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34.いつもと何ら変わらない日常

「さて、みんなちゃんと料理が行き届いたかな? じゃあ食べようか、いただきます」

「「「「「いただきます」」」」」


 その声を合図にしてみんな目の前の料理にかぶりつき俺たちの夕食が始まる。

 机の上に広がっているのは先ほどから部屋を支配していた匂いの出どころであるシチュー、ダニングが生地から作っているであろう焼きたてのパン、俺の前だけにある皿の上に無造作に置かれた干し肉、色鮮やかに盛り付けられた瑞々しいサラダ、そして俺以外のみんなはワイン。


 俺は水。


 なんだこの落差は。確かに俺だけ未成年だから仕方がないけど・・・。

 いや、よく見たらヴェルも水だな。


 というかルリが飲んでて俺が飲めないのは悔しいが仕方がない。

 しかもなんでこのレパートリーの中に干し肉も皿に乗ってんだよ。

 なに? どんだけこのネタでいじられ続けるの俺?


「ご主人様のために干し肉を取り寄せたのです。味わってお召し上がりください。市場で買った一番安い干し肉です」

「やっぱり君だよなぁヴェル、こういう事をするのは。ていうか相変わらず俺の思考読まれてんのね」

「私は良かれと思ってしたのです。読みやすい思考ですので仕方がありません」

「くっそ・・・。昔と変わってないってことじゃん」


「私は安心しましたよ。昔のままで」

「そういうヴェルもな」

「ふふっ、そうですね」


 昔と何ら変わらないこの会話。

 200年という壁があったはずなのにこの瞬間だけは何も感じない。

 そう思えるのにもほかの理由があった。


「というかなんでルリ以外みんな昔の服着てるの?」

「このほうがフィセル様も喜ぶと思いましたので!! あ、もちろん200年前のものではありませんよ? 昔の服をまねて作ってもらったものなんです!! 汚くないので安心してください!」


