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36.行きつけの店

「試しにいろいろ調べてみたけど毒ではなさそうだな。ただ回復薬でもない何かだ。申請したら特許取れるかもしれねぇぞ」


少しした後、白衣を着たシズクが俺の作った謎の物体が入ったフラスコをゆらゆらさせながら部屋に戻ってきた。

まだゴポゴポ言ってんだけど・・・。

匂いも結構するし。


「ご主人様は回復薬を作ったんですよね・・・? 毒にしか見えないのですが。殺して楽にさせようとかそう言った感じですか?」

「いや違うよ!? ちゃんとやったって、ちゃんと!! このレシピが可笑しいんじゃねえの!?」


「これはあなたが書いたものですからおかしいのはご主人様ということになりますね」

「にしても私もびっくりだ。何だよこの物体・・・。試しにご主人飲んでみないか?」


そういってシズクがにじり寄ってくる。

咄嗟に逃げようとしたが力及ばずヴェルに羽交い絞めにされてしまった。

あっ、でも背中にいい感触が・・・。

それにめちゃめちゃいい匂いがする。


最高の瞬間じゃないか。

目の前に訳の分からない物体、そして後ろで俺を捕縛する力がどんどん強くなっているのを除けばだけど。そしてそんな俺を逃がすまいとつかんでいるヴェルが俺の耳元に口を近づけ息を当ててくる。


「ご主人様? 今逃げようとしましたね」

「してないよ! ってか耳元でささやかないで、離して!! ぬぐぐ、力つよ!?」

「抵抗してる割に嬉しそうな顔してないかご主人?」


「い、いや別に? 背中にいい感触がとか、耳元で囁かれて『あっ、いいこれ』とかは思ってないよ?」

「下心駄々洩れじゃねえか」

「これはお仕置きですね。ご主人様、ほらあーん」

「いやだよ!! もう捨てちまえそんなの! はなせー!」


俺が必死に足をバタバタしていると急に拘束が弱くなって解放される。

彼女たちも茶番はそろそろいいかと思ったんだろう。

俺はもう少し拘束されていてもよかったけど。


「茶番はここまでにして、どうしてしょうね」

「レシピも製法も間違ってないのにどこで狂ったんだろうな。まぁ原因は明らかか」


「「「魔力を込めるとき」」」

「だよなぁ」


三人の声が重なる。

満場一致の大本命だ。


「ただ、このまま何かわからず捨てるっていうのもなんか悔しいんだよな。調べてみたら何かしらの効果はあるっぽいし。何かは知らねぇけど」

「試しに誰かに飲ませてみます? ルリなら体強そうですし行けるんじゃないですか?」

「いや、もしルリが暴れたら誰も手が付けられなくなるからやめておこう。同じ理由でアイナとバンもだな」


「ってことは消去法でやっぱりご主人になるんだが。一番貧弱かつ簡単に止められそうなのはご主人だしな」


再び二人の視線が俺に向く。


「いやだよ!? こんなの飲んだら一発で冥土行き確定じゃないか」

「生産者責任法という言葉をご存じですか?」

「これにその法律は関係ないだろう!?」


「まぁ多分ここで簡易的に調べるよりも王都に持って行って調べるのが確実だろうな。試しに持って行ってみるか?」

「そのほうがいいでしょう。何かあった時に大変ですし」

「そうだな、じゃあ今日はここまでにするか。私は今からこれを・・・」


「待って、俺も行きたい!!」


思いのほか大きな声が出てしまった。

だが行きたかったのは本当だ。

このままずっとここに居たらダメ人間になってしまう。

それだけじゃなく、生まれ変わった俺はそこまで王都に出向いたことがないから今の王都がどんな感じなのかよくわかっていないのだ。


この時代に生まれて王都に行ったことなんか数えるほどしかないから。


「私はいいぞ。ヴェルはどうする?」

「私はここで待ってます。お気をつけて」

「わかった。んじゃご主人とのデート楽しんでくるわ」


「・・・変な事したら許しませんよ」

「変な事? さぁてどうだろうね。よしご主人、行くか!!」


シズクはそういってポケットから赤玉がたくさんついたバンドのようなものを取り出してそこから一つ外してしまった。


「赤玉ってことは行き先が決まってるの?」

「まぁな。あー、ダニングには夜までに帰るって言っておいてくれ」

「わかりました。行ってらっしゃいませ」

「え? ちょ、そんなすぐに行くの!? 準備とか・・・」


俺の言葉を無視してシズクは掌の赤玉を地面に落とす。

直後、俺たちは先ほどまでとは全く違う部屋の中にいた。



*******



シズクの拠点と説明を受けた部屋から外に出ると、そこは王城の城下町が広がっていた。

今まで俺が住んでいたのは王都から少し離れたやや田舎の町だったから、その賑わいが妙に珍しく思える。


外に出るなり多くの人が街を行き交い、喧騒が場を支配しており中にはエルフも見受けられ自然とテンションが上がる。

ってことはこの家相当高いんじゃないか?

