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45.冒険者たちの昼下がり

「・・・冒険者ギルドってこんな騒がしかったっけ」

「うん、いつも通りだよお兄ちゃん」

「いや、絶対違うだろ。絶対ルリの所為だからな」

「何言ってるのさ。なんで私の所為なの?」


「ルリが俺にずっと抱き着いてるからだろ!? いい加減離せ・・・、このっ!!」


「離さないもんね! 今お兄ちゃんにマーキングしてるんだから。他の女に取られないように。それにあの家でラブラブしてるとお姉ちゃんたちが煩いから今しかないの」


「だからそのせいでみんな俺らの方見てるんだって!! ちょっ、ぐぬぬぬ」

「お兄ちゃんの力じゃ無理だよ」


 今騒いでいる俺ことフィセルは今俺を背後から抱き続けているエルフとともに冒険者ギルドに来ていた。理由としては俺が冒険者登録をするためと、ルリが今日の分の依頼を受けるため。


 ルリは先ほど掲示板から今日受ける分の依頼を選んだようで手に持っているが俺は今から登録をしなければならない。そのために今受付の順番待ちをしているところなんだがギルドに入る前からルリが俺に抱きついている所為でもうみんなの視線は俺らに釘付けだ。


 ただでさえ普通の男女が冒険者ギルドに内でいちゃついてるだけでも白い目で見られるだろうに、ルリは冒険者の中でもかなり有名人だからもう注がれる視線の凄いこと。


 何度も剥がそうと試みたけれどルリの馬鹿力には勝てるわけもなく諦めて列に立っているのだがその間も視線だけでなくいろんな声が聞こえてくる。


「なんであの『一匹狼』が他のやつと?」

「そんな、ルリ様に男が・・・!?」

「わ、私あの男の子見たことあるよ! 前もルリ様に抱き着かれてたわ・・・」

「いやどうせ財布だろ見るからに弱そうだし」

「それもそうね。ルリ様があんな弱そうな男選ぶわけないもの」


「つーかあの魔力量じゃ冒険者にすらなれねえだろ。まじで何しに来てんだ?」

「5歳児のほうがあるんじゃないのー。ふふっ!」

「あっはっはは、俺んとこの子供のほうが強いぜ多分!! まだ7歳だけどな!!」


「もしかしたら強い女って弱い男に惹かれるのかな」

「弱みでも握られてんじゃねえか、あの狼」

「いや、でも狼ならそんなこと気にせずぶっ殺すだろ」

「そうだな。餌かなんかだろ」

「狼に餌ね・・・。確かにそうかも」


 ・・・ひどい言われようである。

 いや俺が弱いのは事実なんだけどさ、もうちょい希望的観測を持ってくれたっていいじゃないか。


 それに今ちらっと聞こえてきた『一匹狼』ってなんだよ。

 みんなかっこいい二つ名持ちすぎでしょ。

 どうせバンやアイナもカッコいい呼び名があるんだろうな。


「な、なぁルリって一匹狼って呼ばれてるの?」


 そして俺は今も後ろで首筋に鼻を当てているルリに聞いてみることにした。

 俺は生まれ変わったとはいえ未だ18歳。

 そういう二つ名に憧れるお年頃なのだ。仕方がないと言ってくれ。


 精神年齢はもっと上だろって? そこは目をつむってほしい。

 二つ名は男のロマンなんだから。


 思えば冒険者バージョンのルリの目つきは鋭いし、艶々の茶髪も相まって狼に例えるのは間違ってない気がする。何より今のこの俺らの体勢が捕食しようとしている猛獣そのものだ。

 端から見たら餌と飢えた狼にしか見えないのかもしれないな。

 あ、だんだん張本人の俺にもそう見えてきた気がする。


「ん? 勝手に他のヒトがそう呼んでるだけだよ。最初の方にいろんな人から一緒にパーティ組まないかって言われ続けたんだけど全部断ってたらそういう風に呼ばれるようになっただけ」


