表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/71

48.元騎士団長の謀り

「ほらそこ!! もっとシャキッとしてください!!」


 押忍っ!!


「そこも剣筋が乱れてる!!」


 はいっ!!


 俺は今、王城の近くにある広い広場で俺ことフィセルは数十人の見習い騎士と一緒に剣の素振りをしていた。一緒にといっても俺だけ列から一人離れて素振りを行っているがやっていることは騎士団の人たちと同じだ。周りの騎士たちはやる気に満ち溢れており注意されても元気の良い返事を返せているが、俺はもう満身創痍で立っているのがやっとなのに前からも後ろからも声が飛んでくる。


「フィセル様遅れてますよ!! ほらもっと型を意識して!!」

「わ、わかって、るって、ぬがぁあああああ!! 動け俺の腕!!」


 これは後ろの金髪エルフから。


「そこ、うるさい!!!!」

「ふぁ、ふぁい・・・」


 そしてこの罵声は少し前の方にいる王女から。


 ・・・どうしてこうなった?

 何でおれは今剣を振らされているんだ?

 とめどなく溢れる汗と徐々に薄れていく意識。おおよそ一度も使われたことがないのではかと思われる全身各所の筋肉は悲鳴を上げもう無理だと俺に主張してくる。

 やばい、まじで気を失いそうだ。


 そんな朦朧した意識の中で自我を保つために俺は今のこの現状の原因の一人である女性をにらみつける。見習い騎士たちの前で腕を組み先ほどから檄を飛ばしている、この間少し口論になったクレア王女を。


 そしてちらっと後ろを見るとアイナがいつもとは違う真面目な顔で佇んでいた。


「フィセル様、集中してください。今チラっとこっち見ませんでしたか?」

「み、見てないよ・・・。というかもうそろそろ限界なんですけど」

「あと少しで終わるので頑張ってください。剣を上達させたいと言っていたのは他の誰でもないフィセル様です」

「ぬぎぎぎぎ、ここまで真面目にやるつもりは・・・」

「ほら、一、二!!」


 アイナが真剣な表情で手をパンパン叩き俺を急かしてくる。

 まさかアイナが騎士団内で豹変するとは思ってなかった。

 これじゃ鬼教官じゃないか。まだ俺の学園時代の体育教師の方が優しかったぞ。


「ぬがぁああああああ!!!!」


「だからうるさいフィセルさん!!!!!」

「またクレアに怒られてしまいましたね、でもあと少しです頑張ってください」

「くっそ、あいつまじで許さねえからな・・・!!」


 いや、こうなったのはクレアだけが原因じゃない。

 だんだんと薄れていく意識の中、俺はこんな事態になったもう一つ原因である今日の朝の事を思い出していた。



 ********



 この日の朝も俺は双子のエルフとともに朝から体を動かしていた。

 いつも通りに体を軽くほぐした後、剣の素振りをアイナたちに見てもらい余裕があれば手合わせをする。もう習慣になりつつある朝の運動だ。


 いつも通りのメニューを終え、地べたに座りながら水を飲んで汗を拭く。

 この日はバンが朝から用があると言って早々に小屋に戻ってしまったため俺とアイナで朝の心地よい風で涼んでいたのだがそこで俺は一つ、疑問があったのだ。


 今日の朝からずっと抱えていた疑問が。


「・・・アイナ、今日なんか機嫌が悪くない?」


 朝の挨拶の時点でややふくれっ面で、剣の指導もどこか冷たい。

 だがこれと言って心当たりがなかった俺はずっと疑問だったのだ。

 そもそもアイナは機嫌が悪くても頑張って隠すタイプだし、ここまでわかりやすく態度に出すのは珍しかったから。

 そんないつもよりも不機嫌に見える金髪碧眼のエルフはニコッと俺でもわかる作り笑いを顔に張り付けて振り返った。

 うん、やっぱり機嫌が悪い。


「そんなことありませんよ。ただ最近ルリと共に行動しているのが多いなぁと思ってはいますけどね」


 怒ってるー・・・。なんなら嫉妬してるー・・・。

 なるほど不機嫌な理由はこれか、一応俺でも何となく分かったぞと少し緩みかけた頬に力を入れて何とか持ちこたえる。というか待て、これ選択肢間違えたらやばいやつか?

 この間冒険者ギルドで行ったルリとのやり取りを思い出す。

 うちの女性エルフたちは少し取り扱いにくい節があるから細心の注意を払わなくてはならない。


「た、確かにライセンスを取ってからは一緒に行動することが多くなったけどさ・・・」


「フィセル様はこの間『ルリの活躍を見るために冒険者ライセンスを取った』と言っていましたね。そして最近はよくルリについていっているという事なんですね」


「まぁそうなるね。やっぱ冒険者ってすごいなぁって感心させられるよ。・・・もしかして嫉妬してる?」


「べっ別に私の活躍をフィセル様にもっと見てほしいとか、フィセル様と二人で居たいという事ではありませんよ!! ・・・も、もう少し構ってほしい気はしますけれど」


 いや、へたっぴか。

 というかアイナってこんなキャラだっただろうか?


