足跡~未来を考える~
――それにしても。
良く寝られるなと、私は思う。暗い場所で、一人ぼっちで、何が居るか知れないのに。図太いのか。鈍感なのか。疲れていたようだ。
――希望とは信じられないが。
今まで恵まれていたのだから、生き延びられそうにない。死んだら土に埋めるくらいのことはしよう。別に困らない。
――絶望にならなければ良いが。
危険な存在だと見なした時は、私の手で葬ってやろう。十二神霊の中で最強と言わしめる力と、変動の性状を持つ風の力でな。
――久方振りだった。
人のために力を使ったのは、遠き日の話だ。人間と共生していた頃は、光があった。幸せに満ちていた。今では見る影もないが。
――もし……。
男の子があの場所へ、踏み入れられたのなら、考えを改めよう。希望に成り得るのならば、不可能を可能にしてみろ。証明してみせろ。
「力を持たない子供よ。聖なる木の下に着けるかな?」
本当の願いとやらを、思い出せ。時のない空間の中で時を持つ男の子は、食わず飲まずで歩いて行くしかない。命の期限に達するのが先になるかもしれない。
「どうせ死ぬのなら、行ける所まであがいてみろ」
自分の力で切り開いて、私の心さえも変えられるのか。魔女の思惑通りになっている感は否めないが、男の子の行く末を見てみたくなった。
――期待しているのか……。
何をかは分からないけれど、もしかすると。心の奥では現状を変えてくれるのではないかと、願っているのかもしれない。
――司は優しいね。
忘れてしまっていた声を、思い出した。私たち神霊には名前がなく、総称としてそう呼ばれていた。懐かしい顔が目に映り、儚く消えた。
――そうでもないさ。
人間に恐れられ、戦いで命を奪い、最後には世界から切り離された。どれだけの時が流れたのだろう。知る術はない。
――……。
男の子を見ながら、考えた。力を持つようになったら、刃向かって来るのだろうか。人間は時に奇跡の力を見せる。私も苦しめられたことを、憶えている。
――今は、置いておこう。
春の日を思わせる風のドームの中で、幸せそうに眠っている様子を見て、一つ決めた。
――迎える結末を見届けよう。
私はいつでもどこでも、離れた場所から、全てを。長々と考えてきたが、答えは出なかった。大枝の上で静かに動き、鷹の姿をとる。羽を広げずにそのまま止まり、男の子の様子を見た。
――現すには、まだ早い。
気付かれないように気配を消して、来るべき時を待つ。どうなってゆくのか。いつになるのか。
――他の奴等には、後で伝えるとしよう。
人間が嫌いだとしても、手を出すなとな。暇つぶしだとしても良い。願わくば、失望させないでくれ。思うを最後にして、考えるのを終えた。