日常~空襲を受ける~
「ねえ、おばあ…………」
突然にウーというサイレンがけたたましく、国中で鳴り響く。訊こうと思った何かも吹っ飛ばして、何だ何だって空を仰ぐ。警察や消防ではない。
「おやまあ」
暢気なと内心で突っ込み、情報を得るために、放送が流れるを待つ。
「敵襲、敵襲、直ちに避難せよ、繰り返す」
戦闘機が領空を侵犯したって、信じられなさに固まった。地森の中には建物がなく、身を隠せる所がない。老女は仏道の言葉を唱え祈っている。
「なんまいだぶ、なんまいだぶ……」
「逃げないと……!」
地面がゴーッと震え音がして、頭上を黒い翼が通り過ぎる。形状はシルエットで分かったけれど、国籍は不明なんだ。以前にテレビで見たものに思えた。
——あれは、アメリカ?
滑空する蝙蝠のような機体に、頭部の鋭角さを持ったそれは、遠隔の操縦ではなく、AIが搭載されているはず。対人間兵器と呼ばれし感情も罪悪もあらぬそれは、命令に従うだけと冷たいものだった。
「おばあちゃん!」
「置いていき、坊だけでも生きな」
「ダメだよっ」
「腰も悪うしとるんよ、だからな」
説得も空し(むな)しく、地面が再び震える。見上げれば戦闘機が一瞬で通り過ぎ、直後に空軍機が続けて跡を追う。超音速の戦いだと思っていたらおやと、空に黒い点を認める。高くなった陽の光で見づらくも、少しずつ大きく増えている気がした。二つ三つと筒なのか長さが出て、爆弾だと理解するのに時間が掛かった。一人なら全力で逃げるも、老女がと右に左にあわわと踊った。
「何をしてんねな」
「何で、落ち着いて居られるの!?」
半分パニックになり困っていたら、警報がピイィッという音に変わり響き渡る。防衛設備が起動されたことを知らせ、本島全体を虹の膜で覆うべく天樹の真上に収束してドームとなりゆく。
——間に合ってくれ!!
防空彩壁が完了するまでに突破されてしまえば、帝国の象徴である天樹と共に吹っ飛んでしまうんだ。祈りながら仰ぎ続ける。
——万事休すか……。
爆弾の落下速度と障壁の展開速度を比べ、死ぬのかなと覚悟した。爆弾の羽根も確かに見え、徐々と唸りも大きくなる。立ち疲れた僕はしゃがむ。
「坊、ごめんよ、わたしのせいで」
「ううん、おばあちゃんのせいじゃない」
「話を聞いてくれて、ありがとな」
「ううん、もし……」
生き延びられたら話の続きがしたいと伝えては、望みを少し抱き互いに目を見る。老女は何を思い頭を撫でてくるや、腕を回し寄り掛かってきた。
——お母さん。
感謝や別れの言葉も伝えないで、命散らすことになるとは思いもしなかった。
——森の神よ、普ものよ。
助け給えと切に願いつつ目を閉じて、時を待った。暗い瞼の内が強い光でオレンジになり、爆音の凄ましさが鼓膜を破る。




