定律~太陽が照らす~
「人間の願う思いは、これほどまでに……」
世界や運命を変える力があることを改めて知ったと、風起は空を仰ぎながら声を漏らした。僕は聖なる樹のうねる根の上に立ち、明るさに目を開けてられず閉じたりして、青みがかりを収めた。慣れるのに時が掛かったんだ。
「良い天気だわね!」
水流の元気な声に対して、そうだねと。太陽から目を逸らしつつ、返事をした。神霊たちが仏像のように纏っている布を見れば、属性を表す色に染まって、仄かな光を放ちながら風に泳いでいた。
「似合っているわよ」
僕が着ている衣装は植物が素材で、木揺が作ってくれた物だ。上下が一続きのひらひらした服で、袖も長い。何だか女の子みたいで嫌だ。対して、動きやすさと破れにくさは気に入っている。前の服や靴はボロボロになったから焼却して、今は裸足で過ごしているんだ。
「界希、状況を見てくるな」
「うん、まってる。いってらっしゃい」
素直に頷きては、風起が一陣の如く激しい勢いで行くのを、見送った。気配が遠くなってゆく。緑青の軌跡も消える。
「今でも信じられないよ」
自分が大きな選択を一つしたことにより、暗闇だった空間から解放され、太陽が照り付ける世界へと広がるなんて、物語の中の御話みたい。
「夢じゃないわ」
何ならほっぺを抓ってあげましょうかと、両手を近付けてきた。遣られたくないと首をぶんぶん振り、足を引いて離れた。青い目が笑っている。
「フフフッ……」
「むー」
耳を澄ませば啼き声が、鳥の歌うは楽しさか。草や木たちも合わせるように、葉っぱを揺らしている。心踊る。笑顔になる。生きているんだ。
「この世界の人と仲良くなれたら良いね」
「最初の印象が一番大事なの」
「言葉が通じなかったら、どうしよう……?」
「勉強するより他にないわね」
「面倒だけど、仕方ないかぁ……」
「日が暮れてきたわ」
「久し振りに見たな……」
青色だった空は、黄色がかってきて、赤色に染まってゆく。太陽が木立に隠れてから薄暗くなるまで、思うよりも早かった。
「夜はもうすぐかな」
「おかえり、どうだった?」
「色々と採れましたよ」
「見せて見せて!」
風起を押し退けて木揺に駆け寄り、両手で持っている籠の中を覗き見た。葉っぱや実や魚などが、きらきらしていたんだ。
「凄いね、近くに川でもあったの?」
「立ち話も何ですから、食事にしましょう」
木揺の言う通りにして原へと下り、焚火を囲んで料理を待ちつつ、話を聞いた。僕が居るここは山の頂きで、麓に森がある。上空から見たら島となっていて、海に浮かんでいる。小さな島もいくつか見たらしいんだ。