 そういってアイナが立って見せてくれた。

 確かにみんなが今着ている服は昔俺が買ったものにそっくりだった。

 ルリだけは見覚えのない服を着ているようだけど。

 ・・・さすがに昔の服を着れるわけないしな。


「まぁサイズ的には昔のままでもアイナは成長していないだろうから問題なかっただろうけどな。どこがとは言わんが」

「むきーっ!! そういうシズクさんは変わったんですか!?」

「もちろん成長したぞ。あぁ、そういう目をするなご主人。あとで好きなだけ触らせてやるから今は我慢してくれ」

「いやそういう目で見てないよ!!」


 思わずこぶしを握って立ち上がる。

 ただ俺の顔は自分でもわかるほど真っ赤だ。

 だから今の俺はピュアッピ(以下略


「本当か?」

「・・・本当かといえば少しは嘘になる」


 そして本音がこぼれた。

 しょうがないだろう、俺だって男なんだから。


「フィセル様!?」

「お兄ちゃん、私も大きくなったんだよ!!! 好きなだけ触っていいからね!!!」

「ちょ、ルリ!! 食卓で暴れるな!!」


 騒ぎ始める女性陣。

 カオスになる食卓。

 ルリが加わったことで200年よりもさらに騒がしくなったな。

 ただこのぐちゃぐちゃ感もやっぱりどこか懐かしい。


「ルリ落ち着け、服にシチューがつくぞ」

「ご主人、おかわりほしかったら俺に言ってくれ。温めたやつをよそってやるから」


 そして男性陣二人は相変わらず落ち着いている。

 本当に頼りになるな、俺は嬉しいよ。


「バン、ダニング・・・。君たちだけだよまともなのは」

「フィセル様!? わ、私もまともなはずなんですけど!」

「アイナがまとも? おいおい、酔いもたいがいにしとけよ」

「シズクさんの所為ですからね!?」


 アイナが大分ショックを受けているが一旦は置いておこう。

 というか騎士団長にこんな扱いして許される人ってあんまりいないよな・・・。

 いや、元騎士団長か。

 そう考えると笑いがこみあげてくるが頑張って抑える。


 こうしてごく自然に、俺たちの共同生活は再び始まった。



 *********



 時計を見ると時刻は朝の5時を示している。

 昨日は結構どんちゃん騒ぎだったから今日ちゃんと起きられるか心配だったけど杞憂に終わったみたいだ。

 寧ろ万全の目覚めの中、私はいつものように森の中の小屋で起きて王都に行く準備をはじめる。


 準備と言っても軽く顔を洗って服を着替えて、ダニングが昨日の夜に作ったサンドイッチを口に押し込むだけ。

 いつもと何ら変わらない日常。


 だが、今日からはそれに一つだけ新しいルーティーンが加わった。

 私は全ての準備が終わった後、二階へと上がりとある部屋に入る。

 もちろんご主人の部屋だ。


 私が入ったことに気づかずベッドの上で気持ちよさそうにすやすやと眠るご主人。

 色々とやましいことをしようかと頭をめぐるが流石にまだ早いだろうと考えなおし、頬に軽く手を乗せてから部屋を出ようと背を向けた時だった。


「随分早い出勤だね、シズク」

「っ!?」


 思わず振り返ると、そこには毛布にくるまったまま顔をこちらに向けているご主人がいた。


「まさかご主人起きてたのか? 狸寝入りとは性格の悪い・・・」

「なんか寝られなくてね。昨日からずっと起きたままさ」

「お出かけ前に興奮して寝られない子供みたいじゃねえか」


「なんてことを言うんだ。大人だって寝られない日くらいあるし、君たちとこうして再び暮らせるようになって興奮しないわけがないだろう」


「私からすればご主人はまだ子供だぞ。というか年齢的にもお酒が飲めないじゃないか」

「ぐうの音も出ないんだけど・・・。でもまぁ、心は大人ってことで。見かけは子供、頭脳は大人だよ」


「頭脳というか精神じゃねぇか? 今のご主人頭良くないんだろ?」

「・・・そういう事にしておこうか。ただ興奮してたのは本当だよ」


「喜んでもらえてるなら何よりだ。私たちだって強制はしたくなかったからな。人間と暮らして、家庭をもって寿命を全うするって言われればまだ引き下がるぞ。多少は抵抗するが」


「まだわかんないけど、どうしようか答えが見つかるまでは一緒に暮らそうと思ってるよ。まだわからないことが多いしね」


 あぁ、やっぱり変わってないなご主人は。

 口ではああいったがやはり外見が子供になっても中身は変わっていない。


「・・・シズクは今からどこに行くんだい?」

「仕事だ仕事。朝早いんだ」

「内容までは教えてくれないんだね」

「ま、まぁな」


「『黒い悪魔』」

「っ!?」


「ダニングに会う直前にこの言葉を聞いたんだ。エルフにちょっかい出したらこの黒い悪魔ってのに襲われるってね。一体それが何者なのか、善人なのか悪人なのか。国家公認なのか非公認なのかは知らないし君がそうだとも決めつけてるわけじゃない」


「・・・突然どうした、何が言いたい?」


「君たちが何をするのか、何をしてきたのか俺が意見する権利もなければする気もないってことだよ。だからシズク、君は今まで通りにやってほしい。俺なんかに影響されちゃだめだ」


「・・・私はその『黒い悪魔』というわけではないけど、まぁ心にとどめておくわ」

「うん、引き留めてごめんね。いってらっしゃい」

「いってくる」


 私はそういって部屋を出てそのまま玄関に向かう。

 外に出た私はそのまま王都に・・・というわけではなく一周回ってとある部屋の窓の前に行った。

 そして窓を軽くノックして返事を待つ。

 多分もう起きているはずだ。


 少し待つと窓の鍵が開き、ヴェルが顔を出した。

 私は家の外壁にもたれかかって話し始める。


「どうしたんですか?」

「ご主人に私のやっていることがばれた。一応嘘はついたけど多分バレてる」

「えっ!? それはまた随分と早い・・・」


「さらにこんなことも言われたよ。『何をするのか、何をしてきたのか俺が意見する権利もなければする気もない』って。はっ、やっぱり流石だな」


「全体像は全くつかめていないけど、何かあるのはわかってるって感じですね。それを解明する気があるのかは分かりませんが・・・、ご主人様の好きなようにさせましょう」


「元からそのつもりだしな。よし、まぁ私も行ってくる。今日も何もないといいな」

「そうですね。では待ってます」

「ん。また昼にでも帰ってくる」


 私はポケットからたくさんの赤玉がついたバンドを取り出し、そこから一つとって地面に落とした。

 こうして私の日常は始まる。

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