日常~央都に達する~
「ありがとうございます!」
運転手は心優しき人に会釈するや、自転車を押して速やかに渡る。車列が途切れず足止めを食らい、譲ってもらえず困ってたから喜んだ。環状交差点を右回りする。央都方面へと漕いだ。
――まぶしい。
目前に聳える白亞の壁が反射する光は、視界を青くして正面を見てられないと、堪らず下を向きふらついた。俯きながらハンドルを握ってゆっくりと走り行く。距離感も道路の色も変わらない。
――もうすこしかな。
温くなった風を頬で感じ、時に目を上げて前を確かめ、残りがどのくらいか測る。一向と漕ぎ続けて央都に近付いた。
――二分の一か……。
白亞の壁の一部が開けられ、通行が可能となっているを見たからか息を吐く。古跡台地の第四層にある家まではまだ遠いけれど、眠気が襲ってきて目が翳む。瞬きしては覚まそうと、覚えている歌を歌うんだ。
「僕が歩いてる道の先に
聳え立つのは黒き大樹
手を伸ばせば届きそう
思ってるより遠いよね
諦めずに歩み続けてれば
必ず辿り着く願いは叶う
皆を導いてる丘の上に
聳え映えるは黒き大樹
冬に枯れ散り寂れても
夕を背にして誘うよね
諦めずに想い続けてれば
近く巡り逢う願いは強く」
題は、黒キ樹ヘ。早いテンポで体を揺らしながら漕ぎ、心を楽しさで弾ませる。国内のどこかの光景をイメージしては、疲れさえ和らげていく。
――やっと、ここまで。
南区から央都へと越境するには、拝礼門を潜らなくてはならない。白亞の壁には足を掛けることもできず、天辺は顔を真上に向けぬと見ることができない。耐極石のそれは壊せもしない。
――ドキドキする。
今、潜り抜けようとしている門の口には不可視の妨犯的膜が張られていて、不審者と見なされたら弾かれる。僕は自転車から降りて手押し歩き、自然に自然にと思いつつ行く。感触は何もなかった。
「ふう……」
今日も無事に通過できて良かったと安心する。国内にはこれが数えるほどあり、防衛設備の一つとして役目を持つんだ。過去に二度ほど拒絶されたことがあって、自信は僅かにもない。トラウマ。
――迫ってきた……。
休憩とばかりに空を仰げば、赤く焼けた雲と青の残る空とのコントラストが美しく感じた。視線を下げれば、深緑色の林が広がっている。




