23.Hello,world
やっと夢のような記憶の乱流から目が覚めベッドの上の時計を見る。
時刻は午前10時を示しており、目が覚めた時からもう30分以上たっていることに驚いた。
自分では全く意識していないのに頬には涙が流れている。
俺はこの30分間涙を流しながらぼーっとしていたのだろうか。
だが今日は休日だ。遅刻とかの心配はない。
唯一いつもの朝と明らかに違うのは、
「そうか、俺は転生に成功したのか・・・」
前の名をフィセル、そして今の名前も何の因果かわからないが・・・フィセル。
18の誕生日の朝を迎えた俺ことフィセルは約200年前の前世の記憶を取り戻した。
******
今俺が生きているのは6人のエルフと暮らしていた時からおよそ200年後の世界だ。
そして今、俺の中にはエルフたちと過ごしたときの記憶と、この世界で18年間過ごしてきた記憶が入り混じっている。
結論から言うと、6人のエルフたちと俺の計画は成功していた。
街を行く人の中には首輪なんてつけていないエルフが多く混ざっており、奴隷なんて言葉は聞いたこともない。
俺が持っている高等学校の歴史の教科書にはちょうど50年前からエルフと人間の共存が始まったと明記されており、それ以降特にいざこざは無いようだ。
今やこの国はエルフと人間の2種族が共存する巨大国家になっている。
他の種族もいるようだがメインはエルフと人間だ。
といってもエルフと人間は成人になるまでの時間が大きく違うから人間でいう18歳まで、つまり高等学校までは別々の場所で学ぶことになるが仕方がない。
人間の一生分の時間をかけてエルフは成人になるのだから。
またエルフに関しては、『独自の魔法具と魔法、そして回復薬を有しており人間の発展に尽力した』と明記されていたから少し歴史が変わっているのかもしれないな。
うん、ほぼ俺が開発したものだな、多分。
まぁ、今の人間が持つエルフの印象は『人間と同じ風貌で人間よりも長生きし、共に歩んでいく種族』って感じみたいだ。18年間の方の俺の記憶がそう言っている。
だからこそ王国内を胸を張ってエルフが歩けているのかもしれない。
人間とエルフが同じ時を生きて笑いあえるのかもしれない。
そう考えると感慨深いものがある。
また、18年間の記憶の方で引っかかる名前はいくつかある。
王都の国王城で料理長を務める『ダニング・フィセル』という人物を新聞で見たことがあるし、王国軍の騎士団長は『アイナ・フィセル』とだったな。
・・・なんで今まで俺はフィセルという単語に疑問を持たなかったのか。
「うわぁ、俺と同じ名前がついてる」
としか思わなかったのだろうか。
もしくは今人間界の中で子供にフィセルと名付けるのがブームなのか。
大丈夫だよな? 俺の今の名前やばいやつだったりしないよな?
・・・そんなことは置いといて、彼らは無事世界を変えたみたいだ。
エルフが人間と共存して生きる、そんな世界に。
そんなことを考えると自然と涙があふれてくる。俺は何もしていないのに。
ただ時間は時間だ。もうそろそろ起きて活動し始めなくてはならない。
今日は特に何もする予定がないが、何もしないままぼーっとするわけにもいかない。
涙で目を晴らしたままベッドから降りて洗面所へと向かう。
洗面所で顔を洗い終わった後に鏡をまじまじと見ると、やはりというべきか昔の俺にそっくりの顔立ちをしていた。
身長は昔よりも高い気がするけどまぁ、気のせいかもしれない。
外見がほぼ一緒ということに反して、前世と違う点は魔法の才能が皆無なことぐらいだ。
毎回筆記テストも実技テストもギリギリで教師にはブラックリストに入れられてるし、いわゆる「落ちこぼれ」ってやつなのかもしれない。
俺が前世で何か悪いことしたかよ・・・。
まぁ仕方がないか。
そんな俺は今受験生だがこのように特に頭もよくなければ剣技や魔法のセンスもないため、その辺の専門学校を受験する予定である。
王都で商人として生きていこうとしていたところだ。
顔を洗い終わった後リビングへと向かいまず部屋においてある家族写真の前に行く。いつもの習慣だ。
数年前、俺の両親は事故によって帰らぬ人となった。
俺だけを置いて。
この事故で多額の保険がおり、慰謝料もたくさんもらえて俺一人が暮らしていく分には正直困らないが思春期に一人暮らしというのは中々つらいものがあった。
どうやらこの辺も変わっていないようだ。
両親を失いその影響で金はいっぱいある、みたいな。
手を合わせ終わったあと、いつもの通り一人でご飯を食べて適当に時間をつぶす。
休日だからといって正直やることはない。
こうして18歳の誕生日はエルフに囲まれていた前世と違い、たった一人で過ごすのであった。
ただ一つの疑問、どのようにしてエルフが独立したのかがどの参考書にも本にも載っていなかったという点を残して。
********
次の日になりいつも通り学校に向かうことにしたが、ある重大なことを見落としていることに気づいたのは通学路を歩いている最中だった。
・・・あいつらに会う術がない。
今どこにいるのかがはっきりしているのはアイナとダニングだがどちらも王城に務めているため一般人の俺なんかが会えるわけがない。
ましてや他のエルフについてはまじ何の情報もない。
かろうじてルリが冒険者になっているのを耳にしたことがあるが、どうすれば会えるのかがわからないしその噂が本当かどうかもわからない。
冒険者ギルドに行けば会えるのかな・・・。
そしてバン、ヴェル、シズクの情報は一切ない。
こうして記憶を取り戻しても何も打つ手がなく時間だけが過ぎていく。
色々な策を考えて実行しては打ち砕かれ・・・を繰り返しているうちにどんどん日々は過ぎ去って行き気づいた時にはもうそろそろ高校生活に終わりが見えるころになっており、
「あいつらが変えた世界を見ることができただけ及第点としとくか」
なんて半ばあきらめ状態で日々を過ごしていた。
あの日までは。
その日は普通の日常のはずだった。
いつも通り学校について友達としゃべって適当に授業を受けて・・・。
だが一つ、今までとは違うことがあった。
剣技の授業のために服を着替え、外に出た俺たちに担任の先生が思いもよらぬ発言をしたのだ。
「えー、今日の剣技の時間だが特別講師に来てもらっている。知っているものは多いと思うがこの国の高等学校の最後の剣技の時間では王国軍の人達に特別授業をしてもらうことになっている。そこで優秀のようならスカウトの話が来るかもしれないから今日は真面目に頑張るように」
クラス中の生徒たちが沸き立つ。
そりゃそうだろう。国軍の人に指導してもらえてあわよくば騎士団にスカウトされるなんてシンデレラストーリーにもほどがある。
剣技の才能もない俺には無関係の話だが、こうしてどの若者にもチャンスが与えられるような仕組みを創り出した王国軍は優秀だな。
もう一回言うけど俺には全く関係がないが。
そんな騒がしい中、先生が何とも言いにくそうな顔をしながら話を続ける。
「それでなのだが今日は、かの有名な騎士団長様に来ていただいているからな。無礼の無いように」
騒がしかった場が一瞬静寂に包まれる。
その後爆発するがごとく騒ぎ、踊り始める生徒たち。
みんな待ってましたと言わんばかりに叫び躍っているが俺は初知りだ。
・・・え? なにどういうこと? アイナが来るの???




