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18.日常④ 贖罪

 ご主人様が部屋にこもるようになってから3日が経過した。

 この間食事と入浴の時以外はほぼ部屋から出ることはなかったし、会話も必要最低限だった。

 そして今も昼食をみんなで取り終わったと同時に部屋に戻ってしまったところだ。


「なぁなぁ、ご主人のアレどうにかなんねえのか? 私の魔法薬の指導止まったままなんだけど」


 エルフだけになったリビングでコーヒーをすすりながらシズクが口火を切った。

 というか元の原因はあなたでしょうに。


「いや、元の原因はシズクじゃないのかい?」


 バンが私の思っていたことと同じことを言う。そうです、私もそう思いました。


「いやでもまさかあんな感じだとはな・・。多分ずっとあのボードゲームの事やってるんだろ?」


「多分そうですね・・・。ですよねヴェルさん?」


「私は何回か部屋に入ったのですが、あれはとりあえず魔法の類をやっている感じではありませんでしたね」


「お兄ちゃん弱かったもんね」

「「「ルリ!?」」」


 その場にいるエルフ皆が耳を疑った。

 確かにご主人様はルリにボコボコにされていましたけど・・・。

 というかこれをご主人様が聞いていなくてよかった、本当に。


「・・・ルリ? 主の前でぜっったいにそういう言葉を言っちゃだめだよ?」


 バンがルリに向かってそう告げる。

 一瞬場が凍り付いたのは本当だ。


「いや本当にそうですよ・・・。私だったら耐えられませんもん、ルリにそんなこと言われたら」


 だがアイナがそう言った瞬間、またリビングのドアが開いた。

 今エルフは全員リビングにいるからこれは・・・。


「アイナ、何なら耐えられないんだい?」

「ご、ご主人様!? い、いやこれはその・・・」


 ご主人様がキョトンとした顔でドアを握っていた。

 多分この感じだとルリの発言はは聞かれていないみたいですが・・・。


「お兄ちゃん!! あのね、ルリがお兄ちゃん・・・」

「「どわぁあ! ストップ、ルリ!!!」」


 ダニングとバンが自らの座っていた椅子を後ろに弾き飛ばす勢いで立ち上がりルリの口を抑えにかかる。


 ルリの方をバッと見ると、もう口はふさがれているしご主人様の方に向き直ると「なんだ、どうした?」って顔をしているから何とか間に合ったみたいだ。


 ・・・これはアイナに教育しておいてもらいましょう。


「いえ、なんでもありませんよご主人様」

「ヴェル・・・。君がその笑顔をするときは碌なことがないんだけど・・・、まぁいいか」

「それでご主人様は何か御用が?」


「ちょうどいい、君たちもう一回俺とこのボードゲームで勝負してほしい。ちょっと昨日寝ている時に必勝法が浮かび上がったんだ」


 嘘でしょう。

 多分この三日間研究に研究を重ねた賜物だと思われます。

 だってここ3日間ずっと部屋の電気がついていましたから。


「そうだな・・・、まずはシズク。君からだ」

「えっ、私・・・・?」


 指名されたシズクは困ったように私とバンの顔を見た。

 わざと負けてあげるかどうか迷ったのでしょう。


「いいんじゃないか、シズク。主と正々堂々戦ってあげたら。何やら自信があるようだし」


「いいと思いますよ」


 そして私たちは本気でやるよう背中を押した。これでまだ弱かったらどうしましょうか。またご主人様は部屋にこもってしまうのでしょうか。


「いっよし、見てろシズク!!! この前はコケにしやがって!!!」


「いやこんなことになるとは・・・。まぁいいや。やろうか」


「俺のこの三日の成果を見せてやる!!!」


 あぁ、もう言ってしまっていますね。

 ですがこの勝負はこの『フィセル』という人間がどういうヒトなのか見極めるいい機会なのかもしれません。


 今、目の前で無邪気に笑うこのヒトがどのようにして回復薬開発の天才と呼ばれるようになったのか。

 なんで私たち6人を助け出せるほどの富を築くことができたのか。

 そしてその集中力はどれほどのものなのか。


 こうして他のエルフにも見守られる中、再び白と黒の陣取りゲームが始まった。



 *********



「いよっしゃああああ!! 全員に勝ったぞ!!!」


 およそ1時間が経過したころ、ご主人様の嬉しそうな声が屋敷に響きわたる。


 なんとこの人は数日前ボコボコにされたシズク、バン、ルリ、アイナの全員に勝利したのだ。

 もちろんこちらは誰も手加減していない。


「ま、まさか本当に強くなっているとは・・・」

「へへっ、バン見たか!! 俺だってがんばればなんとかなるんだよ!」


 その頑張りが常人のそれとは大きく違うのをこの人はわかっているのでしょうか。

 ですが結果はちゃんと伴っているのが分かります。


「いやー私も負けるとは思わなかったね」


「まぁ頭を使うのは苦手じゃないから。魔法薬研究はゴールの無い道を地図も何もなしに走り抜けるようなものだったけどこれはパターンがあるからね。全部解決するには程遠いけど」


 凄い上機嫌だ。

 だけど本当にそうなんでしょう。

 彼がどんな道を歩んできたのか、私たちはまだ知らないけれど。


「そういえばまだ俺ってヴェルとダニングとは戦ったことないよな?」


 なんて考えているとご主人様に指名されてしまった。

 確かに私はまだこのボードゲームで遊んだことはありません。


「そうですね・・・。試しにやってみますか?」


 ですがあなたのその嬉しそうな顔を見ていると私もその世界に入ってみたくなってしまいました。

 前まではたかが遊び、たかが娯楽。

 ご主人様は子供だなんて言っていましたが、私も十分子供の部分は合ったみたいです。

 その証拠に私の心臓は跳ねていますから。


「いよっし、来い!!!」

「では、まずは私から」


 はたから見れば何をやっているんだ。という人がいるかもしれません。

 全てのエルフを助けるには時間が一秒でも惜しいという中で私たちはこんなボードゲームに夢中になってしまっています。

 この間も同胞は苦しい思いをしているのかもしれないのに。


 だけど、・・・私たちはあまりにお互いを知らなさすぎだった。

 周りのエルフともまだ会ってひと月すら経っていませんし、私たちをこうして笑えるようにした回復薬がどのような経緯で生まれたのかも知りません。


 目の前ではしゃぐこの男性がどんな思いで私たちを助けて、どのような未来を思い描いているのかさえも定かではありません。

 ですからこの時間は必要なのです。

 私たちの計画には。

 全てのエルフを開放するには。


 なんて屁理屈は通らないでしょう。

 だって私は今心の底から楽しんでしまっていますから。

 だからどうか、罪深き私たちをお許しください。


 たまたまご主人様に買われて、たまたま素晴らしい生活を送れている私たちを。

 そしてこの平穏な日々が続くのを願うことは許されるでしょうか?

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