定律~御錦の間にて~
「時間になりました」
部屋の扉を開けて僕を呼ぶのは、衣装を着せてくれた男性だった。素直に返事をしては、羽織りガウンの裾を引き摺って歩く。
――緊張してきた……。
央都の古跡台地の第四層にある根宮家は、日本式の寝殿造りが基になっている。二階建ての家を中心に配し、対屋を北と東と西に配し、渡殿がそれらを繋ぐ。外見だけが古いんだ。
――涼しい……。
対屋から錦の間へ続いている透廊は、枯山水の庭を周れるんだ。角を曲がって少し進むと、木彫りの繊細な扉が目に止まる。
――――。
足を止めるや息を吸って吐いて、気を引き締めた。自らの手で押し開くと重き音が響き、胸の高鳴りを強くした。従う者に迎えられ、入室する。
「衣装を整えさせて頂きます」
「宜しくお願いします」
「入るぞ、遅くなってすまない」
「風起は終わったんだね?」
「招待した者なんだが、二名の欠席を確認した」
「アメリカとロシアでしょ?」
「予想していた通りになったが、どうする?」
「今更、中止しないよ」
「皇帝陛下、終わりました。冠をお付けください」
「ありがとう」
「準備中のところ、失礼致します」
従う者は僕を前に跪いては、出席者を王の間に入れても良いかと訊いてきた。許可なんぞと思うが置いとき、頼むとだけを伝える。
「承りました。では、そのように」
先程の扉とは反対にある菊彫りの扉から出て行くのを見た。今居るこの建物は第三層にある皇統府だ。最高意思決定の場で、国事も行う場だ。
「脱ぐなよ」
「分かってるって!」
「皇帝らしい言葉を使わないとな」
「厳格で、重みがあれば良いの?」
「少年の見た目と違えば気になるだろう」
「仕方ないでしょ、成長したいのに……」
黒染の乱で銃弾の囲いから抜けようと、無意識に時間を止めたことによる代償だからどうにもできないんだ。精神は青年になっているのにね。
「はい、どうぞ」
部屋の扉を叩く音を聞いて、僕は声を投げ掛けた。入り来るを見れば従う者で、式典の始まりが迫ったことを教えてくれた。緊張しすぎて胸が痛いんだ。
「行きますか!」
意を決して叫ぶと共に翻して、羽織りガウンをはためかせる。菊彫り扉が開けられて、王の間へと足を踏み入れた。大勢の人に注目された。
――だいじょうぶ……。
椅子の前に回り込んで立つや、勇気を出して正面の人々と向き合う。静寂さの中にある興味と嫌悪を感じながらも、表情には出さないで進行されるのを待つ。視線だけ動かし階段の下を見れば、翼を広げたように並び立つ奏でる者が居た。




