日常~食後は手伝う~
「ただいま」
居間の扉を押して入りながら言い、母親はどこかと見回してみた。壁掛けのアナログ時計を見るやキッチンかなと、思いて足を向け歩き出す。近付くほどに料理の匂いがして、確信に変わった。姿を認めては再び、声を掛ける。
「おかえりなさい」
「ご心配をお掛けしました……」
「大変な一日だったわね」
「ほんとに……」
「小枝さんのお母さんから電話がありましたよ」
「そう……」
「守ってくれて、有り難う。伝えてくださいってね」
「なん……だ……」
二度と一緒に外出しないでと怒られると、思うも違って良かった。呆れの声が聞こえた気がして目を上げれば、再び取り掛かる様を見た。
「手伝いたいなら鞄を置いて来なさい」
「分かった」
意思は無けれど遣るべきも無いから、そうすることにした。付近のドアから廊下に出てはゆっくり、二階の自室へと上り歩いて扉を開ける。
——疲れた……。
肩に掛けていた鞄を床に置くやベッドの上に倒れ、俯せたまま溜め息を突く。昼前には空襲があって、爆死の危機に逢う。先刻は鏡界へと踏み入れて、妖異に殺されかけた。それでも。
「いきてるん……だよな……」
救助が間に合ったのは奇跡としか言いようがなく、時間を稼げたのは特殊な力を行使できたことが大きい。仰向けに体を転じて、影剣を持った右手を翳す。今は無くとも感じは憶えていて、現したくなるもせず下ろす。
「……手伝わなきゃ」
母親が待っているだろうと気になり、渋々さを感じつつ起き上がる。気付けば薄暗くなりて、窓の向こうの空が紫に変わっていた。六時までもうすぐだ。一階へ下りれば料理の匂いがして、空腹を感じさせる。食卓に並んでいた。
「遅くなってごめん!」
「片付けはしなさいよ」
幸いにも怒られるということはなく、お茶をコップに注いで置いたら席に着く。手を合わせて頂きますしては静かに食べ、味わい好しと箸を置く。二人でごちそうさましては約束の通り協力する。笑い話はなかった。
——ふう……。
食後は自室に戻り鞄の中身を出して、片付け場所に拘り仕舞っていく。次に押し入れへ歩き折り戸を開け、朝に畳んで置いたパジャマなど出した。お風呂が沸いたよと声を聞くや直ぐ様と、体の疲れを和らげる。居間へ報告に行く頃には洗濯物が母親の手で、綺麗に積み重ねられていた。
「上がりました」
「苺ゼリー食べたかったら持って行きなさい」
「わー、ありがとう!!」
「フフッ」
嬉しいと思いが強くて、笑みも声も大きなった。食べる前から甘さと酸っぱさを舌で感じて、涎を垂らしかける。手の甲で口を拭って、冷えたゼリーとスプーンを持ち出した。自室で味わい空を見て、眠り就く。




