足跡~便所が無くて~
「ごちそうさまでした!」
僕は器の中の汁や豆を平らげて、食後の挨拶をした。二度ほどおかわりをさせてもらい、満足とばかりに笑顔を咲かせた。
「良い食べっぷりだったな」
風起の声を聞いて、顔を右に向けた。焚き火の前で丸太に座りながら、急ぐことはなかったのにと言ってきた。
「久し振りで、嬉しくて……」
「怖いくらい、がっついていたわよ」
「腹が減っていたことが伝わるくらいにな」
「えへへ……」
「口に合ったようで良かったのぅ」
片付けるから食器を頂戴と言われて、お願いしますと共に木揺に渡した。孫を見るような目になり、頷いてはどこかへ。
――ん?
洗い物をする所ってあるのかと、首を傾げた。飲み水がなかったのだから、川や池があるとは思えない。水流はここに居るしと、気になった。
――おしっこしたい……。
尿意をもよおして、便所へ行きたくなってしまった。木立に来てから一度もしていなかったから、水の玉を飲んだから、痛くなってきた。見回してみたけどあるはずがなくて、草むらや聖なる樹の根しか近くになかった。
「何をモジモジしているのよ」
「もれそう……」
「そこらですればいいじゃない」
「ええ……」
「あちこちにやられては、たまらん」
「はやくして!」
「分かった、こっちだ」
「うわ!?」
我慢しながら歩き出そうとしたら腰に腕を回され、荷物を抱えるように僕を運ぶんだ。風起の足が地に着くたび、もらしそうになる。
「ここでしろ」
命令口調と共に下ろされた所は、原を囲む白木の裏だった。細い幹と子供の膝を隠すほど伸びた草によって、見られることはない。屋外で用を足すことに抵抗はあるが、迷っている暇はなかった。近くに誰も居なくなったら、見ていないことを確かめて、根元に放水した。長いこと出し続けた。
――ふう……。
何とか間に合った。安心だ。冷気によって少し凍てた手をズボンのポケットに突っ込み、温めながら風起たちが待つ原の中へと歩いて向かった。
「戻ってきたか」
「うん。おまたせ」
「今度からは自分で探してな」
「えーと……」
小だったら良いけれど、大だったらどうしよう。お尻を何で拭けばと、後で困らないように聞いておく。僕が元居た世界では、薄い紙を使っていたが。
「葉っぱでやれば良いだろう」
不潔な状態のままで過ごしたくないと、不便な環境の中で代わりになる物があるか、木揺に相談することで決着した。




