日常~祖父の伝言を~
——朝八時に錦の間に来なさい。
食前に母親がじいちゃんからの伝言ですと聞かせてくれて、内容は皇帝の立場で命じていることから素直に待ち合わせた。五分前には透廊を歩き、枯山水の庭を回り、木彫りの繊細な扉をノックして、現在に至る。
——うーん……。
種々の色糸や金銀の糸で綺麗な模様を織り出した絨毯の上に立ちながら何の話だろうと、昨日の件かそれともなのか考えて居た。許可無しでは入れぬここは、第三層にある皇統府の最上階の一室だ。
——遅いなぁ……。
緊張の高まりを感じつつ、錦の間の東にある朝の間の扉に目を遣る。太陽が彫られたその向こうで、忙しく動いている様が見えるようだ。今日は日曜なのに休みを取らず、民の為にと姿は憧れものだ。幼き頃は近くに居てくれた。
「待たせたな」
「おはようございます」
見詰めていた扉が重々しく開いて、人を認めるや僕は跪く。挨拶は首を垂れすれば、面を上げよと告げられる。返事のち従った。
「御用件は何でしょう」
「昨日のことだが、誉めて遣わす」
「自分は時間を稼ぐしかできませんでした」
「謙遜するな、聞いておるぞ」
「恐れ多くも、受け取れません」
「頑固な奴だ、後に付いて来い」
皇帝の立場でじいちゃんはそう言うと、菊彫りの扉を開けて王の間へと歩く。縦断して南の扉から廊下に出ると、右側のエレベーターで一階へと下りる。
——どこまで……。
行くつもりだろうと思いながらも弁えて、黙ったまま速い歩きで離されぬようにする。場違いな存在の自分に対して、多くの目を受けた。皇帝の位を継ぐ者として、相応しいかを常に見られる。怖さもあるんだ。
「おはようございます」
「おはようございます」
政治において重要な役職の方々が勢いよく礼しつつ言うのを見て、堂々とするじいちゃんの凄さを改めて感じた。高級そうなスーツや軍服を着ている方ばかりだと、私服は昨日のコーデも深緑ではなく黒にすべきだったと思う。
——間違えたなぁ……。
次また訪れることもあるだろうから、恥ずかしくない服を探そうと考えた。自動ドアの開く音にハッとして顔を上げると、目前に壁があり反射で退く。気付きが遅ければぶつかっていた。前を歩くじいちゃんが急に足を止めたからで、何だろうと体を傾けて見る。先にあるのは回転乗降場か、第二層の民政府の建物だ。少し待つと車が入って来て、促される。
「…………」
古跡台地の坂を下り、央都は北にある仰臥門を出て、南区へと国道を走る間ずっと、話をしたくてもしなかった。
「着きました」
「有り難う、後ほど宜しく」
二人の声を聞いて長居するのかなと、受け入れつつ降ろされる。正面に建つは学舎みたいも小さく、石造りの門柱には朱夏寮とプレートがあった。遊軍第三護国集団の一つだと教えてもらう。特殊戦闘職と知り、目的を解した。




