足跡~絶望を感じる~
「さびしいよぅ……」
目が潤むたびに泣くまいと、堪えてきたけれど。今だけは違った。目に溜まった涙で視界が滲み、端からすうっと流れた。頬を伝って落ちてゆく。弾ける音はしない。
「ぐうっ……」
嗚咽が喉から漏れた。頬に残る涙の跡を感じながら、天を見上げる。夜の空よりも深い闇が、視界を奪うんだ。
「ぅうっ……、ひっく……」
泣くのを我慢できていたことが不思議なくらいだった。暗い木立の中を独りで歩く。ここまで、頑張ったのに、誉めてくれる人も居ない。
――もう、帰れないのかな……。
明るい場所に。幸せだったあの頃に。目を閉じればまた一つ、涙が頬を伝って落ちた。手の甲で拭うこともせずに、乾くに任せた。
――何のために、生まれてきたんだろ……。
僕はここで死ぬのなら、いっそのこと。進んで闇に身を投じるのも、アリかな。視線を下げて正面を見れば、恐怖と絶望を感じた闇があるんだ。完全に見えない場所を彷徨い、孤独な死を迎えるくらいなら。
――何かに襲われた方がマシかも。
噛まれるなり、切られるなり、命を絶たれたい。痛みも苦しみも、一瞬だろう。考えている内に呼吸は落ち着き、胃は縮み慣れ、少しは歩けそうになった。
――行こう……。
投げ遣りな気持ちなのか、自殺でもするみたいに、元気なく立ち上がった。頬に残る涙の跡を感じながら、闇の中へと踏み入れて行くんだ。
――見えない。
今、両手を前に出して居るのだが、目では確認できない。頼れるのは、耳と手足だけ。光を失うだけでも恐怖を感じるのに、毎日となれば心境やとても推し量れない。知らなければ同情も、薄っぺらいものだ。
――イチ。
右足を前に運んで、大地を踏み締める。足の裏で土の固さを感じ取るんだ。
――ニイ。
上げている両腕の重みを意識しながら、平衡を保って。左足を前へと出した。
――サン。
牛のようにゆっくりと、右足を前へと出した。亀のような歩みで、遠く思う。
――ヨン、っつ!?
左足を前に出すも、地に着かない。吸い込まれるみたいで体が前に、傾いてったんだ。恐怖でか無意識に、右脚を曲げて重心を後ろにした。尻餅つけど伸ばされた左脚は、下半分が宙に浮いている感じがした。
――びっくりしたぁ……。
思うやすぐに後退りして、左脚の踵を地に着けた。何が起こっても良いように用心していたが、穴に落ちるような事態は予想してなかった。死にたいと思っていながら、生き永らえてしまった。心身が拒んでいる。
――確かめよう。
穴らしきものは穴だろうか。四つん這いで進むと、地面が途切れた。手を掛けられることから、崖とも思えた。横の広がりは分からない。
――引き返すしか、ないのか……?
振り返ってみれば、月のように青みを帯びた木々が在るも、遠そうに思えた。