表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/55

第九話 多分、私の膝枕は柔らかいわ

致し方無いと判断して口を開こうとしたら、旺盛(おうせい)な好奇心と若干の警戒を含んだ視線が此方(こちら)に向けられる。


「さっきから思ってたけど、誰?」

「先日より、エルザ殿の麾下(きか)に入った傭兵のクラウゼだ」


「ふ~ん、新入りね……」


少々(いぶか)しげな様子で吸血種の騎士令嬢リエラは躊躇(ちゅうちょ)なく身を寄せ、淡い魔力光を(とも)らせた紅い瞳で値踏みするかのように眺めてきた。


やや居心地が悪いのを我慢して付き合うこと(しば)し、花が(ほころ)ぶように破顔した彼女が上機嫌な笑い声を響かせる。


「あははっ、直感に過ぎないけどさ、あんた結構な場数を踏んでいるでしょう。強い男は嫌いじゃないよ、今夜は私の天幕に泊らない?」


「見掛けに違わず自由奔放だな、リエラ殿は……」

「別に呼び捨てで構わないよ、同じナイト・ブラッドの階級だから」


気安く掛けられた言葉で自身が吸血種に擬態(ぎたい)している事を思い出し、初めて聞く独自の階級社会など知る(よし)も無いため、どうしたものかと吸血姫を見遣(みや)った。


何故か少しだけ不機嫌そうなエルザが応えるのを制して、(そば)に控えていた老執事のレイノルドが言葉を(つむ)ぐ。


「この者、エルザ様の直系眷族のようですが、戦死したハインツ殿の代わりに取り立てるおつもりですか?」


「ん、そうね…… 三騎士の一角が欠けたままだと領軍の士気は上がらないし、クラウゼ殿が領兵を指揮する根拠もないから、私に剣を捧げて貰えると凄く嬉しいわ」


(わず)かに不安の色を含んだ声音で問われ、今更だという態度で片膝を突き、腰元の剣帯(ソードホルダー)から短鉄剣一本の鞘を外した。


「騎士なんて柄じゃないけどな、目指す先を(たが)えぬ限り、俺はエルザ・クライベルの刃となろう」


「ふふっ、本当にブレないのね」


優しく微笑んだ吸血姫が鞘ごと捧げ持った短鉄剣の柄を握り込み、じゃらりと音鳴りさせながら剣身を引き抜く。それに合わせて(こうべ)()れ、左右の肩に刃の腹が押し当てられるのを受け入れた。


暫時(ざんじ)の後、今度は怪我しないように注意しつつ両手で剣身を掴み、ゆっくりと差し出された柄を片手に持って立ち上がり、少し離れて一振りした刃を鞘に収める。


「こんなもので構わないか?」

「ん、問題ないわ、吸血騎士のクラウゼ殿」


()いて言えば条件を付けたのが気に入らんぞ」

「まぁ、良いんじゃない、色々と事情もありそうだしぃ~」


苦笑を浮かべて言動が対照的な二人の(ともがら)と向き合い、改めて人狼領主との会談で決めた行動方針を伝えると、途中から赤毛の騎士令嬢が嬉しそうに頬を(ゆる)めた。


「爺さんが考えていた南東領の遊撃戦に加わる案より、断然面白そう!」


「業腹だが、血を流すなら我らが故郷のためで在るべき…… 兵達も余所(よそ)の土地で(かばね)(さら)したくはないだろう。了承した、貴殿の提案に賛同しよう」


堅物(ゆえ)に元からなのか、小難しい表情を崩さずに老執事の騎士も抑揚無く頷き、軍議の場を兼ねた大天幕に河岸(かし)変えして細部の()り合わせなど済ませていく。


ただ、地図に駒を並べて延々と議論しても、戦場では天空から盤上を俯瞰(ふかん)して指揮を執ることが難しく、短時間飛翔できる吸血種であっても例外では無い。


従って、数通りの状況を想定したところで新たな意見は無くなり、黙して聞いていた吸血姫が最後に場を取り仕切る。


「これで話は出揃(でそろ)ったようですね、宜しく頼みます」

「「純血たる御身の為に……」」


何やら御約束らしき言動に乗り遅れ、唖然としている内に起立した同輩(どうはい)達は(きびす)を返し、颯爽と彼女の大天幕から去ってしまう。


「その…… ごめんなさい、古い慣習なのよ」

「あぁ、でもリエラまで踏襲するんだな」


「ん~、いつもは言わないし、さっきは顔がにやけていたから、新参者への揶揄(からか)い混じりだと思うわ」


渇いた笑い声に溜息を吐き、思わず椅子の背もたれに身体を深く預けた。


その姿勢が疲労の発露だと感じたようで、天幕内に設けられた簡易ベッドに移動して腰掛けた吸血姫は自らの太腿を軽く叩いて見せる。


「どう? 多分、私の膝枕は柔らかいわよ、運動不足で駄肉が付いているから…… あうぅ」


「普通に蠱惑的な身体つきだとは思うがな」


先日、ディガル魔族国の首都イグニッツで(さら)し者にされていた半裸姿のエルザを脳裏に浮かべてしまい、雑念は不要とばかりに心を無にした。


そんな事をしている間も、彼女は困り顔で誘い受け状態を維持しており、諦めずにジト目を向けてくる。


「出会って以降、ずっと世話になっているから御礼がしたいのよ、はしたないと思われるかも知れないけど……」


「いや、思わないさ、厚意に甘えさせて貰おう」


此方(こちら)が折れる事にして腰を上げ、ベッドサイドに座り直してドレスに包まれた太腿の間へ側頭部を預けた。


「んぅ」

「確かに柔らかいな」


そっと片手で髪を撫でられるのに構わず、張り詰めていた身体の力を抜けば、急速な眠気が襲ってくる。


「本当に疲れが溜まっていたか、体調管理できないとは、傭兵、失格だ…… な…」


「…… ゆっくりとお休みなさい」


微睡(まどろ)んできた意識の中、前髪を払われた額に酷く柔らかい唇の感触など感じつつ、俺は深い眠りへと落ちていった。


……………

………

★人物紹介


氏名:レイノルド・ヴァルトハイム

種族:吸血種

階級:オールド・ブラッド

技能:身体硬化(中) 血弾

   身体強化(中) 格闘術

   料理 資産管理 知性派脳筋

称号:三騎士筆頭 クライベル家の執事

武器:格闘用ガントレット

武装:強化執事服



★ 物語の書き手としての御願い ★


皆様の応援は『筆を走らせる原動力』になりますので、私の作品に限らず、縁のあった物語は応援してあげてくださいね。


『面白い』

『頑張ってるな』

『応援しても良いよ』と思って頂けたら


下記の評価欄から応援をお願いします。

※広告の下あたりにポイント評価欄があります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 重厚な物語を読み進めてきたら 大好物なアイスクリームと膝枕が出てきてワシ歓喜♪ ラブコメにもなるのかなぁとか期待してみる 時間が取れなくてまだ9話までしか読めていませんが 言い回しや表現…
[一言] 更新おつかれさまです いよいよ、ですね。 ゲリラ戦でじわじわするのがいいですね。 あと、邪魔な敵は敵対勢力にワザとぶつけてしまうのも効果的ですね。
[一言] 更新お疲れ様です! 今までみんな事情を知ってましたし吸血種らしい事はしてませんでしたからね、 これからは教えてもらわないとボロが出そうですね、、、それにしても突然のエルザ殿の誘惑! さりげ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