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足跡~木立の静けさ~

 ――暖かいなぁ……。

 春の陽気に、笑う友だち。僕はどこかの野原で、一緒に楽しく遊んでいた。

 ――待ってよ。はははっ。あははははっ……。

 青い空の下で、追いかける。君に触れようと手を伸ばして、走っていた。夢だと思わないこの時間は、突然に終わりを告げた。鼻から出た提灯が割れるかのように、真っ暗になったんだ。

 ――……。

 名残惜しさを感じながら、ゆっくりと目を開ける。暖かさはどこへ行ったのか、冷気が肌を刺す。横になっていた体を起こし、背中を白木の幹に預ける。

 ――ふあ……。

 大きなあくびをして潤んだ目で、正面を見た。朝になっていないみたいで、暗かった。寒さで目が覚めるにつれて、自分が置かれている状況を思い出した。

 ――眠っちゃったんだ……。

 疲れていたんだなぁと思っては、おもむろに立ち上がる。土や根の上で寝たにしては、体のどこも痛くない。どうしてなのか。不思議だった。

「……どうしよう」

 木立こだちの中でサバイバルしようにも、知識や経験がない。道具さえも持っていない。行動を起こすべきだと分かっていても、信じたくなかった。

「……どっちに行けば良いんだろう」

 道しるべがないかと思い、前方、右、左、後ろと、見てみる。白い木があるばかりで、出口が分からない。何か手はないものかと考え、身につけている物を見た。服から順に下へと、行き着いたのは靴だった。

「やってみるか……」

 表裏左右のどれが出るかによって、運命が決まると言っていい。明日の天気を占う方法として知られているが、道に迷った時にも使える方法だ。僕は右の靴を脱げやすいようにして、振り子のように上へ近くへ飛ばす。

「どうだ?」

 靴が落ちた場所へと左足跳びで向かい、探して手に取った。目の前に持ってきて見れば、左側が上になっていた。右足が地に着く前に靴を置いて、履く。

「ふう……」

 気乗りがしないけれど、動かない訳にはいかない。凍死してしまいそうだ。意を決して体を左に向けて、足を前に出した。初めの一歩、次の一歩と、数える。

 ――死にたいと、願ったのになぁ……。

 生きようとしているのはどうしてなのかと、思った。木立の中を縫いながら、出来るだけ真っ直ぐに進む。行く先に、出口があると信じて。

 ――暗いなぁ……。

 太陽はまだ顔を出さず、朝になるのはいつだろう。光がないのに、木は見える。普通なら近付いても見えないのに、月の光のように青みを帯びているんだ。

 ――明かりがないよりは、マシ。

 怖くて、何かが出そうで、今でも不安なのに。真っ暗闇だったら、動けない。

「ねえ、誰か居ないのー?返事してよー!」

 大きな声で叫ぶも思いはむかしく、闇に溶ける。泣きそうになってきた。先の見えない中を、独りで歩む。友だちも居ない。寂しさを強く感じていた。

 ――家とここ、辛いのはどっちだろう……。

 前者は精神的に、後者は身体的に、感じていた。疲れても休めば回復する力と違い、深く傷付けられた心はいつまでも治らない。忘れても思い出してしまう。

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