日常~裏土の妖しさ~
——————!?
目前の景色が急に変わった。自転車の前輪が何かに当たって、横にタイヤを滑らせる。反射で足を地に着けようにも遅くて、右腕を強か打つ。同じく隣でも倒れる音がした。僕は驚きのまま体を起こして、大きな声を掛ける。
「だいじょうぶ!?」
「ええ、なに……が……」
栞さんも辺りを見て、口が塞がらなくなった。央都へ伸びていた国道さえも瓦礫の野となり、倒壊した木造の家が多くあり、紫色おぞましき蔓が一面に這っている。空を仰げば陽の輝きは失せて、黒と赤の絵の具が混ざらずに蠢いている。
「ここは……どこ……?」
「信じられないけど……」
世界の裏の世界に来てしまったみたいだと、思うを話し聞かせた。始祖が神霊と共に創った鏡界は妖異を封じ込める箱で、何度もじいちゃんと踏み入れたことがある。許可された守護が持つ鍵が必要で、迷い込んだ人がここから出るには助けてもらうしかないんだ。他の術を知らぬ。
「裏蔓荒土……」
「うん、見たままの名だけど」
「待っているしかないのね?」
「すぐ、駆け付けてくれるよ」
一瞬でも歪みが生じたなら検知され、指令が本部から下る。付近の守護が動いているはずだと、最悪の死を考えてしまうも振り払っては信じたんだ。
「っ……!!」
粘付くような気に肩を撫でられ、勢いよく撥ね除けつつ体を転じて立ち上がる。正面に黒い影が十ほど、嫌な音を立てて迫りする。
「栞、逃げよう!!」
有無を言わさず手首を掴んでは引っ張り、互いに鞄だけ持ち走り出す。戦う術が無く、数も多く、勝ち目は無く、遣り過ごさねばと急いで隠れ家を探す。足場が悪いから転ばぬようにと、振り返っては焦るんだ。
「こっち!」
息切れも叫んでは荒屋の一つへ、飛び込み奥へと身を隠す。息を急ぎ整えては音を立てぬように固まり、栞さんの肩へ手を回して守ろうとした。
「ケケケケケケケケ……」
一つではない笑い声が少しずつ耳に届いて、地の震えが柱をギシギシと鳴らす。今にも崩れそうな上の穴と瓦を見ながら、助けてと念じた。
「な……」
屋根が、メキキ、メキキ、と。何かによって、剥がされていく。破片が、パラ、パラ、パラ、と。二人の頭や肩に落ちる。最後に叩き付けたか大きな音が、耳を貫いた。静かになったなと仰ぎみれば、巨大な黒い影が箱の中を上から覗くようにしている。見付かった。同時に覚悟した。
「ケケケケケ……」
絶望すればするほどに美味しくなるからと、絶望せよとばかりに赤い口腔をニタリと、笑みを向けてきた。目を離せず、声も出ず、恐ろしさで動けないでも、対峙する思いだけ持ち続けた。
——ごめん、ここまでかな。
妖異の中でも下位である名無きモノに殺されるとは、本当に心から無力さを感じた。荒屋を飛び出しても囲まれているはずで、栞さんだけでも守りたかった。