 つーんとそっぽを向いてはいるがエルフ特有の長い耳が真っ赤に染まっているのが分かるし、なんならぷるぷる震えているのも何となく見える。やっぱり相当無理してるようにも見えるし、そこも含めて今のアイナはめちゃくちゃ可愛い。どこぞの飢えた狼とは大違いだな。


「きょ、今日も私はこの後騎士団に行って指導をしに行かないといけないんですけどね!! あー、忙しい忙しい」


 そしてとどめの一撃にこの発言である。

 どうしたんだろうか、本当になんか変な本でも読んだのだろうか?

 何か変なものでも食べたのだろうか? ダニングは絶対に変なものを食べさせたりしないからルリやシズクあたりから変なものでも渡されたのかも知れない。うん、あの二人ならやりかねないな。


 だが確かによく考えてみれば俺はアイナが騎士団長として活躍しているのはあの特別授業でしか見たことがないし、今騎士団でどんなことをやっているのかは知らない。

 見ておくのはいいことかもしれないな、とは思う。アイナも見てほしいみたいだし。


「わ、わかったよ。今日はアイナについていこうかな。アイナの仕事っぷりが見てみたいし。いや、邪魔なら別にいいんだけど・・・」


 なんとなく照れ臭くなって頭をかきながら零した俺の発言を聞くや否や彼女はバッと振り返り俺の両手をがっしりとつかむ。さっきまでの表情はうそのように満面の笑みだ。


「本当ですか!? じゃあ行きましょう!!!! ほら早く準備してください!!」


「え、ちょ待ってよ早いって!!! えぇ、もしかして俺選択肢間違えた!?」


 おおよそこんな感じで俺はアイナによって荷物がごとく騎士団の訓練場まで担ぎ込まれ、そこで遭遇したクレアの提案でこうして剣を振らされているに至るというわけだ。

 絶対八つ当たりだ、そうに違いない。彼女は俺がバンやアイナと仲良くしているのが不服みたいだし。


 そしてここに来るまでに聞いた話によるとあのへたっぴな駆け引きはシズクに教わったものらしい。どうりでぎこちなかったわけだ。

 つまりはこうなったのはシズクの所為でもあるということになる。


「じゃあ今からラスト100本、声を限界までだしていきましょう!!!」


 薄れゆく意識の中で、この地獄が終わる声ないし大体の元凶であるクレアの声が俺らに向かって大声で叫ぶ。他の騎士団員の人たちもまた大声と共に「はいっ!」と答えるが俺はもう剣を持っているのが限界だ。


「フィセル様頑張ってください!! あとちょっとです!!」

「ほらそこフィセルさん!! さぼらないでください!!!」


 アイナもクレアもそんな俺の状況を知っているだろうに追い打ちをかけてくる。


「ぬがぁああああ!! クレアもシズクも絶対許さねえからなぁ!!!!!!」


 俺の虚しき叫びは頭上に広がる雲一つない、清々しい青空に響いた。


 ***********



「お疲れさまですフィセルさん。どうでしたか騎士団の『準備運動』は」


 アイナによって木陰の下まで運び込まれた俺に嬉々として近づいてきたクレアは嬉しそうな顔で綺麗な赤髪を靡かせながら俺にそう告げた。ちなみに俺はと言うと、もう体中の汗が出尽くして干からびた干物みたいになり小刻みに震えるのが限界であった。


「じゅ、準備運動・・・? これが?」

「はい。周りを見渡してもらえばわかると思いますけど今ので干からびてるのはフィセルさんくらいですよ」


 確かに、周りの騎士団員は水を飲みながら楽しそうに談笑しているがこちらとら現在進行形でほぼ引きこもりなんだ、一緒にしないでほしい。


 と言いたいところだったのだが喉がカラカラすぎて声が出なかった。

 最早反論する気力すら残っていない。


「お疲れ様ですフィセル様。これ飲んで休んでください」


「あ、ありがとうアイナ・・・」


 そんな俺にアイナは水を手渡してくれる。

 口から流し込んだその冷たい水は、体の隅々にまでいきわたり干からびた細胞が潤っていくように感じた。これが甘露水と言うものか・・・。


「ぶっはー、生き返った!! それにしてもクレア、これはひどくないかい? 王女権限をこんなふうに乱用してもいいのか?」


 干物からようやく蘇生した俺は、未だなお嬉しそうな顔をしているクレアを指さす。元はといえばこの王女によって俺は無理やりさっきの素振りに参加させられたのだ。あんな他の騎士団員の前で言われたら断れるわけないだろ・・・。アイナも止めてくればよかったのに。


「かねてからフィセルさんには一度騎士団を少しでも体験してもらおうと思っていましたので。そうすれば騎士団長の凄さを身をもって知ることができるですもんね、いい機会でした」


