足跡~水玉が浮かぶ~
「怒らせないようにしなきゃ……」
「ねえ、なにを?」
「うわ、いつのまに!?」
僕は考え事をして居たから、女の子が声を掛けるまで気付かなかった。聖なる樹の幹の前で話を聞いている間に、根の上を歩いて来たようだ。
「私のことは、水流と読んでね!」
「分かった……」
未だに心臓がバクバクしているのを感じながら、頷きつつ返事をしたんだ。一つ思うのは、本当に人見知りかと。元気すぎて、腕白にしか見えないんだ。
「界希に水をあげてくれないか?」
「植物みたいに言わないでよ……」
「良いわよ。たくさん?」
「そんなには……」
「フフッ」
冗談よと言われて僕はまたかと、弄られていたことに肩を落とした。一枚も二枚も上手だから、反応せずには居られない。
「そういえば、器がないけど?」
「ああ、大丈夫さ」
「まだ、言っちゃダメよ。お楽しみなんだから」
風起たちの口を塞ぐと、水流は背中を向けた。雨降れ的な感じで手の平を上にして、何かを念じるんだ。一度も動かないでその姿勢のまま、衣装を泳がせてゆく。
「あ……!」
見守りながら待っていると、地面から小さな水の玉が浮き上がる。数え切れないほど現れて、仄かな青い光を放つんだ。
「凄い……!」
水流が両手を近付けると、宙に浮いていたそれらが一つになる。数珠のように並んで螺旋を描き、寄り集まるほどに大きくなった。
「私は、操ることは、出来ない」
戦いにおいて、風以外の属性を使うことはあるが、司っていないため、真似しても感じる程度だったことを、悔しそうに話してくれた。
「俺は、相性が悪すぎて苦手なんだ」
火群に対しては、そうですかと。心の中でつぶやいて、聞き流した。視線を戻して、次はどうなるのかと見れば、頂戴するように手を前を出すんだ。大きい水の玉がその上へと動いて、タプンと音がした。
「どうぞ」
大事にしながら持ってきてくれたけど、受け取ろうとしなかった。手渡されても割れてしまいそうで、心配だったから。大丈夫よと両手を出させられ、強制的に手の上に乗せられた。不安に反して水の玉は、形を保っていたんだ。
「冷たい……!」
「気持ち良いでしょ、自然の恵みよ」
飲み方は、掬った水を吸い込むようにと見せられて、僕もチューッと勢いよく、水の玉を小さくしていった。渇いた喉が潤うほどに、体の隅々まで染みるんだ。久し振りに飲めた嬉しさで、心から笑顔になるんだ。気付けば一滴も残らない。




