31.SVB
「随分過激なお出迎えじゃないかシズク」
俺は頭上にいるエルフに話しかけた。
たった今俺を転ばせた挙句唇を奪ったエルフに。
「キスごときで過激か。ご主人も随分とお子ちゃまになったな。まぁ200年前のご主人もガキだったか」
「気を付けてくれよ。今の俺はピュアッピュアで清廉潔白なんだから」
「童〇をそんな可愛く言うんじゃねぇ。まっ、私が貰ってやってもいいけどな」
「ど、ど、童〇じゃねぇし!?」
分かりやすくどもってしまった。
なんか前もこんな会話した覚えがする。
「その反応200年前と同じだぞ。ぜってぇ嘘だろ。いや、わざと同じギャグを使ってんのか?」
「う、ううう五月蠅い!! そうだよ俺は生まれてこのかた彼女なんかできてないよ!! 昨日は結局ルリが家に泊まっていったけどやましいことは何もしていないし」
「ルリが家に泊まった? おい、どういうことだそれ」
何故か急にシズクの口調が変わる。
いや、やましいことしてないって言ったじゃん。
てか気づいたらまた抱き着かれてるしどんどん力強くなってますよ、シズクさん!?
「どうもこうも家に押し掛けてきたんだよ。おかげで今の家はぐちゃぐちゃさ」
「あいつ・・・・。まぁでも関係ないか。だってこれからは・・・」
「いつまで玄関で独り占めしているつもりだい、シズク?」
そんなシズクの声をさえぎって爽やかな男性の声が前方から聞こえた。
間違いない、この声は・・・。
「バン!!!」
「お久しぶりです主。お元気そうで何よりです」
パッとシズクの拘束が解かれたと同時に立ち上がって靴を脱ぎ、廊下に立つエルフの元へと走っていき目の前に立つ。
俺の身長はこの時代で平均よりも少し小さいくらいだがこれでも200年前よりかは高いはずだ。
だがバンはそんな俺よりも結構高く、少し見上げなければならないくらいだ。
丁度身長差は女性と男性といった感じか。
「あ・・・、その・・・ただいま」
勢いよく飛び出してしまったもののなぜか緊張してしまい中々言葉が出ない。
取りあえず何かしゃべらなくちゃ。
「その、バンは変わらないね」
そう言った瞬間、ふわっといい香りが漂い優しく抱きしめられた。
目の前の男性エルフにだ。
だが今まであってきたエルフの中でいちばんやさしく、温かかった。
「おかえりなさい主。ずっと、ずっと待ってましたよ」
彼は優しく俺の頭を撫でる。
まるで宝物を扱うように丁寧に。
あ、やばいこれ。
・・・これ俺が女だったら一発で落ちてるわ。
だって今も心臓鳴り響いてるもん。
****************
「おい、いつまで男同士で抱き合ってんだ」
抱き合ってから少し経った後、後ろでつまらなそうに見つめるシズクの声でハッとする。
いかんいかん、危うく違う世界の扉が開くところだった。
「別にいいだろう? シズクのようにに強引にしてないだけましだろう」
「強引? 別に普通だろ。それにご主人はMだからあれくらいがちょうどいいんだよ」
「ちょっとまて俺そんなこと言った覚えないぞ!?」
「あん? どう見てもMだろうが。じゃなきゃあんなふうに自分を虐めねえよ」
「自分を虐める? 俺そんなことやった覚えないぞ!? そんな自分を紐で縛ったりだとか・・・」
「ちげぇよ。自分の肉体も精神もボロボロになるほど鞭打ったってことだ。じゃなきゃあんな馬鹿なことしねぇ」
「それに関しては俺も同意だね。あんなボロボロの主はもう・・・見たくない」
「うっ・・・・・」
こんな会話、どこかでもしたな。
そうか、ルリとか。
やっぱりみんなの中であの出来事はトラウマになっているみたいだ。
「わかったわかった、大丈夫だよこの人生は」
少ししんみりとした空気が流れる。
これからはそのことについて触れるのは気を付けよう。
地雷源になりかねない。
「いけない、ここで語り合っててはヴェルが怒ってしまうね。主、案内します。シズクも来なよ」
