日常~教師が体罰を~
「先生が言うまでは、座って居てください」
倒れられては困るからと、本音を漏らすのを聞いた。軍隊じゃないんだから、立たせ続けたらしいどうなるかくらい、考えたら分かるだろと、心の中で思った。
「ふ~……」
疲れたなぁと、鼻で息をつき、女性教師の様子を見て居たんだ。反省していない所か、指摘する声が大きくなっていた。
――チッ、チッ、チッ……。
僕は電子黒板の上に掛けてあるアナログ時計を見ながら、現実逃避に移行していった。正面を向いて座りながら、想像の世界へと旅立ってくんだ。
「ポケットの中の物を出しなさい」
今まで聞こえていたのとは違って、ただならぬ雰囲気に目を覚ます。誰が何をやらかしたのだろうと、室内を見回した。三列目の前から五番目の男子が、問い詰められている状況を見たんだ。僕の席から離れてなく、顔色は青く見えた。
「嫌ではありません。出しなさい」
有無を言わさぬ口調で命令しては、授業に入れないと言うんだ。泣きそうな男子を精神的に、追い詰めていくのを見て、遣りすぎだと思う。
「後がつかえているんですよ。出しなさい」
「は、い……」
息切れするほどの苦しさに、心が折れてしまったのか。男子の目は遙か遠くを見ているようだった。生気のない顔で正面を向いたまま、右手をゆっくりと動かして。ズボンのポケットからモバイル端末を、机の上に置いたんだ。
「授業中は鞄に入れるのが規則です。分かりましたか」
「…………」
「分かったのなら、返事をしなさい。聞こえていますか」
「あ……う……」
何だか様子がおかしいと、僕は見て思った。頭はゆらゆらとしていて、目は定まらなくなっている。精神的ストレスの症状なのかもしれなかった。
「いつまでだんまりを、続けるのですか」
「規則を守れば良いだけです。帰れませんよ」
「気を付けますと言えば終わるのを、出来ないのですか!」
「悪いのは貴方です。そうでしょ。どうなの!」
女性教師は男子の異変を知って知らずか、一方的に責めていて止められない。
「いいかげんにしなさい‼」
大きな声で言い放っては、高く振り上げた手で男子の頬を叩いた。乾いた音が天井に響いたんだ。教育者という立場において、越えてはならぬ一線を越えたのを誰もが目撃した。再び手を上げるのを見るや、僕は動いた。
「そこまで、です」
僕は女性教師の腕を掴んで、叩くのを止めた。体罰行為は法律で禁止されているからだ。男子の身が持たないのも、理由の一つだ。
「あ……あっ……」
男子の頬は引っぱたかれて赤く腫れ、振り上げられた手を見て怯えている。震えている。早くに止めるべきだったと、後悔したんだ。
「根宮さん、放しなさい!」
「断ります」
今だけは素直に従うことをしなかった。苛立ちの顔に、歯ぎしりする音に、叩こうともがく手に、興奮した息が、危険を報せるからだ。




