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38.王女

 そして次の日、俺は再び王都に出向いていた。

 昨日と違うところは隣を歩くエルフがシズクではないことか。

 なんでも彼女は今日別にやることがあるらしいのでこうして別のエルフに付き添いをお願いすることにしたのだ。


「それでご主人はどうするんだ? 俺の買い出しについてくるのか?」

「ダニングさえ良ければついていきたいな」

「本音は俺に王都図書館までついていってほしいんだろ? 一人で歩くのは怖いから」

「な、なんのことかなぁ。よくわからないや」


 ビクッと電流が走ったような感覚が全身に伝わるがなんとか表情だけは平静を装う。

 だが、そんな誤魔化しは彼に通用しなかったみたいだ。


「嘘が下手過ぎないか? 大方俺と出会った時に会った警護隊が若干トラウマになったんじゃないか? 図書館は王城の近くだ、一人じゃ怖いんだろ」

「そこまでわかってるのなら俺を泳がせないでよ!? 何も言わずについてきてよ恥ずかしいじゃん!!」

「いや、最初はそうしようと思ったけど気分が変わった」

「・・・君も意地悪になったね。シズクの影響かな」

「悪かったって。ついてってやるから先に俺の買い物を済ましてしまおう。まずは野菜からだな」

「そうだね」


 こうして俺とダニングは俺らが200年ぶりの再会を果たした店も含めた多くの店を回って、食料品の買い出しを終えた。

 買い出しと言っても、買ったものは全て収納袋に入れるだけだから全くの荷物にならなかったからこのまま図書館に迎えるというわけだ。

 なんとも便利な魔法具である。


「本当にそれ便利だよね。でも万引きとかそう言った問題にはならないのかな?」


 収納袋に関心を覚えていたところで横を歩くダニングが先ほど買った魚を収納袋にちょうど入れていたので俺はその袋を指さして聞いてみることにした。

 本当にただの疑問だ。今の治安がどんな感じなのかもよくわかっていないし。


「万引き・・・か。そもそもこの袋を持っているのは金持ちしかいないから万引きなんかする必要ないんじゃないか? 一応店内で袋を開くのはマナー違反となってるしな。それに高級品には店員に解除してもらわないとセンサーが鳴る結界が張られていることが多い」


「なるほどねぇ。あの6人でこの袋を持ってるのは誰がいるの?」

「全員持っている」

「あ、うん。言い終わった後にそんな気がしたよ。みんなお金持ちなんだもんね」


「今では昔の俺くらいなら容易く買えるさ。いくらだったか、俺の価値は」

「・・・・・」


 蘇るあの奴隷市場での競売。

 あの熱気も、喧騒もエルフたちの覚えた表情もまだ脳裏に残っている。

 生まれ変わった俺は経験していないはずなのに。


 俺は一生忘れることができないんだろうな。


「・・・・・命はお金で買うものではないよ」

「そうだな。それに金があっても手に入れられないものなんて沢山あるさ。ほら、そろそろ図書館につくぞ。王国民ならだれでも入れるから好きに回ると言い。俺も少し本を見て・・・」


 ダニングが前の巨大な建物を指さし、下を向いていた俺もそっちを見た瞬間に小さな何かがこちらへ向かってくるのが見えた。

 そしてダニングの動きも止まっている。


「ねぇダニング何かこっちに向かってきてない?」

「ちっ、ご主人逃げるぞ!!!」

「え? ちょ、まっ!?」


 ダニングが突然俺の右手を強くつかみ、その突進してくる何かに背を向けて走り出そうとしたがもう遅かった。

 その小さな突進物は突如発行して速度をグンと上げ、俺らに遠慮なく衝突してきたのだ。


『俺ら』というか、ダニングに衝突した衝撃波で俺が吹き飛んだというだけだけど。

 というか当のダニングはしっかりと受け止めてるし、なんで近くにいた俺が吹き飛ばされてんだ。

 おい、やめろダニング。そんな憐みを込めた目で俺を見ないでくれ。


「ご、ご主人大丈夫か?」


 ダニングはその小さな何かを胸で押さえつけたまま俺に話しかけてくる。

 よく見ると、押さえつけている何かの足がバタバタしているから突進してきたのは人間なんだろう。

 なんかルリを彷彿させるなこのハチャメチャ具合。


「う、うん大丈夫。ところでそれは・・・?」

「これか? これは」


「おいダニング!! いつまでわらわを押さえつけているのだ無礼ではないか!! ま、まぁ悪くはないが・・・」


「急に突進してくるお前が悪いだろ。びっくりしたじゃないか」

「びっくりしたのはこっちじゃ!! なぜ急に妾達を置いて出ていった!? 妾達とは遊びだったのか!?」


「遊び? ダニング、もしかして君・・・」

「いや違う、断じて違うぞ。俺にこんなガキを相手にする趣味は無い。おい、やめろその目。犯罪者を見る目で俺を見るな」


「犯罪!? お、おぬしもしかして犯罪を犯して王城から追放されたのか!? なんてことだ、ダニングが犯罪者に・・・。だが安心しろ妾はそんなおぬしでも見限ったりはしないし・・・」

