表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/55

第三一話 どういう発想でその結論に至った?

なお、(あて)がわれた場所まで案内してくれたペトラは所用があるとの事で、街路に面した玄関口のある本館側へ歩み去っていき、扉の前でシアと取り残されてしまう。


(つまり、面倒を見ろと?)


まだ色々と認識が不十分な純魔族の娘を放置するのは億劫(おっくう)だが、短期間で有力な抵抗勢力を組織する役目もあり、此処(ここ)は効率重視の役割分担を意識したのだろう。


言うに及ばず、一ヶ月以上も前からベルクス占領下の首都イグニッツに潜み、従軍経験者の魔族を集めていた狐娘の方が現状に適応しているため、二人で留守番をするのも(やぶさか)かではない。


ないのだが…… 間借りした部屋に入った途端、そそくさと距離を取ったシアが上目遣いで所在無さげに見詰めてきた。


その視線が徐々に殺風景な室内で存在感を放つベッドへ向いたので、座って落ち着きたいのだと(おもんばか)って一声掛ける。


「室内で立ったままなのも微妙だ、少し腰を下ろそう」

「はうぅ、分かりました」


何故か、困り顔になった彼女は寝具へ腰掛けて衣服を着崩し、張りのある青白い素肌と下着を晒した。


「あの、折角ですから、致します?(そ~っ)」

「…… どういう発想でその結論に至った。そして、脚を開くなッ!」


「ひぅっ、ご、御免(ごめん)なさい。良くして貰ってるのに返せる物が無くて……」

「それは要らない、代わりにペトラへ菓子でも貢いでやれば普通に喜ぶぞ」


此方(こちら)は成り行きで加勢したに過ぎず、最初にシアを(たち)の悪い駐留兵から助けた狐娘の顔を立てておく。


()(かく)、初手よりこの調子では先が思いやられる事もあって、何とか部屋割りを変えさせるように画策しながら、簡素なテーブルに付随する椅子へ着座した。


その目論見(もくろみ)は叶う事無く、天然かつ無邪気な部分のある同居人の言動に度々(たびたび)惑わされ、麗蘭を筆頭にした娼婦らに冷やかされる羽目になったものの…… 水面下での工作活動は順調に進んでいく。


元々、亜人を(かろ)んじる人族との種族的な対立もあり、吸血公と人狼公の名前をチラつかせれば、腕に覚えがあって現状に不満を抱く連中からは良い返事が聞けた。


そんな数日間の経緯など話しつつ、乞食(こじき)(ふん)した退役軍人の同胞(はらから)が常駐する焼き捨てられた魔神教会の跡地にて、武器を壁外から空輸してくれた吸血種の騎士令嬢を労う。


「流石に街で買い漁ると憲兵隊に目を付けられるからな、感謝する」


「ん~、私、クラウゼの献策で結構骨を折っているよね。姫様や領民の為に繋がるのは理解の上だけど、少しくらい御礼が欲しいかも?」


あざとい微笑を浮かべて念押してくるリエラの姿で、調達してくれた武器の中に混じった蛇腹の連接剣や、貫通力重視の刺突短剣(メイルブレイカー)などを思い出す。


恐らく自身の予備兵装であろう逸品(いっぴん)(つか)い手が少なく、取り扱いが難しいことも明らかだが、厚意を無下(むげ)にすることは性分に合わない。


「今度、何か食事でも奢ろう」


「ふふっ、じゃあ貴方の血を所望するね」

「…… もう少しお手柔らかに頼む」


以前に聞いた通り、吸血種と()えども飲まねば死ぬ訳では無く、寧ろ相手の一部を体内に取り入れる行為は信頼の証であり、血液を捧げる側も言わずもがなだ。


自身を受け入れてくれるのは嬉しくとも、(かじ)りつかれたら一発で魔法銀製指輪の偽装がバレて人の身だと発覚するため、どう躱したものかと目を泳がせたところで数人の吸血種が歩み寄ってくる。


「滞りなく搬入と偽装の作業が終了しました」

「不用意に長居せず、壁外へ撤収するべきかと……」


生真面目な態度で言われた具申を(てら)わずに解釈すると、無為(むい)に留まって誰かに目撃されてしまう愚を犯すなという話だろう。


尤もな言葉に反論の余地は無いため、二人で雁首揃(がんくびそろ)えて頷いた。


「じゃあ、お(いとま)するとしましょうか。油断してへまを踏まないよう慎重にね、全ては純血たる我らが姫様の為に~♪」


いつもの如く軽い調子で誓句(せいく)(うた)い上げた騎士令嬢が(ゆる)りと反転しながら、軽装鎧越しの背中より(もや)状の飛翔翼を展開する。


それを羽搏(はばた)かせて夜空に舞えば麾下(きか)の吸血種らも追随(ついずい)し、やがて雲間へと姿を消していった。


視界の端には蒼い月、少しだけ情緒を刺激されたので手頃な瓦礫に腰掛けて眺め、腰元の吊具から外した革水筒を口元に運ぶ。


図らずも同棲中のシアが作ってくれた御茶は程よい苦みと共に喉を潤してくれた。


「さてと……」


誰にとも無く呟いて立ち上がり、半壊した教会の敷地内を順に巡って、浅く埋め戻した複数地点の状態を視認していく。


破損した石材や土塊により痕跡を隠蔽(いんぺい)した箇所の真下、そこには麻布で包んだ武装が収められており、乾燥剤代わりに石灰を焼成して詰めた小さな布袋も幾つか添えてある。


「取り敢えず、当面は大丈夫か」


壁内に持ち込んだ物資は分隊単位の小集団(クラスタ)を組ませた協力者へ随時配布しているため、いつまでも土中に放置されている訳ではない。


あくまでも一時的な保管場所に過ぎず、半月ほど品質が保つなら事は足りる筈だ。


そう割り切って次の懸案へ思考を切り替え、周辺警戒に出てくれた乞食(こじき)姿の魔人が戻るのを待ち、深夜の街並みを歩いて麗蘭の娼館へ引き返した。

★人物紹介


氏名:シア(平民出身:姓なし)

種族:純魔族

階級:街娘

技能:調理 御茶汲み 家事一般

   巻き込まれ体質 天然惚け

称号:人畜無害な一般人

武器:フライパン おたま

武装:亜麻製の衣服  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 絶妙な寸止め もうちょいで禁断の地のくたーんを発見するところだった( ̄▽ ̄;) [気になる点] まずは早朝ふとんに潜り込んでのすやねの奇襲からですね。 もちろん絶妙な寸止め前提です。 […
[一言] 更新お疲れ様です!(`・ω・´)ゞ ナチュナルにシアちゃん押し付けられましたね、しかもシアちゃんかなり天然だったのですね、、何となくわかってましたが空回りしちゃうタイプですね すごく応援しち…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