 いや鬼か。

 そしてクレアは俺のことを目の敵にしてるんだなこれ、これで完全にわかった。


 逆恨みみたいなもんだけどまぁ言い分も分かるっちゃあ分かるから俺をこんな目に合わせたことは目をつむってやろう。彼女からしてみればバンやアイナを取られた気分なのだろう。なんとなく気持ちはわかる。


「それで? フィセルさんは今日何しに?」


「いや本当はアイナの勇姿を見に来ただけだったんだよ! そしたらこのザマだよ!」


「なるほど、わかりました。ではこの後はご自由にお過ごしください。アイナさん、そろそろ休憩が終わりますので私たちは行きましょう」


 そしてこの対応である。

 いや、流石の俺でもちょっと頭にくるぞこれは。

 もう許さんぞ、クレア。

 先ほどの言葉は撤回させてもらう。


「ではフィセルさんは・・・」


「もういい、バンに悪評ばらまいてやる」


 俺は自分でもガキ臭いと思う反撃の一手を打つことにした。

 クレアがバンに心を寄せているのはもうこの間のお茶会でわかっている。

 というか今考えるとよくそんな状況で俺にちょっかいかけれたな、この王女は。

 俺がバンやアイナとは深い関係を持っていることは前回でわかっていただろうに。


「え? えーっと、それは・・・」


 視線が泳ぎあからさまに焦り始めるクレア。

 あっ、やっぱりこの王女はアホの子だ。

 これは畳みかけるチャンスに違いない。


「いーのかなぁ、バンは俺の言う事なら信じてくれると思うけど。そしたらクレアはバンに嫌われること間違いなしだねぇ」


「バンさんに・・・嫌われる・・・? そ、そうだ! アイナさんは私の味方ですよね・・・?」


 顔面蒼白のクレアは苦し紛れにアイナに助け舟を求め始めた。

 だが勿論、


「いや私はフィセル様の味方ですよ普通に」

「そんな・・・・」


 完全勝利だ。

 というか俺もバンを餌にすればこの王女を操るなんて容易いことに早く気づけばよかったな。

 

「でも、今回ばかりは許してあげませんかフィセル様」


 だがそんな超優勢な戦況の中、アイナが優しそうな顔で俺の手の上に彼女の手のひらを重ねた。

 そして助け船に縋りつくようにクレアも再び勢いを取り戻す。


「そ、そうですよ! まさかフィセルさんがここまで鬼畜だとは思っていなかったので!! こんな乙女の純情で儚く高貴な恋心を踏みにじって!!!」


「いや君だっていたいけな少年に無理やり訓練に参加させてるからね!? 同じようなものじゃないか!」


「違います!! あなたの場合は私の心を傷つけました!! これは肉体的なダメージを負わせるよりもはるかに罪なことです!!」


「いや肉体的ダメージは精神的ダメージを伴うからな!? 俺のガラスの心はもうぼろぼろだから!!」


「そんな風に軟弱だからいけないんですよ!! バンさんを見習ってください!!」


「あー、今の暴言で俺に精神的ダメージが入りましたーー!! これはもうバンに報告だなー!」


「ぬぐぐぐぐ、バンさんを盾に取るとは卑怯者め・・・」


「ふははは、何とでもいうがいい! もう君は俺に弱みを握られているのだよ!!」


「フィセル様、そうやって自分が有利になると調子にのるのは悪い癖ですよ。いつか足元をすくわれます。というか二人、仲良いんですね」


 俺が満足げな顔をしていると、アイナから剃刀のような指摘が入る。

 その役割はヴェルのはずだろ・・・? と少し困惑するがアイナにじっと見つめられるとそんな煩労をする気も失せる。というか俺に正論パンチする奴がこれ以上増えられたら俺のメンタルが持つかどうかわからないんだけど。


「ぐはぁ! って、え? アイナってそんなキャラだっけ、ヴェルみたいになってるよ!?」


「べ、別にフィセルさんとは知り合い以上友達未満です!!」


 そして今の出確信したがやっぱりアイナって騎士団の時は性格変わるみたいだ。これが外行きの姿なのかもしれない。いつものドジっぷりは鳴りを潜めている。

 どうせ家に帰ったら元に戻るんだろうけど。


「ヴェルさんと似ている・・・ですか? 別に意識はしていませんね。あと私たちの休憩時間がそろそろ終わるので私とクレアはここで失礼しますね」


「うん、そうだね。じゃあ今日この後はここで見学することにするよ。頑張ってね二人とも」


「そうですね、もう戻ります。じゃあよろしくお願いしますよフィセルさん」

「では行ってきますねフィセル様。私の仕事っぷりを見ていてください」


 俺はそう言って背を向けた赤髪と金髪の女性二人を見つめる。

 人間とエルフの二人を。

 おそらくクレアはバンやアイナの事を相当尊敬している。


 そしてこの関係は彼らが200年かけて作り出したものなんだ。

 だけど、


「人間とエルフが共存出来ているなんて最高じゃないか。なのになんでグエン王子とか言うやつは・・・」


 俺は先ほどアイナの手が重なった拳を強く握りしめて誰もいない空に向かいそう呟いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