「お前は黙ってろ話がややこしくなる」

「王城・・・? ね、ねぇダニング。もしかしてその子って・・・」


「あぁ、今の国王の孫にあたるパトラ王女だ」

「む。何者じゃおぬし? 妾とダニングの感動の再会を邪魔しよって」


 ダニングに抱きかかえられている赤髪の少女は俺を見下ろす形でそう尋ねた。



 **********



 何だこの状況は。

 今、俺とダニングはそこまで広くはないが目に映るものすべてが高級感あふれる贅沢な部屋でお茶をふるまわれていた。

 俺の横にいるダニングはというと、まるであの森の中で過ごすようにごく自然体で紅茶をすすっている。

 明らかにキョドっているのは俺だけだ。


 だってここは王城内の一室なのだから。

 そして背後には騎士の人が二人と執事の人がビシッと立っており目の前には王女様がいる。

 小さな小さな王女様だ。


「おいダニング、今これどういう状況だ!?」

「パトラからお茶に誘われただけだろ。ズズッ、うん旨い」

「いや俺の立場は!? ココハドコワタシハダレ状態なんだけど!?」

「ここは王城、そしてあんたは俺の主人じゃないか」

「いやそうじゃなくて!」


「おいそこのお前、さっきから何をこそこそ話しておる」


 俺とダニングが小声で言いあっているとどうにもそれが癇に障ったようで若干イラついた様子で彼女は俺に視線を向けた。

 どうもこうも、あなたが俺まで巻き込んだんでしょうが!


「い、いえお気になさらず。というかこの場に俺はいらないですよね久しぶりの再会みたいですし。お邪魔無視はこれで退散しまーす」


 ここは逃げるが勝ちだと判断した俺はそういって立ち上がろうとした瞬間、体が硬直してしまった。

 金縛りにあったような感覚で本当に動けない。

 これは・・・魔法か。

 でもこんな魔法知らないぞ俺!?


「待て。おぬしにも聞きたいことがある」

「あ、あの体が動かないんですけど。何ですかこれ」

「パトラの魔法だ。見つめたものの動きを止められるらしい」


「ダニング! そこは妾がかっこよく説明する場面であろうが!!」

「もうこの場面は見飽きた」

「なにおう!? い、いやでもそれだけ妾の事を見てくれていたということになるのか・・・!」

「いや、そういうわけじゃない。お前はいろいろ危なっかしいから見守ってただけだ」

「妾が危なっかしいだと? 誰にものを言っておるのだ!?」

「生意気なガキ」

「お、おぬし言うようになったではないか」

「前からだろ」


「あ、あの二人だけで会話してないでこれ解いてもらえませんかね」


 二人の世界に行ってしまっているパトラ王女になんとかそう告げる。

 完全に忘れ去られている気がしたからだ。

 というかダニングとパトラ王女随分と親しそうだな・・・。

 流石元王城の料理人と言ったところか。


「そういえば忘れていたな。もう逃げないのならといてやろう。ほれ」


 そして案の定忘れられていた。

 彼女が手を握ると同時に体に自由が戻りそのままボスンとソファに着陸する。

 俺はもう逃げる気力を失ってしまいそのまま全体重をソファに任せることにした。


「そうそう、おぬしには聞きたいことがあったのだ。単刀直入に言うがダニングのいう『俺にはただ一人、心に決めた主君がいる』とはおぬしの事か?」


 だがその言葉を聞いて俺は思わず起き上がり隣に座るエルフの顔を見た。

 彼は俺の目をむきゆっくりとうなずく。


「そうですね。ダニングとはそういう関係です」

「おぬしは見るからに人間であるし、年もそれほど取っていないようにも見えるが?」


「すこし特殊な事情がありまして」

「事情? なんじゃ申してみよ」

「それは・・・」


「失礼します!!!!」


 俺がパトラ王女に上手い事説明しようとした直後、背後のドアが元気よく開く。

 そこには俺より少し年上だと思われる、パトラと全く同じ髪色の女性が凛として立っていた


 驚いて後ろを見ると先ほどまで直立していた騎士の人は右手を掲げて敬礼をし、執事の人は深々と頭を下げていた。

 嫌な仮説が俺の頭によぎるがおそらく当たっている。

 だって、明らかに纏っている服や雰囲気が平民のそれとは違うから。


「久しぶりですねダニング。一体全体どこに行ってたんですか?」

「久しぶりだなクレア王女。相変わらず元気がいいな」


 もう俺帰ってもいいですか?

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