日常~勉強を二人で~
「ここにしましょ」
「分かった」
声を落として頷きと共に返すと、机を挟んで互いに座った。外を向けばガラスの向こうは、和様の庭園があって水が流れている。鞄を肩から下ろしてタブレット端末を出して、未完の宿題に取り掛かる。
「…………」
「…………」
静かな空間だからか家よりも集中できて、進むペースが早いような気がした。提出期限はまだ余裕があるけれど、今やっとくことでメリットがある。
————?
周囲の視線が気になって顔を上げてみれば、若い女の人が穏やかに小さく笑い、頭を軽く下げ立ち去るを見た。理由をすぐに分かれなかったけれど、他の人からはカップルに思えるんだと、至って確かにと栞さんに目を向けた。
「……何?」
「あ、いや……」
「変なの。集中しなさいよ」
「ごめん」
幼なじみとは言えども女になったからか、少しドキドキするを感じで居た。今では手を繋ぐだけでも難しくなってしまい、胸の膨らみをも見て大きくなったなぁと思う。嫌悪される前にと煩悩を払い、宿題すべく端末の画面に目を落とす。
——退屈だなぁ……。
何でか進めるのが嫌になり、天を仰ぎ背は凭れて腕をブランと下げる。苦手な教科ではなく、内容が多いだけ。時間は掛かっても良いがそれでも、急ぎじゃないのが大きくて投げ遣りつつあった。
「月曜日までに出す物は終わったの?」
「うん。すでにやったよ」
「見せてごらん、まだじゃない」
「ツンツン」
僕は人差し指でスクロールするや期限を示して、誤解をすぐに解いた。言葉を失う様子をにっこりと、胸中では面白く可笑しく思う。
「爆弾で死んだんじゃないかと思ったわよ」
「白昼堂々と空襲を受けるってね……」
「下手にして遅れたらどうするつもりだった?」
「う……それでも……」
見捨てる選択はしなかっただろうと、答えを返す。自分の命をもっと大切に考えてほしいと、泣きそうに思える声でお願いされた。困り切ってしまうんだ。
「無茶言ってるのは分かってるわ」
根宮家がどのような立場であるのかも。将来は人の上に立つ存在になることも。忘れている訳じゃないけれど知ってほしいと、涙を浮かべ言うんだ。
「肝に命じておくよ」
「約束」
栞さんはどうしてこれほどまでに念を押すのかと首を傾げるも、特に思い当たるようなことはなく、幼きよりの友として戒めをくれたんだと受け取った。
「帰りましょ」
「あ、うん、そだね」
勉強はもういいのかと聞こうとするもしないで、机上に置いていたタブレット端末を急ぎ鞄に入れ、紐を持っては肩に掛けつつ跡を追う。