王都の一等地だろここ。


「すごいな、王都までドアtoドアじゃないか」

「この転移玉も元はご主人が開発したもんだけどな。改良したのは私だけど。いよっし、さっそく向かうとするか」

「どこに行くつもりなの?」

「ここをまっすぐ行くと私の行きつけの薬草屋があるんだ。そいつに聞いてみる」

「了解。じゃあ行こうか」

「ああ」


こうして俺とシズクの王都散策が始まった。


**********


「おやおやシズク嬢。今日の朝ぶりじゃないか。なにか買い忘れでもあったのかね」


シズクの後をついていき外装が結構ヤバ目の古い建物の中を入ったその先には、初老の人間の男性がおり壁一面に引き出しがついていた。

匂いが結構きつく、ここが薬草屋だというのは火を見るよりも明らかだ。

そして俺はこんな店知らないから老舗の店ということではないんだろう。

それでも100年くらい続いていれば老舗と言えるか。


「今日買った薬草で試しに中級回復薬を作っていたらよくわからないものが出来上がったんだ。これについて調べてほしい」


「中級回復薬? なんでまたあんたがそんなものを」

「作ったのは私じゃなくてこの少年だ。レシピ通り作ったんだが・・・これを見てくれ」


そういってシズクが懐から先ほど作った薬が入っているフラスコを取り出した。

まだまだ元気いっぱいに泡を立てている。


「・・・なんじゃこれは。気色の悪い」

「だろ? だから調べてほしい」


楽しそうな笑みを浮かべたシズクが謎の物体の入ったフラスコを手渡すと、その老人は興味深そうにゆらゆらさせてフラスコの口に鼻を近づける。


「ぶえっほい!!!」


そして匂いを嗅いだ瞬間咳き込み、口から入れ歯を拭き飛ばしてしまった。


俺は突然の出来事だったにも関わらず頑張って耐えた。

拳を力の限り握り、舌を噛んで踏ん張った。


「ぶっほぁ! いーひっひひっひひ!」


だがシズクは我慢できなかったようだ。

もういお腹を抱えて笑ってしまっている。

もう涙目じゃないか。


「シ、シズク・・ぷふっ、わ、笑っちゃ・・・」

「いーひっひひひっひ、い、入れ歯がポーンって・・。そんな風に嗅ぐから、ぷくく」

「はんはおふひ! はひをははひふふほは!!」


「あっはっはは!! おいジジイもう何言ってるのか何もわかんねえよ。じゃやく入れ歯洗って付け直してこい」


すごすごと入れ歯を拾い、奥の方へ行ってしまった老人の背中を俺とシズクはゲタゲタと大声で笑いながら見届けるのであった。



*******



「ふぅむ・・・。あいわかった。他ならぬシズク嬢の頼みだ、応えて見せよう」


先ほどまでの件はまるでなかったかのように老人は話し始めた。

俺らもそろそろ耐性がついてきたからちょうどいい。


「サンキュー。どれくらいでできる?」

「今は何時かね?」

「昼の1時くらいだ」


「ならば夕方にはわかるだろうよ。それまではどこかで時間でも潰していてくれ」

「分かった。じゃあまたそれくらいになったら来るわ」

「承知した」


「よし、行こう」


そういってシズクはやや速足で背を向けた。

薬を受けった爺さんはずっと俺のことを不思議そうに眺めていたが俺はその視線を振り切ってシズクの後を追いかける。


てっきりまた思い出し笑いでもしたのかと思い急いで追うと、シズクが店の外壁に寄りかかって何か考え事をしているのが見えた。


「シズクどうしたの真剣な顔して」

「いや、私たちとご主人の関係は外でどう表せばいいのかと思ってな。なんて呼ぼうか迷った」

「確かにね。明らかに俺はまだ子供だし、今の時代でエルフがご主人って呼ぶのも少しおかしな話だ」

「あぁ。どうしてほしい? 私は別にいいんだがご主人が若干面倒事に巻き込まれるかもしれねぇな」


確かに考えていなかった。

今の彼女たちは王都で有名だし俺は子供、王都でご主人と呼ばれるとどうなるかわからない。

周りからすれば一体どういう関係なのかわからないだろうし、シズクたちが俺をご主人って呼んだり様を付けて呼ぶのは不自然すぎる。

転生魔法なんて今でも架空の魔法だとされているみたいだし。


「そうだね・・・。じゃあ外ではシズクの弟子ってことでいいや。そのほうが色々やりやすいし」


「いいのかそれで? 私はご主人の妻ってことにしてくれてもいいんだぞ。何なら愛人でも。いや、そのほうがいいかもしれねえぞ!」


「いや、流石に色々とやばいでしょ・・・。年の差もだし、急にシズクが結婚するっていうのも変な話じゃないか」

「いいだろ別に。いやちょっと待て。ご主人が私の弟子設定だったら私の事を師匠って呼ぶんだよな?」


「そうじゃない? 後は先生とか?」

「よし、それでいこう。王都に居るときは私の事をシズク師匠と呼んでくれ」


シズク師匠か・・・。

なんか変な感じがするけどシズクが嬉しそうだからいいか。


「わかったよ。じゃあそれで。・・・これから夕方までどうします? シズク師匠」

「うむ、私は別に何でもいいぞ。どこか行きたいところはあるかフィセル?」


今日俺はここでシズクに初めて名前で、しかも呼び捨てで呼ばれた。

だけど全然嫌な気分にはならずむしろ嬉しく思えた。

やっと、やっと奴隷と雇い主の壁を壊せたような気がする。

あえてお互い何も言わなかったが多分思っていることは同じかもしれない。


「呼び方ひとつで色々変わるモノなんだね。あっ、ですね」

「別に敬語はいいけどな。で? この後はどうする?」


少しうれしそうな顔を浮かべるシズクに笑顔で返事をするとまた彼女は満足げにうなずいた。


「実はちょっと行きたいところがあったんだ。ここから少し離れたところだから馬車かなんか使わないとだけど別にいい?」

「構わねぇぞ。どこに行きたいんだ?」


「ちょっと王都から離れたとある街に行きたいんだ。200年前の記憶を頼りに行くことになるから少し不安だけどね」


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