日常~帰路に就けた~
「はあ……」
本当に大変なことになったなと、心から肩を落として俯けば。視界の隅で青い輝きを放つ、紫陽花に目を惹かれた。一種の憂いを帯びながら、職員室の窓の前で盛っていた。
――草が生えてきたなぁ。
煉瓦に囲まれた畑には土の縞が終わりまで続き、埋められた種から何が実るのかはお楽しみとのことだった。
「四時十五分……」
顔を大きく上げて、校舎の外壁に付けられているアナログ時計で確認した。すぐに帰路につけなかったのは、学校長のせいだ。
――静かだ。
今日の運動場には人影がなく、一羽の烏が歩いては地面をつついていた。空を仰げばまだ青く、白い雲が浮かんでいた。
「帰らなきゃ!」
美しさに耽っている場合じゃないと目を覚まして、正門付近にある駐輪場へと歩いて向かう。帰り支度の時にズボンのポケットにいれたモバイル端末を出して、電源を入れたら画面を指でタップして、母にメールを送った。
――よしっ。
歩きながら見ていたモバイル端末から視線を上げて、駐輪場に置いた自分の自転車を探した。十台以上は残っているのを見て、部活なのかなと思った。
「あった」
記憶通りの場所に自転車を認めるや、籠に背負っていた鞄を入れた。後輪と前輪の電子錠にモバイル端末を翳して、所有者認証と解除を行った。完了と同時にロックが引っ込む音にはビクッとするんだ。
――慣れないなぁ……。
何を怖がっている自分に苦笑しては、自転車のハンドルを握り駐輪場から出した。そして、サドルに跨がっては、ペダルに足を置いて漕ぐんだ。正門はそんなに遠くない。
「フッ、フッ、フッ……」
足に体重を掛けて漕ぐ度に、力の籠もった息が漏れた。少し腰を浮かせながら、徐行運転で、学校の敷地を出た。横断歩道を渡らずに曲がり、街道に沿って真っ直ぐ自転車を走らせた。
――急ごう。
暗くなる前には帰りたいと思いながら、国道を目指した。白亞の壁の上で光を放っている西日の空は薄くなって、黄色みを帯びてきた。眩しさの中にある寂しさを感じながら、自転車を漕いだ。国道に達するや環状交差点を右回りして、国道は央都方面へと走らせた。南区を縦断する大動脈の果てに、最後の砦がある。
――疲れたなぁ……。
今日はいつもと違うことがあって心身ともに重く、只でさえ遠い家が更に遠く感じた。視線を上げて見る先に、央都があり、古跡台地があり、第四層が帰る場所だ。決して楽な道のりではない。
――空間魔法が使えたらな。
無い物ねだりしても仕方ないと分かっているけれど、近道なんて一つもないから嫌になるんだ。毎日と通わずに通信教育でも受けたいが、多くの人と交流することが大事なんだと祖父が認めない。子供でも運転できる物がほしい所だ。




