばからどんどん傷がいえていく。

一瞬花畑と綺麗な川が見えたけど何とか帰ってこれたみたいだ。


「お兄ちゃんは知らなかったんだね。アイナお姉ちゃんの食い意地のやばさを。私も一度丸焦げにされてるからその気持ちは痛いほどわかるよ。あの時川の向こうには『たま』がいたなぁ」


ヴェルの膝枕で寝かされている俺を上から遠い目をしたルリがのぞき込む。

ってことはこの中にも何人か被害者がいるのか。

と思っているとルリが物凄く遠い目をして昔を振り返るように目を顰めた。


「うん。まさかこんな子だとは思ってなかったよ」

「ちょっ、フィセル様どういうことですかそれ!?」

「おい、アイナ俺の話の途中だ!! 俺に作れないものがあるとでもいうつもりか!?」

「そうですよ、あれは王都でも有名な超希少な代物なんです!! いくらダニングでも無理ですよ!!」


そして少し離れたところでは俺を丸焼きにした犯人と料理人が何やら騒がしく言い争っているのが聞こえてくる。

内容は料理人のプライドが先走っているだけのようだが。

ダニングもこと料理のことに関してだけは、かなり強情になる。

それは俺でも知っている。


「じゃあ俺が作ってやるよ。俺の腕をなめるんじゃない」

「落ち着きなよ二人とも。それにさすがのダニングでも食べたことのないものを作るのは無理なんじゃないか?」

「なんだ、簡単なことだ。俺がその店よりも上手いものを作ればいいだけだ」

「え゛っ」


そんなダニングを双子の兄が落ち着かせようとしていたが失敗に終わったようだ。

目を丸くした素っ頓狂なバンの声が家に響く。

あ、これ駄目なパターンだぞ。

多分この先1週間の全食事がプリンになるパターンだ。


「ちょっと待て! 私は甘いものが食えねえって言ったばっかだろ。このまま行ったらダニングの気が済むまで毎日プリン漬けになっちまうだろうが!!」


「そうですね。シズクは味の好みがおっさんですから。あ、少し言葉足らずでしたね。大酒飲みおやじの味覚です。油ものと塩っ辛いものがお好きでしょう?」


「・・・おい、それはどういうことだヴェル。私がおっさんだと? ま、酒を一口飲んだだけで酔いつぶれるお前には一生理解できないかもしれねえな。いっつも酒を飲んだら『ご主人様ぁ』ってデレデレになるもんなぁ」


「はい。おっさんです。あと人がお酒を飲めないことを悪口にするのはよくないことですよ。それはご主人様が童貞であることを馬鹿にするのと同義です」


そしてどうしてこっちでも言い争いが始まってんだ?

なんでヴェルはシズクにケンカを売るんだよおい。

いや、多分この前シズクと添い寝したことがばれたからな気がする。

あの一件がヴェルにバレてから少しヴェルのツン度が増した気がするし。


・・・なんだよツン度って。

てか今さらっと俺の童貞を馬鹿にしなかったかこいつ。

馬鹿にしたよなぁ? なぁ!?


「っていうかなんでプリン一つでこんなことになってるんだよ、何このしょうもない戦い!? 俺らの絆はプリンで崩壊するの!? 何百年もかけて培った信頼関係はプリンに負けるの!?」


「いや、元はといえばフィセル様が勝手に私のプリンを食べなければこうはなっていないのですが・・・」


アイナから正論パンチが炸裂するが、俺は受け流すことしかできない。

するとバンがそろそろどうにかしようと俺たちの仲裁に入り、シズクへと視線を向けた。


「というかシズクなら簡単に手に入るんじゃないか? 確か経営しているのはエルフだし権力を使えば・・・」


「確かにな。最悪買収してもいい」


あぁ、やっぱりこういう時はまとも枠のバンが輝いて見えるな。

目の前で膨大な金と権力が動いているけど俺が助かるなら何でもいいや。

というかシズクさんは本当に王都で何をやっていらっしゃるのでしょうか。


「いや、俺はあきらめないぞ!!! 必ずこの国で一番うまいプリンを作って見せる!!!」


まとまりの「ま」の字もない中でたくさんの声が飛び交う。

というかよく考えてみるとやっぱりこの6人のエルフたちはいろいろとおかしいよな。


少し前まで騎士団長で今も要請がよくかかる凄腕のエルフに王女の護衛をも任されよく他国にお呼ばれする男性エルフ、そしてこの国で右に出る者はいない腕を持つ料理人に、数少ないSランク冒険者。

後の二人は今のところ明確な情報はないが、恐らく何かしらの権力や地位は持っているに違いない。

再開したときに、彼らの総資産は俺が持っていたそれの倍以上と言っていたのを今でも覚えている。


そして一日ごくわずかの時間しかまともな魔法が使えない凡人の俺。

はては勝手にプリンを食べて皆に怒られる始末だ。

200年前は俺がみんなの命を救ってそれはもう慕われていたものだがだんだん薄れてきている気がしなくもない。ヴェルなんかひどいもんだ。

いや、彼女が俺を弄るのは昔から変わらないか。


そして今でもこのエルフたちや過去の俺がまねく面倒ごとにたくさん巻きこまれる。だけどまぁ、俺が思い描いた理想像にはどんどん近づいて行っているしこの生活はつまらなくないから良しとしようか。


さぁ、明日はどんな日になるのだろうか。


「あ、それはそうとあるじ。明日予定は開いていますか?」


 ・・・どうやらこの双子(兄)のエルフと過ごすことになりそうだ。

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