足跡~何度も捕まる~
「鬼ごっこしましょ」
水流にそう言われて、僕は何も考えずに返事をしてしまった。神霊の方が有利じゃないかと、後の祭りだった。
「原の中で、ねっ!」
聖なる樹の根がうねっているから、登ったり、降りたり、跳んだり、できる。運動には良い所だと、笑顔満開で言うんだ。
「うえ、しんどそ~……」
「鬼は、私からね!」
十まで数えるから、その間に逃げてねと、背を向けて幹に頭を当てるんだ。風起たちに視線を遣るも、目を合わせてくれない。
「いーち、にー……」
「もう!?」
突然に始まったことで、僕は慌々(あわあわ)と踊った。逃げるにしても遠くは無理だから、樹の裏に回って降りることにした。幹から十五歩ほど離れた所で、水流が動き出すんだ。
「手加減なんかしないわ!」
元気すぎる声が聞こえた後に、地を強く蹴ったような音がした。嘘と思いながら振り向けば、跳躍する姿を見たんだ。苦労は台無しにされ、捕まった。
――反則だろ。
窮まりなく危険な行為をしてまで、殺りに来るとは思わないんだ。跳躍ひとつでどんだけだよと、愕然したんだ。
「手を抜かないからね!」
覚悟してよと、微笑まれて、げんなりする。体力を付けないと、出来ることも出来ないと、諭すように言うんだ。差がありすぎて、嫌だ。
「何で、そこまで……?」
「襲われても逃げられるようによ」
木立の中で独りだった時は、どうなることかと。思ったけど賑やかになるとは、夢みたいで夢じゃなかった。
「次は思い切り逃げてね!」
「頑張る……」
僕は諦め気分で返事をしては、軽やかに遠去かる背中を見て思う。華奢な女の子の姿をとるのは、どうしてだろうと。
「そこからでいいわよ」
「うん……」
「いーち、にー……」
再び幹に頭を当てながら、数え始めるんだ。水流は休ませてくれる気がないみたいで、容赦なく数えてゆくのを聞いた。可能な限り、遠くへ。
「ハァ、ハァッ……!」
聖なる樹のうねる根に挑み、慎重さよりも早さを求めて駆け進んだ。先程よりは幹から離れて居るけれど、伸びた草のある所までに達していなかった。
「フフフ……アハハハッ……!」
「ひいっ」
「つーかまえたー!」
「む~」
予告なく、突然に始まった鬼ごっこは。疲れても、体が重くても、続いた。時がないから、どれほどやったのか。目は翳んで、ぼんやりしてきた。




