日常~本気を抑えば~
——空気が変わった。
先程とは異なり緊張が高まるを感じられて、正面に立つ相手は剛が本気に成るを受け取った。簡単に負けぬと気を引き締めして、笑みを消すんだ。勝負と火蓋の切る審判の声を聞くや一気に距離を詰めて、抜き放つ。
——基本剣技《スラント》!
木刀を水平にと思わせて、左下から右上にと斜め斬りした。想定通り腰への打撃を受け止められる。反発力の強さも腕を曲げず体を回して、右上から首元にと振り下ろした。二度目と繰り出せど受け止められてしまう。
——クッ!!
作戦失敗と断ずるや俊敏に飛び退いた。一秒差の行動により間合いの外へと出られたことで、反撃を危うく食らわなかった。結果的に良くも眼前に迫る木刀に対して、恐怖を覚えるとは弱さを認めねばならなかった。
「ハァ……」
両足を地に着け両手で握り直すと、対峙の目を向け呼吸を深く行った。鼓動の激しさを急速に鎮めると、相手の動きを見逃さぬよう鋭くする。
「なめとったやろ」
剛は木刀を担ぎ挑発するようにして、言葉は圧をぶつけてきた。完全な否定をするべく口を開いたけど、結局は肯定とも取れる黙りになった。警戒を緩めずに思考を巡らせて、作戦を振り返れば何処か甘さも抱いていた。一撃目は防がれるのが当たり前なんだと、二撃目を直ぐに繰り出せば入るだろうと、相手の力を格下に傲りが認められたんだ。
「——すみません……」
「まあええわ。ほないくで!」
真剣に掛かって来いよと、宣言に思いが籠もっていた。迎え討つべく柄をしっかりと、望みに応えるため締め直してみせる。
大上段に振り被るや下ろされた木刀を小さな動きで躱すと、腹部を狙って低めの《スラスト》。咄嗟の判断で手を放し反るなぞと、回避の早さに驚くも前転して直ぐに立った。息吐く間も与えぬこと、逆手に持っての《スタッブ》。単発刺しを一髪の差で後退により届かせずと、空を切らせる。体勢が崩れたを好機と見ると、地を強く蹴って《リニアー》。単発突きを直線的に高速で距離を詰めと、胸骨辺りに命中して勢い良く吹っ飛ばした。無防備な身体に対して全力でダメージを入れたこと、肋骨の一つは罅を遣ったかもしれない。
——しまった……。
自分のリミッターが大きく外れていたかと、前方の壁に激突した剛を心配して已まなかった。駆け寄ってみれば幸いにも伏せから起きたこと、息も吸えている。日頃の鍛練による丈夫さが活きたようだと、安堵を覚えたんだ。魔法の力が醒めていたらと、恐怖で木刀を手から落としてしまう。
「効いたなぁ」
「本気になりすぎて、ごめんなさい……」
「構へん、構へん、そう来ぉへんとなっ」
「下手したら、死も有り得たのに……?」
「見た目より、力を持っとるなぁ」
「何で、どうして、笑って、いられるんだよ!」
「面白いからだろう」
二人の会話に割り込んだ巌さんが語るには、本気で戦い敗れたならこそ、本望さが悔恨さをも勝りて顔に出てしまう。何時か知るさと——。




