日常~午後は何する~
「ふあ……」
僕はどれだけ寝てしまったのかと気になり、ベッド近くの棚に目を遣る。デジタル時計の表示を確認すれば、正午を過ぎていた。体を起こして窓へと歩き、日の高さと昼の明るさを見る。不意に空腹を感じて胃の辺りに手を付けた。
——できたかなぁ。
母親が料理していると二階まで香りが来るはずだけど、部屋のドアを開けて廊下を嗅いでみるも分からなかった。一階のダイニングへ向かってみる。
——わぁいっ!!
食卓の上の大皿にはカツカレーが盛られていて、右側の小皿には林檎が三切れと乗っていた。視線を上げキッチンの様子を見てみれば、洗い物を終えたらしくタオルで手を拭いている。静かに目が合うとなぜか笑われ、僕の顔に待ち切れないと書いてあったようだ。思い至り恥ずかしさで、頭を掻く。
「御飯にしましょう」
料理が冷める前にと席に着いて、頂きますと手を合わせた。少し辛いルーは好みのスパイシーさで、火を噴きそうなほど熱かった。唇がヒリヒリする。
「味わって食べなさい」
「ごめん……」
「午後は何をしますか」
「うーん……」
地森で瞑想することを最初に考えたが、地下の施設で鍛え直すことを第一に決めた。仮想空間で実戦経験を積むのも良いが、道術の使用は禁じられている。木刀を持って行かなきゃと思う。
「止めないけど、疲れたら休むように」
「はい」
母親と食後の片付けをして、二階の自室にある樫の木刀を持って、暗闇の階段を下りて行く。漆塗りの扉には艶が見られ、左に引き開けるとオレンジの光に迎えられる。板張りの部屋は奥も広さも、学校のグラウンドくらいで教室の天井より少し高いんだ。立体機動は武術の一つで、訓練は受けた。
——……。
付近の端末を操作して、丸太を出現させる。仮想と言えども実体を持つからには、衝撃が大きいほどに手首への負荷も大きくなる。一人で稽古を始めるべく、丸太の前で足を止めた。木刀を両手で握り、振りかぶった。
「シッ!」
短く強く息を吐きつつ上から打ち付ければ、重い音が響き腕を震わせる。心地好い手応えを感じては、右斜め左斜めと三パターンを繰り返してく。何回目と数えずに疲労や鈍さが来るまで、全力で振った。
「ここまでにするか……」
大きく吸ってはフゥと吐いてや上を向き袖で額の汗を拭う。準備運動の次にするは武術の技の御浚いだ。基本の単発から上位へと難しくしてゆく。精神力や体力の限界を越え、失敗しても成功するまでと続けていった。連撃は染み付いた動きに速さが求められ、何度もした。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
汗で濡れた手は力が入らず、握っていた刀は床に落ちる。下を向いて膝を掴むと、雨の日みたいにズボンがぐっしょりしていた。
——寒い。
水分不足だろうか背中は冷えを走らせ、徐々に頭が重くなる。終わりにした。