そんな空気の中バンが話を切り出す。
そういえば約一名忘れてたな。
「バンは本当にたくましくなったな・・・。俺が女だったら惚れてたわ」
彼女の元へと向かう前に俺は先ほど思ったことをぽつりとつぶやく。
これはまじで本心だ。
だが彼はそれを聞くと、いたって真面目顔で変なことを言い始めてしまった。
「俺も残念です。もし主が女性に転生していたら俺と・・・とも思っていましたしね。なんなら男同士でも俺としては問題ないですが」
「ぶっ!!! えっ!? ちょちょっ!」
「主、顔が赤くなっていますよ?」
「いや、その俺はそういうのに理解があるほうだと自負はしてるけれども俺は・・・」
「冗談です。男同士ってところからですけどね」
「そういやご主人、自分がMだってこと否定しないんだな」
「シズクはちょっと黙ってて!!!」
俺の顔は真っ赤っかだ。
こうしてもう頭がとんでもないくらいこんがらがった状態で俺は廊下を歩いていった。
***********
「随分と楽しそうでしたね。私だけを置いて」
・・・部屋に入った俺たちを絶対零度張りの冷気が包み込む。
いや、実際そんなものは出ていないのだが空気は本当にそんな感じだ。
昔のリビングと全く同じような部屋の椅子の一つに座る一人のエルフ。
顔はニコニコしているが、彼女のこの顔は不機嫌な時しか現れないことを俺は知っている。
もしかして怒っていらっしゃる?
「なら君も来ればよかったじゃないか。ここでずっと座ってないで」
「あら? 『もう20時なのに来ないな。・・・多分シズクが何か変なことやってるんだろうから見てくるよ。君はここで待ってて』っていったのはあなたですよ、バン? ミイラ取りがミイラになる。今のあなたにぴったりの言葉です」
「・・・ごめん」
いや、犯人バンかよ!?
じゃあ俺悪くないよな!?
「それにシズクもです。まさかとは思いますがご主人様に変なことしていないでしょうね? 例えば・・・キスとか」
「していない」
お前も嘘つくなよ。
顔に出てんだよ『やりました』って!!
お前元諜報員だろ、嘘下手か!?
「その満足げな顔はしましたね。あなたは本当にご主人様が絡むと馬鹿になる」
「っ! ・・・それはみんなそうだろ。あぁだから怒ってんのか。悪ぃな先に色々やっちゃって」
「何か?」
「いやなんでも」
「まぁいいでしょう。そして・・・ご主人様。お久しぶりですね」
「うん、久しぶり。200年ぶりかな」
やっとここでヴェルと初めて目が合う。
俺が最初にあったエルフ・・・。
それがヴェルだ。
昔と変わらずきれいな髪と瞳をしており、200年前と全く変わっていない。
「どうぞ、座ってください」
「あ、うん。じゃあ・・・」
俺はそういって彼女の目の前の席に座った。
二人も思い思いの席に着く。
なんか再会というより面接みたいだ。
「その、久しぶり」
「2回目ですねその言葉。緊張してるんですか?」
「緊張というよりは・・・、君たちは今何をやっているんだい? アイナから言われたんだ。君達とは普通に暮らしてちゃ会えないって」
「別に大したことはしていませんよ。この小屋で暮らしているだけです。王都の方には出ないので会う可能性が低いのは確かです」
「なるほどね」
「アイナから連絡があった後、少しだけご主人様について調べてみました。〇×学園3年で近々専門学校を受験する予定。両親はともに他界しており住所は・・・・」
「ちょっと待て!? おかしいよなそれ、なんで俺の情報筒抜けなんだ!?」
「そりゃそうでしょう。だって私たちにはアイナやダニングと言った国の中心人物がいるんです。こんなこと容易に調べられます」
「そりゃそうでしょう。じゃないよ!? え、怖っ!?」
「落ち着いてください。それにこんな志望校や住所はもう何の意味もないですからね」
「それはどういう・・・?」
「どうもこうもありません。ご主人様はここで私たち6人と一緒に暮らすのですから」




