日常~朱夏の敷地に~
——外見と違いすぎる。
寮内へ入ってみれば味のある板があちこちに張られて、現在は見ない木造の学校としか思えなかった。玄関に立ち廊下を覗くと、教室が見える。
「お待たせしました」
「すまないな」
「お上がりください、靴を脱がずにどうぞ」
後半の台詞は僕に向けられたもので、恥ずかしさを覚えながらも履き直して上がる。正面の階段の横にある通路を歩いて、裏口からグラウンドに出た。一周四百メートルはありそうで、木々に囲まれ空は青く。車の走る音は聞こえないと、余りの広さに首を傾げるばかりだった。
「ここは、領域の一つで、練域と言う場だ」
帝国本島は南区に存在するのは先程の建物だけで、目前に広がる敷地は本という箱庭の中にある。科学と魔術を用いて創られたここで、知識や技術を身に付けていく。時間や天気はリンクしておることで、様々な状況に対応できるようになる。本気で戦おうとも影響は町に及ばず、遠慮無なく行えるとじいちゃんは話す。
「へぇ……」
時間が惜しいと呟くや歩き出すその背中を追って、グラウンドを縦断した。木々の奥は森になっていて、五分ほど歩くと遺跡らしき物が見えた。
「古代円形闘技場……?」
「古代修練演舞場だ」
僕の口から漏れた言葉に対して、即座に訂正された。施設に入り通路を歩きながら違いを教わる。流血あれど命を奪うことは禁じていて、自分の力など見せる場なのだけは同じと知った。殺し合わず、魅せ競う。神へ捧ぐみたい。
——衆視舞台。
一階のどこかである扉の前に立って、上に付けられたプレートを読んだ。早く来なさいと声を聞き慌てて、足を踏み入れる。目前には演舞場の中央には正方形の基礎があり、階段へと道が続いていた。北東南西の観客席には人が居ないのにどうして、緊張を感じ抑えようにも強まるばかりで困ってしまう。
——え?
無言でじいちゃんは軍服を脱いで、芝生の上に置いた。嫌な予感がしてまさかって、冷や汗を流しつつ見て居た。空気が突然ピリピリする。
「脱がなくて良いのか」
言葉と共に重圧を感じて、息苦しくなる。何とか倒れぬように耐えながら青いメッシュのジャンパーを脱いで、基礎の床を踏みすれば気の引き締まる思いだ。
「今から力を測る。手は抜かない」
「影繰が使えるか自信は無いです……」
「右手に挟むは投づ針」
現わす形を詠唱したじいちゃんは指と指の間に黒い針を、計五つ創り出した。本気で殺るというのかと、体の震えと怖さで声が出なくなる。
「弱い子に育てた覚えは無いぞ、フッ!!」
「痛っ……!!」
左の太股に黒い針が刺さり、熱さと冷たさを感じた。直ぐにそれを引き抜いて、床に投げ捨てる。二度三度と腕にもやられ、殺意が芽生える。
「右手に持つは切る剣、左手に在るは撒く菱!!」
詠唱し終えるや左手の黒い菱を投げ付け、同時に地を蹴る。基本剣技《スラスト》だ。影剣の切っ先を向ける構えで、強く突き刺そうした。感情的になってはならないと聞こえた気がして、床に叩き付けられた。