「なんで断り続けたんだ?」


「だってみんな私よりも弱いもん。それにお兄ちゃんたち以外を仲間と思いたくない」

「な、なるほど・・・」


 ちょっと気恥ずかしくなった俺がルリから視線を外したと同時に俺は謎の寒気に襲われた。

 それは俺以外の冒険者も感じ取ったようで急にギルド内が静まり返る。

 間違いない、この寒気の正体は・・・。


「どうしたの? もしかしてあいつらが言ったことが気に食わなかった? うん、じゃあ私があいつら殺してくるからお兄ちゃんは列に並んでて」


「ちょちょっ、ストップルリ!!!」


 俺は首から離れかけた柔らかい腕を反射的につかむ。

 そのまま後ろを向くとさっきまでのアホ面はどこに行ったのか、凍てつくような視線と雰囲気を纏ったエルフが俺の後ろにいた。


「私もさっきから気になってたんだよね。あいつらお兄ちゃんを好き勝手言いやがって」

「いやそれ君の所為だから!?」


 マズイ、完全に目が冒険者モードだ。

 冒険者ギルドで再会したときと同じ猛獣のような鋭い目。

 背中に冷汗が伝っていくのを感じる。

 そして俺に回している腕さえも猛獣のそれに思えてきた。


「でも私とお兄ちゃんがラブラブしちゃいけない空気が流れてるのはおかしいよね? お兄ちゃんが馬鹿にされるのもおかしいよね? こういうのは一回わからせないと、知らしめてやらないと。私よりもお兄ちゃんが上だって。  ね?」


「ちょっ、おまっ!?」


「ツブレロ」


 刹那、ルリから悍ましいほどの殺気が放たれた。


 その場にいた冒険者はみな腰を抜かし、触ってもいないグラスや窓が割れる。

 中には呼吸もままならない者たちもいるようでもはや地獄絵図だ。

 被害はそれだけでは収まらず冒険者ギルド外までにも及び、野生の動物はこの世の終わりを悟って逃げ惑い、割れた窓からいろんな叫び声が入ってくる。


 その様子はあたかも魔王が突如冒険者ギルドに降臨したようだった。


「おいルリ!? 今すぐその変なのを抑えろ!!」

「まだだよ。あいつらまだわかってない」


 ルリはそう言ってさらに殺気を強める。

 俺には何も変化がないのだが、周りの冒険者たちのがさらに苦しみ始めてしまった。


「いやオーバーキルだよみんな泣いているじゃないか!」

「それくらいがちょうどいいよ。魂の根元まで恐怖がいきわたる」

「何言ってるの!? というか俺は特に何も感じないんだけど」

「当たり前だよ。お兄ちゃん以外に圧力かけてるんだから」

「なるほど、じゃなくて!! 早くやめなさい!!! その殺気を抑えなさい!!」


 さっきまでのかわいいルリは一体どこへ。

 かわいらしかった目つきももはや目が合った者すべてを凍てつかせるほどにギラついている。

 完全に頭に血が上ってるなこれ。


 多分今は亡き魔王もこの殺気を浴びせられたら腰を抜かしていたに違いない。

 それほどまでに今の冒険者ギルドは阿鼻叫喚であった。


 これをどうにかできるのは俺しかいない・・・!


「ほら、ルリいい子だ。なっ? 俺は気にしてないから今は好きなだけ俺に甘えてこい!!」

「えっ!?」


 俺はルリのほうを向き、魔王ルリに抱き着いて頭をなでる。

 これが効くかわからないがアイナが怒ったときはいつもこうして乗り切ってきたんだ。

 ルリにはどうだ・・・?


「ふわっ!? お、お兄ちゃん大胆だなぁ。うふふ!!」


 ・・・効いてる。

 よし、このまま撫で続ければ。


「お兄ちゃん急にどうしたの? そんな、私・・・」

「ほら、落ち着いて。俺はそんな怖い顔よりもいつもの元気なルリの笑顔が見たいな」


「そ、そう・・・。じゃあお兄ちゃんに免じて許してあげるね」


 ルリはそう言って指を鳴らす。


 それを引き金にして他のみんなもようやく普通の呼吸ができ始めたようでふらふらと立ち上がり始めた。中には咳き込んでしまっている人もいる。

 一体どんな圧力だよ・・・?


 なんで『気』だけでこんなことになるんだ?

 これがSランク冒険者の力なのか?


「もう、お兄ちゃんは優しいなぁ!!」

「そんなことないよ、ほら」

「むふふふふ」


 俺はようやく忠犬のようになったルリをなで続ける。

 さっきまでの獰猛さはうそのようだ。


「ルリが狼になるのも、犬になるのも俺次第か・・・」

「ん? 何か言った?」

「いや何も言ってないよ」


 こうして撫で続けているとようやく世界は何事もなかったかのように動き始め、活気を取り戻していく。

 だが俺やルリに向けられる視線や言葉はぱたりとなくなった。

 多分みんな関わったら終わると察したんだろう。

 完全に意図的に視線をそらされてしまっている


「そ、それでは次の方2番窓口へどうぞ」

「あっ、呼ばれたね。よし行こうか」


 それから少し経ったのち、受付に呼ばれた俺は後ろについてくるエルフの手綱だけはしっかりと握ることを胸に誓って呼ばれた方へと向かった。

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