主の談義
「山の」
「どうした、久しいな、空の」
「新しい子が生まれたよ」
「へえ、どこに」
「湖だ」
「ふうむ、千年ぶりぐらいか」
「そうだね、正しくは千百二十一年ぶりだ」
「大きく育つといいな」
「そうだね」
◆
「山の」
「どうした、久しいな、空の」
「湖の子が魔の王を倒したよ」
「へえ、そいつはよかったな」
「これで安心だ」
「ふうむ、三百年ぐらいかかったか」
「そうだね、正しくは二百六十七年だ」
「長生きするといいな」
「そうだね」
◆
「山の」
「どうした、久しいな、空の」
「湖の子が人間に襲われてるよ」
「へえ、そいつはかわいそうに」
「どうしてだろうか」
「ふうむ、誰も我等のことを知らんのだろうな」
「そんなことがあるのかい」
「人里に近いと苦労するな」
「そうだね」
◆
「山の」
「どうした、また来たのか、空の」
「湖の子が人間と仲良くなったよ」
「へえ、そいつはよかったな」
「まだ若いのに大丈夫かな」
「ふうむ、それもあの子の運命だろうよ」
「心配だ」
「乗り越えられるだろうよ」
「そうだといいね」
◆
「山の」
「どうした、また来たのか、空の」
「湖の子が人間の姿になったよ」
「へえ、そいつはすごいな」
「まだ若いのに大丈夫かな」
「ふうむ、四百歳だったか」
「そうだね、正しくは四百九歳だ」
「人里が近いと刺激が多いのだろうな」
「そうだね」
◆
「山の」
「どうした、また来たのか、空の」
「人間が湖の子に告白したよ」
「へえ、そいつは驚きだな」
「どうしよう」
「どうもしなくていいだろうよ」
「いいのかな」
「何かできるのか」
「できないね」
「そうだろう」
◆
「山の」
「どうした、また来たのか、空の」
「湖の子に会ってきたよ」
「へえ、どうだった」
「人間との番い方を教えてきたよ」
「ふうむ、理解できていたか」
「よく分かってなさそうだった」
「そうだろうな」
「うまくいくかな」
「あの子次第だろうよ」
「そうだね」
◆
「山の」
「どうした、また来たのか、空の」
「湖の子が人里に行ってきたよ」
「へえ、そいつはよかったな」
「人間と番えたかな」
「ふうむ、難しいだろうよ」
「やっぱり難しいかな」
「当然だ」
「そっか」
◆
「山の」
「どうした、また来たのか、空の」
「湖の子が」
「あの子がどうかしたのか」
「死んじゃった」
「そうか」
「あっけなかったね」
「そうだな」
「やっぱり人間と共には生きられないのかな」
「そうだな」
「悲しいね」
「そうだな」
◆
◆
◆
「山の」
「どうした、久しいな、空の」
「新しい子が生まれたよ」
「へえ、どこに」
「湖だ」