日常~影繰を行使も~
——な……!?
頭部の右側を基礎の床にめり込ませられつつ、影針が太股を貫通する痛みより信じられなさが勝る。影菱を避けずに傷付くを構わず攻めることで、隙を与えてくれなかったんだ。
「憎悪の心意では、祈念や覚悟を持つ者に負けるぞ」
教えただろうと、声を聞いて悔しきながらも小さく頷く。頭を抑え付けていたじいちゃんの手が離されると、体を徐に起こす。仕切り直しをお願いして一度だけと、承諾を受けて位置に着いた。
「準備はできたか」
「はいっ!」
失望させるなよと、重圧を掛けてくる。全力で来なさいと、鋭い目つきになられる。実戦の経験が無いことで不安があれど引き締めて、臨戦の体勢を取った。
「右手に持つは切る剣」
影繰の現わす形を詠唱しつつイメージして、実体のある黒き剣を創り出した。体術や武術は鍛練の成果を見せ、取り戻すんだって思う。
「行かせてもらいます!!」
深呼吸をして緊張を解すや駆け出した。影剣を水平に構え間合いを測り、抜刀するような動きで切る。基本剣技《ホリゾンタル》。
「うおおおおおお!!」
遅いと、厳しさのある声でじいちゃんは言うと、軽く飛び退かれた。勢い付いた手は止まることなく力の限り振り切れば、思いがけず風の刃が放たれた。三日月が音速で空気の壁を裂き、正面のじいちゃんを目掛けてゆく。
「これは……!」
自分が驚きを代弁するが如く声を出されて、即座に手刀で左下から右上へと真っ二つに切った。基本剣技《スラント》と同じ動きだ。
——チャンスだ!!
偶発的に起こりし出来事を利用して、攻めるなら今だと意を決する。
「流れる涙は誰が為に、流れる茜は誰ぞ出て、悔みて悔み悔し紛れ、染めて黒き崩れ逝く」
影繰は四段の詠唱で、悪夢の爪を両手に纏う。獣のように地を強く蹴って前へ跳び、大きく振り上げて切り裂かんとした。手刀を下ろした状態から守りへ移させまいと全力で迫ったことが、一撃を入れられる自信になった。
「縛!!」
力強く言い放たれた言葉が見えなざる手となり、地面へ抑え付けられる。情け無くもぶぎゃっと声を発してしまうほど、上方から半端じゃない圧が掛かった。力が尽きたのか立ち上がれないんだ。匍匐の体勢で見上げ、今後はどうなるかと不安を抱きつつ判断を待つ。皇帝の命令は絶対だ。
「痛っ……」
根性で堪えつつ体を転じて仰向けになり、床に付いた肘を支えに体を起こして座る。手加減されも不思議と嫌気が差さず、感謝を覚えた。
「今後も学業に励みなさい」
鍛練は体術と武術の継続を認めるが、危険な道術の行使を禁止すると、判断が下された。非常事態に限って護るためならば特別に許可すると、声を得られた。
「承知しました」
皇帝に対して跪くや返答を叫び、恭順の意を姿勢でも表する。違約した場合は封印も辞さないと、念を押される。肝に銘じて立ち上がった。




