定律~平和な暮らし~
「……村も増えたね」
僕は山の頂に立ち、人の声や動きを見ながら呟いた。二年前にマシューさんが来訪して、今日までの間で暮らしは豊かなものになる。
「島で生まれた子たちも居るしな」
風起は元気に遊んでいる平和な状況が続くことを、心から願っているんだ。神霊と人間が手を取り合い、米国と日本が協力した。麓に広がっていた森のほとんどは家に使われ、土地が開けて道もできた。
「中腹に在る住み処は贈り物だね」
南側の斜面を削ったり土を積んだりして台地を築き、一人で生活するには広すぎる家を建ててもらう。他にも服や食べ物などを持って来るから、申し訳ない。
「言語や文字はどうだ?」
「英語は難しいなぁ……」
和語は元居た世界のと共通するも、仮名や漢字は違ったり知らなかったりした。覚え直すのがしんどかったけど、笑い、語り、楽しく過ごせたんだ。
「寒くなったねぇ……」
季節は春と夏と秋と冬があって、今は四つ目だから息も白い。昨年なんかは初めて雪が降り、合戦したり作ったりしたものだ。太陽暦で十二月は年末と言う。
「薄着だけど大丈夫か?」
「そっちこそ」
昼食の時間になったようで、子供たちは家へと走る。料理といえば国によって、油ギトギトの物もあるんだ。体に悪いし、味は分からないし、口に合わない。
「右手首の飾り……」
「うん。ミサンガってゆうらしい」
少しも力は感じないけど、願いが叶ったら切れてしまうと教えられた。三色の糸を編んで作られたそれは、思いが籠もっているのか褪せてない。
「大切なものでいっぱいだね」
「界希……」
「持って来たわよー」
水流は相変わらず元気な声を出し、茶色の塊が入った籠を押し付けてきた。礼を言っては地べたに座り、パンをもぐもぐ。
「はへあひお?」
「ああ、ひとつもらおう」
食べながら空いている左の手で渡し、海を眺めつつ平らげた。視線を下げれば子供たちが、隣りにある村へ行くのを見た。後ろから足音がして振り向くと、火群が深刻な顔をしていた。気になってどうしたのと、尋ねたんだ。
「各方面で不穏な気配を感じた」
「まさか……」
「妖異も変な動きを見せてやがる」
「どうしてなの?」
「光の反対には闇が存在しているからだ」
「どうにかしないと!」
現状は不明だが最悪の事態になるのを防ごうと、神霊たちと共に考える。一カ所では済まぬとの話から、四方に分かれて対処する必要があった。
――――!?
突如、禍々(まがまが)しい気が島のあちこちで立ち上り、村を見れば火の手が上がっていた。何が起こったのか知れぬまま、消そうとする者や逃げ惑う者と、落ち着きを失っている。黒煙によって空は曇りに、辺りは赤く燃える。




