足跡~神霊に弄られ~
「喉がかわいた……」
「ああ、そういえば」
言っていたなと、風起は思い出したようで、頷きを何度もした。そして、何かを探すように辺りを見回すんだ。
「水よ、そこにいるんだろう?」
「悪しき者ではないから、出て来いよ」
火群が言ったことに対して、どういう意味だと思った。心の中で反発しつつ、どこを見ているのか視線を辿った。しかし、何も居ない。
「水は、人見知りだからな……」
姿は見えないけれどその辺りで、俯いて、恥ずかしそうにしているのかなと、可愛らしく思った。
「女の子なの?」
「見た目はね。性状は、哀愁さ」
神霊の一つで水を司り、存在は負なのだと、風起は教えてくれた。悲しみには特に敏感で、怒らせれば厄介と、実感を込めるんだ。
「界希が泣いてばかりいたから」
聴いて哀しくなったのかもと、付け加えられて言い返した。悪かったねと、脹れっ面になり、酷いよと顔で訴えるんだ。
「子供とはそういうもんだろ」
「子供、子供って……!」
助け船のつもりなのか知らないけど、火に油を注がれている気分だった。睨んで見るも涼しく流され、忿懣遣る方ない。
「フフッ……」
微かな笑い声がどこからか、穏やかな風に乗って聞こえた。男児や青年の声とは違って、音が高かった。思った通り、女の子だと、疑わないんだ。
「隠れて居ないで、来てくれないか?」
「弄り甲斐があるだろ?」
「嬉しくないなぁ……」
遅まきながら僕は気付いた。今までの声掛けは不安を取り除くために、わざとやっていたんだと。
「界希も、何か言ってあげな」
「うーん、ともだちになろうよ?」
「疑問形なんだ」
「うるさい、うるさい!」
僕は顔が赤くなるのを感じながら、自分でも分かっていると叫んだ。思い付いたのがそれだったから、良いんだよねとハテナしたんだ。突っ込まれるとは。
「フフフ……アハハハッ……‼」
先程よりも大きな声で、笑うのが聞こえた。続いてシャボン玉が弾けるような音がして、視線を向けたんだ。女の子が腹を抱えて、可笑しそうにしていた。衣装を見れば仏像のように、布を纏っていて、両肩を覆ってるんだ。
――……。
体は思ったより華奢な感じで、妹のような印象を受けて、助けてあげたい気持ちになるんだ。時々、姿が透ける寂しさは、命の儚さ。
「兄妹なの?」
風起に思ったことを尋ねてみたら、決して違うと否定された。見た目に惑わされるなと。津波にやられた奴も居るから気を付けろと。冗談ではない。