定律~堕ちた師なり~
「躊躇するな、戦場だぞ!!」
第三の村へと走りながら右の脇腹を手で治癒していると、風起はそう言って心配の目を向けるんだ。厳しいけれど優しいなんて思う。
「分かってるよ……」
力加減する余裕が無い中で人に行使すれば、命を奪ってしまうこともあると考えていた。結果的に銃弾を避けたことで血が流れて、今はもう戻れなくなった。
――殺したことに変わりはない。
今は悔むより少しでも多くを助けるべきだと先を急ぐ。傷口は完全に塞がった。脚力を強化するや全力で空気の壁をぶち破り、時を掛けずに着いた。
――斬!!
足を止めずに風の剣で、目の前の敵を薙ぎ倒した。逃げ遅れの人は居ないかと探して、次から次へと襲い来るを倒していく。
――――!?
妖異を切り裂いた僕の背中に刺すような、視線を感じて振り返りざま跳び、体を転じる。直後に黒い爪が地面を抉るのを見た。
「何で……!」
僕は攻撃してきたモノを知って驚きの声を上げ、信じられなさに受け入れることを拒んだ。四肢は動物のように殺戮の凶器となり、正気を失って唸りする人物は掛け替えのない恩師だった。
「マシューさん……」
開拓者で、世界のことを教えてくれた者で、島をいつか国にしようと語り合った友だからこそ。変わり果てた姿を認めたくなかった。
「ゴガァアァ!!」
「な、なっ、どうして」
「ゴウァ!!」
「しまった……」
一瞬の隙を突かれて接近を許し、防御も回避も遅れて横殴りされた。瓦礫の上を飛び、地面を転がった末に、焼けた家の柱に止められる。僕は伏せたようなまま、体を動かせない。予想以上の強さだと感じる。
「界希っ、大丈夫か!?」
「あ、うん……」
風起が駆けつけては尋ね、僕を立ち上がらせようと手を差し延べてくれるも。穢堕ちとなったマシューさんは雄叫びするや、一直線に飛んで来た。黒い爪で裂かれる前に抱き抱えられて、風の力で宙に浮く。
「ガアァ!!」
空中で見えない地面に下ろされては、徐に立ち上がって呼び掛ける。正気に返ってよと願うけれど、聞こえないのか怒るばかり。
「ゴワァ!!」
鼓膜が破れそうなビリビリした咆哮のちに、地面をへこませては跳躍して来た。身体を強化せずともここまで、能力が上がるもんなのか。
「くっ……、なんでだ……」
両手を前に出して槍を造った風起は黒い爪を、長い柄で受け止めて押し返そうとする。力負けしたのか腹を蹴られて、遠くへ吹っ飛ばされた。泥水が噴くように高く昇る。足場が消えて、地面に足を着けた。
「マシューさん、マシューさんっ……!!」
何度も何度も声が届くようにと思いで呼び掛け、反応してくれることを期待するんだ。活発さは少しずつ収まり、終いには頭を抱えて苦しみ出した。




