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一章01 交戦

クリックしてくれてありがとう_(_^_)_

書き終わったらどこかの賞にでも応募するつもりなので、厳しめの感想待ってます。

 うぐいすの谷渡りが、山間の草原に響き渡る。耳心地のいい美しい声だが、悠長にそれを聞いている者など、ここにはいない。

 ピンク色に染まった曙の空の下、馬が、人が、無数の命が走り始めた。

 直ぐさまうぐいすの鳴き声などかき消されて、聞こえなくなる。

 今や聞こえるのは人々の怒号と、大地を踏みならす足音のみ。

 以前より繰り返されてきた、エドモン島を支配する三大勢力の小競り合い。それが、今日も始まった。

 筋骨隆々、精悍な顔つきの若者が率いるはロアン族の一派。率いる将の名は、ペルセウス。フラウ王国にて知らぬ者はいない、落ちたる英雄の名だ。

 獰猛な顔付き。口元から目元を奔る傷跡が特徴的な男が率いるは、エルドス一味。率いる者の名は、勿論エルドス。王都おいて悪名を轟かせた、伝説的な悪党の名だ。

 最後の一派。どこか陰りのある顔付きの少年が率いるは、バロン軍。フラウ王国国王よりこのエドモン島の管理を命じられた、現王の叔父バロンの軍勢だ。ただし、率いているのはバロンではない。

 軍を率いる少年の名はケートス。子をもたないバロンが島内で見出した、彼の後継である。

 二人とは異なり、ケートスの名は全く知られていない。どこで、どうやってバロンが彼を見つけ、また後継に指名するに至ったのか。全ては謎である。


 ――今日の戦いは、バロンの支配領域にペルセウス、エルドスの両派閥が侵攻したことで起こった。


「おおおおっ!!」

 咆哮を上げ、ペルセウスが突進する。将だからといって、背後でどっしりと構えて戦うようなことを、彼は好まない。いつも通り、最前線で剣を振るう。

 迎え撃つはケートス。ペルセウスとは違い、ケートスは最前線で戦うことを好むような将ではないが――ペルセウスを止められるほどの力量がある戦士は、バロン軍には残念ながら彼しかいない。そしてペルセウスを放っておくことがどれほど危険なことなのか、ケートスは既に経験から熟知していた。


 将と将。剣と剣が激突する。


「どけえぇっ!!」

「誰がどくか」

 体躯、剣の技量、共にペルセウスはケートスを上回る。しかしケートスとて、今はまだペルセウスのような、英雄の域に達する戦士ではないが、それでも一流の戦士である。決して自分から攻めず、防御に徹すれば、どうにかペルセウスの猛攻を凌ぐことはできる。

 フラウ王国で、曲がりなりにもペルセウスと戦い生き残ることができるほどの戦士は、片手の指で数えても指が余ってしまうほどに少ない。

 ペルセウスには及ばずとも、ケートスもまた十二分に強い戦士だった。

 ただ、相手が悪すぎるだけで。


「――おい、俺を無視してんじゃねぇぞ!?」


 横から、槍を構えたエルドスが突っ込んでくる。舌打ちと共に、両雄は戦闘を中断しエルドスの突進から逃れた。

 エルドスもまた、ペルセウスとは別の意味で有名な男である。

 強盗、殺人、強姦……。荒くれ者共を束ね、あらゆる極悪非道な犯罪に手を出し、王国を震撼させた男。後世にまでその名が残ること確実とされる、希代の大悪党である。

 獲物を見つけた猛獣のような笑みを浮かべ、舌なめずりをするとエルドスはケートスに狙いを定めて槍を振るった。

 苦悶の声を漏らしつつ、どうにか身体を捻りケートスは槍をいなした。

 エルドスもまた、ケートスから見れば格上の相手だ。単純な戦闘力こそペルセウスに劣るが、それでもなおケートスよりは強い。また荒くれ者を恐怖で支配するその手腕、頭のキレはペルセウス、ケートスを上回っていた。

「どしたどしたどしたぁっ! 足下がお留守だぜ? ぼうや!」

 エルドスの槍が、ケートスの馬の首を貫く。馬が絶命し、ケートスは落馬した。

 突然の出来事だったが、ケートスは意表を突かれつつもまるでそれを予期していたかのようにひらり、と馬から飛び降りた。身体に染みついたが故の、咄嗟の動きだ。このため、落馬しても怪我を負うことはなかった。

「ケートス様っ!」

 近くの仲間が叫び、ケートスの代わりにエルドスへと突進していく。

 三人がかりでエルドスを攻め立て、流石にこれにはたまらずエルドスが後退する。

「ここは任せた」

 別の仲間から馬を借りて、ケートスはペルセウスのもとへ向かう。

 案の定、ほんの少しの間目を離しただけで、ペルセウスはこちらの戦士をなぎ倒し、たった一人で戦線を大きく歪めていた。

 残された戦士達もペルセウスにあっさりと殺される仲間を見て恐れをなし、散りじりになりつつあった。

 もはや、突破されるのも時間の問題だろう。

 戦線が崩壊し、敗北が確定しつつある中。一際大きな、戦士達を鼓舞するかのような太鼓の音が戦場に響き渡った。

「! クソが。バロンの野郎、もう来やがった」

 エルドスが悪態をつく。

 ケートスの主。バロン軍の長。長く伸ばした髭を風になびかせる初老の老人――バロンが、大勢の兵士を連れてやって来た。

「チッ。……引き上げダァ! 野郎共、行くぞ!」

 エルドスが叫び、兵士達がそれに従う。

「――退くぞ!」

 ペルセウスも、同じく叫び撤退させる。

 ケートス一人ならともかく、バロンもいるとなるとペルセウス一人では少々危険が伴ってくる。勝てなくはないが、僅かに致命傷を負うリスクがあった。

 今は、博打を打ってまで慌てて勝負を急ぐ時ではない。言葉に出さずとも、この場にいる誰もがそれを肌で感じ取っていた。

 慌ただしく、二つの部隊が去って行く。……後には、荒れた草原だけが残された。

 この騒動に怯えて飛び去ってしまったのだろう。もう、うぐいすの声は聞こえない。

「……やれやれ。今回もどうにか」

 小さく息を吐いて。ケートスは剣を鞘に収めた。

「城に帰還する! 兵士達よ、着いてこい!」

 バロンの号令に従い、ケートスも兵士達に混じり、帰路に着いた。

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