足跡~空腹に耐えて~
「おわっ!!」
考え事をしていたから、前方の白木に気付くのが遅れた。顔面衝突に至らなかったけれど、目と鼻の先にある幹を見ながら、気を付けなきゃと思う。
「もうっ……」
自分に対してなのか、白木に対してなのか、文句を言った。一本一本と避けながら、足取り確かに歩き続ける。寝ていた場所からどれくらい、進んだのかな。
――甘かった。
木立を出るのに距離はないと思っていたが、行けども行けども変わらぬ景色で、終わりが見えない。進んでいるはずなのに、闇から白木が現れては、闇に消えるだけ。流石に疲れてきた。
「ふうぅぅっ……」
足を止めて一息ついて、辺りを見回した。気付けば木と木の間隔が、小さくなっていた。何かに近付いているんだと、変化からそう思った。
――腹、減ったなぁ。
朝ごはんを食べていないから、燃料切れになってきた。胃がきゅーっとして、少し痛いかも。抑えるように胸を丸め込んで、猫背で歩き出す。次々と白木の幹に手を当てて、気を抜けずに出口を目指す。
「う~……」
胃が畏縮しているみたいで、痛みを感じていた。疲れたし、体は重いし、眠いんだ。進むペースが落ち、息切れしてきた。
――限界かなぁ……。
結構いったと思うのにまだ、出口は見えない。励ましてくれる人も、教えてくれる標も、見ない。目に涙が昇ってくる感じがしても、足を運んだ。
――……。
無意識状態になりながらも、亀のように歩き続けた。手を動かして次の白木に、寄り掛かろうとする。手の平は壁を抜けたかのように、体を傾かせた。動きがゆっくりに感じる中で、何とか持ち堪える。
――え?
前に出した足が消えたように、思えて驚いた。見えないだけでしっかりと、地に着いている感覚はある。急に明かりを失ったんだ。まさかと、不安になり振り返れば、月のように青みを帯びた木が立ち並んでいる。
――出られた……?
再び正面を見てみれば、完全な暗闇だった。自分の手さえも見えないほどで、恐怖を感じずには居られなかった。言うならば、虚無が広がっているんだ。
――ここは。
悪者が居るような暗黒空間としか、思えなかった。可能性を否定してたけど、本当に異世界転移したようだ。絶望を強く感じた。戻る方法はないのだろうか。
「うー……んっ……」
腹減ったなぁと腹を抱えながら、近くの白木に近付いて座り凭れる。心身はすでに限界に達し、動けそうになかった。先へ進めるとしても、木立のようにはいかない。目を瞑って歩くようなもので、危険が伴う。
「どうしよう……」
何かあるか分からないけど、進むのか。木立へ食べ物を探しに、戻るのか。疲れたからここに、留まるのか。目が翳んで、力が出なくて、困ったな。
――元の世界へ帰りたい……。
脳裏に好きな人の顔が浮かび、昨日のことが随分昔に感じた。恋しく思うよ。