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30、変わらないS

 ルリに送ってもらった後、一人になった俺はまずシャワーを浴びることにした。


 というのも先ほどまでルリが部屋に入ると言って動かず激しい攻防戦が部屋のドアの前で行われていたためもう汗でびっしょりだったのだ。


 もう本当にルリの力が強いのなんの。

 あいつは可愛く「つーん、お兄ちゃんが入れてくれるまで動かないもんね!」なんて言ってたけど俺には石像にしか思えなかった。


 ただこれ以上駄々こねると嫌いになるぞって言ったらもう脱兎のごとく帰って行ったな。

 ちょっと申し訳ない。

 次までにもっといい返しを準備しておかないと。


 そんなことはさておき、今日でちょうど半分のエルフたちと再会することができた。

 あと残すはバン、シズクとヴェルだ。

 これはアイナからの連絡を待つしかない。


 俺は服を適当に脱いで風呂に入り熱めのシャワーを浴びる。

 一応バスタブはあるが一人のためにお湯を入れるのはもったいないのでもう何年も湯舟には使っていない。

 でもそろそろ掃除したほうがいいかもな。


 なんて考えながらも頭の中はエルフたちの事でいっぱいだ。

 姿や中身は全く変わっていないアイナとダニング。

 姿は変わってしまったけど中身はあまり変わっていないルリ。


 そして共通して大きく変わったことは、彼らが国の中心人物であること。

 王城に務める二人とSランク冒険者。


 昨日今日で彼らの姿を見て痛感した。

 200年という時間で彼らはとんでもない高みに行ってしまっている、と。

 彼らの周りの人間の視線、対応を見ればもう明らかだ。


 更にアイナはこういった。

『バン、シズク、ヴェルには普通に過ごしてたら会えない』と。


「一体あいつらは何者になってしまっているんだ・・・?」


 よくわからない不安、そして彼らと俺の間にある溝に押しつぶされそうになりながらお湯を出し続けていたシャワーを止める。


 目の前にある曇った鏡には、昔と同じ姿なのにあの時の魔法センスは何も持っていない男の姿が映し出されていた。

 例え知識を全部取り戻したとしても、多分俺には使えない。


「あいつらは絶対そんなこと気にしないって言うだろうけど・・・、やっぱり引け目は感じちゃうよな」


 俺はそう呟いて、立ち込める湯気とともに浴室から出た。


 ********


 浴室から出て体をタオルで拭き、服を調達しようとリビングへ向かった俺を迎えたのは通信式魔法具の着信であった。


 まだ俺は全裸。

 唯一の装備品はタオルだけだ。

 大事なところしか守れていない。


 そんな状況で今応答するか少し迷ったが、考えた末にそのままとることにした。

 まぁ着替えながら通話すればいいしな。

 それに相手の見当はついている。


「よっと、もしもし?」

『もしもし、フィセル様ですか?』

「うん、昨日ぶりだねアイナ」


 予想通り、魔法具の向こうからアイナの声が聞こえた。

 ということは恐らく彼らと連絡がついたのだろう。


『ふふ、今でも夢みたいです。こうしてフィセル様と話せるなんて・・・。今少しお時間大丈夫ですか?』

「大丈夫だよ。今全裸だけど」


『ぜ、全裸!? はわわ、ど、どうしましょう!? わ、私も脱いだ方がいいですか!?』


 え? 今なんて言ったこいつ?


「ちょっと待ってどうしてそうなる!? ちょっ待って衣擦れの音が聞こえるんだけど!! 待てアイナ早まるな!!! それにお前今どこにいるんだ、まさか外じゃないよな!?」


『200年でこのようなことがお好きになるとは・・・。これが時間の恐ろしさなんですね。い、いえ例えそうでも私は・・・』


「アイナも人の話聞かないタイプなのね!?」


 俺は魔法具を両手でつかみ大声を張り上げたが、彼女のもとにちゃんと届いたかどうかは定かではない。


 ただ一つ分かったのは、アイナが変わっていてほしいところまで変わっていなかったということぐらいであった。


 ******


『申し訳ありません・・・。ただのシャワーを浴び終わっただけだったんですね』

「だからそういってるだろう。もう服も来てるし」


 ちゃんと服を着た状態で俺は再び魔法具を耳に当てた。

 髪はまだ湿っているが別に後でもいいだろう。

 ようやく彼女も正常に作動し始めた。


『それで本題なんですけど、あの三人と連絡が取れたので是非会いに行ってあげてください。あとルリからも再会できたという話は聞いています』


「そうか、ありがとう。でも俺ヴェルたちの場所知らないよ?」


『それについては大丈夫です。ルリがフィセル様の家の場所を知っているとのことだったので先ほど赤玉を届けに向かわせました。明日の夜8時にそれを割っていただければ直接ヴェルさんたちのところまでワープすることができます』


「了解、ありがとう助かったよ」

『いえ、これくらい当然の事です。それにこれからは・・・』


 彼女がそこまで言いかけた時、俺は先ほどスルーした言葉がブーメランのように急に戻ってきた。

 同時に冷や汗が背中を伝う。


「ちょっ待て!! 今からルリが来るのか!?」

『え、えぇ。もうそろそろつくと思いますよ』 



 俺がバッと顔を上げた直後、部屋の呼び鈴が鳴る。

 だが俺にはその音が第二ラウンドの始まりのゴングにしか聞こえなかった。


『・・・様? フィセル様?』

「ごめん、要件はそれぐらい!?」

『はい、今のところはそうですね』

「わかった、じゃあまた会えたら連絡する!」


『わかりました。ではまたお待ちしていますね』

『お兄ちゃんいるよね? 開けないとこの扉蹴り破るよ!!』


 俺の左右から女性の声が同時に聞こえた。

 俺は急いで魔法具のスイッチを切ってドアへと向かう。

 あいつならやりかねん!!


