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41.宿敵

「反エルフ思想!? なんでそんな!?」


「詳しい理由はわかりません。ですがこの話は王国でも割と知られている話でありますし、中にエルフ快く思っていない人がいるのは確かです。本当にごく少数ですけどね」


「なんでだよ!! 少し寿命や姿が違うだけでほかはほとんど同じじゃないか!!!」


 俺は思わず椅子の上に立ち上がってスミスさんを睨みけてしまった。

 この人は何も悪くないのに。

 頭に血が上りすぎている影響か、自分でも少し瞳がうるんでいるのが分かる。

 それでも怒りの感情の方が上だ。

 許せない、かつて俺のしたことが全否定されているようで。


「落ち着いてください。その反応は200年前に何かあったのですか?」

「・・・言えません」


「彼らの言い分としては寿命が違いすぎるから分かり合えないことが多い、自分たちの王国にそういった方が混ざっているのが快く思わない、エルフから嫌なことをされた過去がある。と言ったところですかね。あくまで私の想像ですしエルフがそのように思われているという話は聞いたことがありませんけれどね」


 エルフに嫌な事?

 ふざけんな、元は人間が悪いんだろ。

 200年前にひどい扱いをされたエルフたちはまだ生きているし彼らがどんな想いをしてきたか知らないんだろ。


 ・・・それか俺の知らない200年間に何かがあったか。


「そして恐らくですがグエン様は過去に何があったのか多少知っているようです」


「な!? クレア様やパトラ様でも知らなかったのに?」


「はい。彼に伝えた愚か者がいるか、彼が自力でたどり着いたかは不明ですけどね」

「・・・いくつか質問です」

「どうぞ」


 俺はゆっくりと椅子に座りなおして目線だけスミスさんに向ける。

 態度を悪くしたのは俺なのに彼は優しく促してくれた。


「もし、そのグエン様が過去を知って今のようになってしまった。と言われたら過去を知るあなたは納得しますか?」


「・・・それはノーコメントでお願いします」


「では次に、今生きている50歳を超えた人間の方たちはどこまでの過去を知っていますか?」


「どこまでですか? そうですね、私が過去に学校で習ったのは今から100年前くらいまでです。そしてその頃も、さらに過去についての情報は一切ありませんでした。・・・なにかお気づきになられたのですか?」


「ノーコメントでお願いします」


 俺はスミスさんの目を見てそう告げた。


「そうですか。質問はこれで終わりですか?」


「最後にもう一つだけ、そのグエン王子という人が反エルフだということはどこまで知られているのですか?」


「そうですね・・・、今のところはそこまで過激ではないのであまり知られていませんね。ですが・・・」

「ですが?」


「今回の件で王城からアイナさん、ダニングさんが抜けて話を聞く限りだと何人かのエルフがあなたのもとに集まるのですよね? それもおそらくこの国の中心人物である者たちが。それによってパワーバランスが崩れるのも確かです。今のところ大きい動きは全く見せていないので何とも言えませんし、まだ王城には多くのエルフの方が仕えていただけていますからね」


「だから彼女たちはアイナやダニングが王城に残っていてほしかったんですね」


「ええ。そして彼は近く動き始めると思います。彼が持つ情報を片手に反エルフを唱えて」


「質問に答えてくれてありがとうございます。・・・というかここまで俺に話してよかったんですか?」


「ええ。あなたがすべてのキーパーソンだと思いましたので。貴方の選択ですべてが変わる、そんな気がします。何となくですけれどね」


「・・・スミスさんは親エルフなのですね」

「もちろんです。それはクレア様もパトラ様も、その他の多くの者もです。人間とエルフは共存できる。少なくとも私はそう思っています」


「質問に答えていただいてありがとうございました。もう聞きたいことはないです」


「かしこまりました。おっと、ついつい話過ぎてしまいましたね。はやく戻りましょうか」


「分かりました。って、え? また担がれるんですか?」


 俺は別にもういいと言ったのだが聞く耳を持たないスミスさんに抱きかかえられて先ほどの部屋に向かう。

 彼の腕の中で俺は先ほど得た情報をもとに、昨日はまりかけたパズルのピース再びはめることにした。


 真実から目を背けようとは思ったがこうなっては話が別だ。

 この時代において、過去の俺と全くの逆の事をしようとしている奴がいる。

 そいつはそいつなりの想いをもって。

 ならば俺はこの命を懸けて阻止して見せる。

 今の俺に何ができるかはわからないけれど。


 それにまだ俺はこの200年間で何があったかについて、仮説はある。

 俺からすれば正直信じたくないが今のところ一つしか道は見つかっていない。


 もしその仮説を認めなければいけないような場面、事実を受け止める場面があったとき俺は彼らを許すことができるのだろうか。

 全てを知った時、俺は彼らとまた一緒に暮らすことは出来るのだろうか。

 彼らはすべてを知ってしまった俺と暮らしたいと思ってくれるのだろうか。


 わからない。

 もしかしたら許せないかもしれない。

 ただ、今の俺は少なくとも許せると思う。

 恐らく俺こそがすべての元凶だから。


 そしておそらくグエンという大バカ者は、俺の知らない200年しか知らない。

 逆に俺は彼の知らない過去を知っているし、今生きているエルフは恐らくどちらの過去も隠したいんだろう。

 エルフにとって200年前の事は今すぐにでも忘れたいことだろうから。


 それかエルフには何かしらの発言の規制があるのか。

 エルフ・・・、規制・・・。


 昔首輪に埋め込まれていた、エルフが発動者の命令に逆らえない魔法・・・?


