定律~皇帝の間にて~
――イチ、ニノ、サン。
指揮者が右手に持ったタクトを振り、音楽が王の間の天井に響き始めた。奏でる者はトランペットを中心にシンバルなど鳴らして、気分を高揚させてく。
――緊張してきた……。
僕は軍服の上に金と紫のガウン似を羽織り、玉座の前で立ちながら聴いてた。力強さを感じるそれは鼓舞するようで、徐々に調子を速めていくんだ。
――――。
一分に及んだであろう演奏は上げに上げて、突如と静かになった。余韻のち拍手が沸き起こり、静まるや進行係の男性が挨拶する。
「本日はお忙しい中も式典のためにお越し頂き、誠に有り難うございます。近隣諸国の皆様のおかげもありまして、迎えられたことに感謝を申し上げます」
進行係は出席者に対して、丁寧に会釈をした。次には初代皇帝となった僕を紹介して、世界へ向けお言葉をお願い致しますと一礼して、目を合わせる。
「天恵色与の木を象徴にして、輝月二日はこの時を建国記念日と定め、幾人もの犠牲の上に在るを忘れず、虹色の如く美しき国を護ると誓います」
右手の平を出席者に向けながら言い終えるや、音楽が天井に響く。祝う調べで喜びを表して、一つの始まりを島の民に知らせようとする。
――遣るべきことはまだある。
気が引き締まる思いに冠の重みを感じつつ、各国の長からの親書を言葉と共に受け取っていく。アメリカやロシアはなかった。
「天樹帝国はこれからも、友好関係を深めていきたいと考えています。細やかですが、交流の場を設けましたので、楽しみ頂ければ幸いです。帰られる際には贈り物をお渡ししますので、忘れなきように願います」
進行係は式典の最後にそう締め括り、次には僕を先に戻らせる。出席者の視線を受けながら冷静を装い、菊彫りの扉から錦の間へ戻った。
「ふう……」
大役を何とか果たせて良かったと、疲れから声を漏らした。羽織ってるガウンを脱いで軽くなりたいと、部屋の東側にある朝の間へと歩む。太陽の扉なり。
――式典の次は交流か……。
一人で何とか衣装を引っ掛けて、冠はその上に置く。木製のマネキンに着せ見ると、他人の目に映った自分はこうなんだと、教えられるものがあった。
「失礼致します。お脱ぎになられたのですね」
「うん。もういいだろ?」
「ええ。祝賀会が始まりますので、呼びに来ました」
「ああ。休めないな。行くとしよう」
軍服姿になった僕は先程のマネキンが入った棚の扉を閉めて、別の所から肩掛けを取り出す。金と紫の糸で織られし布を使っていて、菊の花と蔓が刺繍されたそれを右肩に垂らす。正装とは言え、軍装とも言うんだ。
「待たせてすみません」
「大丈夫ですよ、堂々としてください」
従う者の男性はそう言うと一礼して、出席者が待つ部屋へと案内する。朝の間を出て、錦の間と王の間を通り、昇降機で二階へ下り、中央を貫く廊下を歩いて、右前にある夏の間へ向かった。扉を開ければ多くの人が飲んだりしていた。
「ベリー、ベリー、グッド!」
出入口付近に居た男性が近付いて来て、先程は素晴らしかったよと伝えてくれた。有り難うのサンキューを返して、給仕係が運ぶ飲み物を受け取る。




