定律~争乱の始まり~
「大変よ、人間同士で争いがっ……!!」
悲鳴にも聞こえる水流の叫びに、命を断たれる者の思いが、耳へ流れ込んでは耐えられないと、手で塞ぎ下を向く。
――助けてくれぇ。
――死にたくない。
――子供だけでも。
――どうしちまったんだよ。
――ああ、こんなことなら。
拒絶するも心では聴かずに居られなく、目前の惨状を再び見てつぶやいた。鎮めなければと思うのに、村の数が多すぎて一つを選べないんだ。
「嘆くな!!」
何かが落ちる音と共に放たれた声は、僕を振り向かせるほどの力があった。滅多に現さない神霊たちを見ては、期待と不安を半々に感じる。
「雷打……」
神霊の一つで雷を司り、存在は負の力なのだと、以前に教えてもらった。頑固な親父の容姿は、獰猛な虎を思う。
「手遅れになるぞ、南以外は任せとけ」
「分かった、行こう!」
僕は風起と火群と水流を率いて、山の頂きから麓へ飛び下りた。直角を描くように地を蹴って、近くの村へと急ぐ。
「最近、言い合いが増えたからなぁ……」
「全てを支配したがるものが人間だ」
「定めかぁ……」
「仕方のないことさ」
気力を以て強化した脚で出せる最高の速度で近付くほど、心に届いていた声は耳で聞ける音となって教えてくれた。火の粉が舞う中で黒い人の影が動く様から、混乱や対立といった状況を見て取るんだ。
「水流、島に雨を降らせて」
「良いわよ」
今日は曇天だったことが幸いして、時間を掛けずに滝の如く、赤い熱を冷やしてゆく。髪も服も濡れるのを気にしないで、最初の村に到着した僕らは三方に分かれて、人々の救助を始めた。大声で叫び、山へ逃げるように指した。
「あなた!!」
「お前だけでも、行けっ」
夫婦の心からの声を聞いて、場所を見付けるや跳躍して向かった。間に合えと祈りながら右の手の指を真っ直ぐ揃えて、気力を纏わせた。
――足よりも速い風の刃よ、手から放たれて影を断て。
目前の二人を助けたい思いをも込めて、切り付けるように強く鋭く打つ。耳障りな叫びを最後に、人の形をしたそれは蒸発して消えた。
「大丈夫ですか!?」
「何とか……」
「動けるのなら逃げてください!」
「あ、ああ……」
夫婦は僕に叱咤されて、慌々(あわあわ)と場を離れた。何度も躓き転んで起きて、森の方へ走るを見た。こけつまろびつだ。
「オオオッ!」
背後から迫る妖異の声と同時に薙ぎ払った。断末摩を聞く。