「待てルリ! 今すぐ開ける!!」


 思わず反射的に扉を全開まで開けた俺の目に映ったのは満面の笑みを浮かべたエルフ。

 サーっと血の気が引いていくのが分かる。


 そして俺は安易にドアを開けたことを深く後悔するのであった。


 *********


 部屋にかけてある時計を見ると19時55分を示しており、今俺の右手にはルリからもらった赤玉が握られている。


 この赤玉はかつて俺が開発したものだ。

 それが200年の時を超えてこうやって俺と彼らを結んでいると思うと感慨深いものがある

 ・・・こいつにはお世話になったな。


 確かヴェルと会った時にも使ったんだっけ。

 あの時は中々量産できなくて開発途中だったけどあいつらが実用段階までもっていったのかもな。


 それ以外にも俺が残したものがこの世界で運用されていると思うと嬉しく思う。

 今の俺にはセンスも魔力も体力も何もないから何にもできないけど。


 部屋においてある時計の秒針の音が静かな部屋に虚しく響く。

 8時まではもうあと数刻といったところか。

 部屋においてある家族写真に手を合わせたのち、玄関に向かっていき靴を持つ。

 どこに飛ばされるかわかったもんじゃないからな。


 そして時計がついに20時を示した。

 約束の時間だ。


 俺は右手の赤玉を地面にたたきつける。

 玉が割れたと同時に足元に魔法陣が浮かび上がって淡い光が俺を包み込む。

 あの時と同じ感覚だ。


 最初は控えめだった光はやがて眼を開けるのもつらくなるほどまばゆい光となっていき思わず目を閉じる。


 次に俺の前に現れたのはどこか見覚えのある、『今』の俺じゃなくて『過去』の俺の記憶に突き刺さる森の中にある小屋だった。


 だが周りの景色が全く違う。

 昔は小屋の近くを川なんか流れていなかったし畑なんかもなかった。

 同じなのは小屋の外見ぐらいだ。


 下を見てみるとどうやら俺は今石段の上に立っているようでそこに青色の玉が埋め込まれており、右手には割ったはずの赤色の玉が元に戻っている。


「・・・・200年ぶりだな、この小屋を見るのは。ただあの時過ごしていたものとは違うのかな」



 ちょっと思うところがあり、先に小屋の後ろに向かうことにした。

 ここがあの小屋ならきっとまだあるはず。

 俺とエルフたちと一緒に過ごした猫の墓が。


 だがそこには俺が思っていたものはなかった。

 つまりは200年前俺らが過ごしたものとは異なるということだ。


「・・・ない、か。じゃあやっぱりここは昔の小屋じゃないんだな。これは昔の小屋を模して建てられたものってことか。にしてもそっくりだな」


 その後また小屋の前まで戻ってドアに手をかける。

 その時俺はふと思った。

 昔の俺はどんな感じで帰っていたっけ。


 いや、昔の俺なんてどうでもいいか。

『今』の俺が大事なんだから。


 ドアをゆっくりと引く。

 鍵はかかっていない。


「お、おじゃましまーす・・・。誰もいないのか? ぐえっ!?」


 そんな蚊の鳴くような声でとともに扉を開けて中に入った俺の視界はちょうど90°回った。

 誰かに首元をつかまれそのまま転ばされた感じのようで、目の前には天井が広がっている。


 つまりは誰かが最初から外にいてずっと背後を付けられていたという事か。

 全然気づかなかった。


「だ、誰だこ・・・、んむ!?」


 状況がつかめないままとりあえず起き上がろうとした俺の唇に柔らかに何かが触れる。

 もう犯人は確定したのだがそいつはやめるどころか俺の事を強く抱きしめていく。


 なんかもう色々と柔らかいところが当たっているが最早それどころではない。


 あ、やばい。そろそろ窒息死する。


「むーーーっ、ぶはぁ!? はぁっ、はっ・・・」

「あっはっは、相変わらずへたくそだなご主人」


 生命維持ギリギリのところでようやく拘束は解かれ自由になる。

 が、酸欠ぎりぎりの俺はすぐに立ち上がることができなかった。


 俺はそのまま寝転び、頭上に見える人物と目を合わせる。

 綺麗な朱色の瞳だ。


「はっ、と、突然こんなことされたら上手いも下手もないだろ、シズク」


 そこには黒髪のエルフがなんとも楽しそうな顔でこちらをのぞき込んでいた。

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