 あまり思考がまとまっていないが、結論から言うと恐らく俺が死んだあとエルフと人間の関係が変わった。

 人間がエルフを嫌う理由としたらそんなとこだろう。


 そしてこの事実こそ彼が国王になるために切るカードに違いない。


 グエン王子。

 まだ顔も見たことないし声も聞いたことはないけどいつかは正面衝突することになるだろう相手。

 俺はあんたにだけは負けるわけにいかない。



 ************



「遅れました。フィセル様に服を差し上げてただいま戻りました」


「うむ、遅かったではないか!! ・・・なんだワンピースを選んだのか。しかもなんとも質素な。わらわもそんな服を持っていたのじゃな」


「他にも用意して差し上げたのですが断られてしまいまして。私としても残念です」


「当たり前ですよね!? 本当にお願いですからこれ以上俺の黒歴史を増やさないでください・・・。ワンピースでさえ結構恥ずかしいんですよ・・・」


「一着だけフリフリの物を着てもらいましたけど似合っていましたよ」

「スミスさん!」

「それに下着は・・・」

「スミスさん!?」


「なるほど、それならヴェルたちに伝えておかねばな」

「ダニングまで・・・。頼むからやめてね」

「それでそちらのお話は終わったのですか?」


 真面目な顔でボケるダニング。

 何事もなかったかのように話を進めるスミスさん。

 くそぉ。みんなして俺を虐めやがって。


「終わりましたよ、スミス」

「かしこまりました。それではフィセル様こちらに」


 スミスさんはそう言って俺を先ほどまで座っていたソファに座らせてくれた。

 横に座っているダニングの顔を見ても特に変化がないように思えるからやばい話ではなかったんだろうな。


「何話していたのダニング?」

「別に・・・。あんたが本当に転生者だってことを説明してただけだ」


 嘘だな。

 ダニングはうそをつくとき左上を見る癖があることを知っている。

 そして今、彼の目線は左上だ。


「本当に大したことは話していませんよ。たまには王城に顔を出してほしいと伝えただけです」


「そうじゃ! おぬしだけが独り占めするでない!!」


「まぁ、クレアは俺じゃなくてバンに会いたいんだろうけどな」

「なっ、ちょっ、ダニング!!」


「なるほど、申し訳ありませんクレア様。バンには顔を出すように言っておきますので」

「くっ・・・。そ、それならアイナさんにも伝えてください。あと様は入りません」


「了解です、クレア。よしどうするダニング? そろそろお暇しようか」


「そうだな。帰って食事の準備もしなければならないし今日は帰らせてもらうがいいか?」


「はい。新たな発見がいろいろあったので今日はこれで大丈夫です。またお話を聞く機会は設けてもらいたいものですが」


「妾にももっといろいろな話をするがよい!! おぬしは・・・フィセルじゃったな、覚えたぞ!!」


「はい、いつでも呼んでいただければお相手いたします。今はこんな小さい姿で申し訳ありませんが今度またちゃんと話し合いましょう」


「よし、いくかご主人。じゃあ俺たちはこれで失礼する」


 ダニングはやや乱暴に立ち上がり横に座る俺を軽々と持ち上げると後ろのドアへと向かった。

 俺的には帰った後のほうが地獄なんだよな・・・。


 あれ? というかこの後特に話さずに転移玉で帰るんならわざわざ服用意してもらった必要なかったんじゃないか?

 ・・・まぁ濃い話を聞けたからよしとするか。


「あっ、フィセルさん!! 一つだけ聞いてもよろしいですか!?」


 だがそんな後ろ姿に向かってクレアが思い出したかのように大声を上げた。

 ダニングもすぐ反応して彼女たちのほうを向く。


「どうしたんですか?」


「200年前の国は、貴方から見てどんな感じだったかだけ教えてくれませんか? 歴史とかではなくて、雰囲気だけでざっくりでいいので!!」


 200年前。

 俺がかつて生まれ育った国にはエルフの奴隷制度が存在していた。

 それはそれはひどい扱いであった。

 だから俺はそんな常識を変えたくて・・・、こうして転生するまでに至る。

 だけど、今ここで言うべきは。


「とても素晴らしい国でしたよ」


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