足跡~筋骨の逞しさ~
「事情は分かった」
火を司る青年はそう言うと、僕に足を向けて近付いて来た。好戦的な印象だから、身構えてしまう。
「ようこそ!」
意外にも歓迎してくれているみたいで、拍子抜けた。背中をバシバシ叩いてくるから、痛さにのけ反らされた。骨が折れてしまいそうだ。
「っう……」
逞しい手の跡が背中に残っているんじゃないかと、思えるほどにヒリヒリするんだ。近くに居る司に向けて、訴えた。
「見ていないで、助けてよ……」
「いつものことだからな」
司は馬鹿に付ける薬なしと、諦めているようだった。世界から切り離される前にも、あったみたいだ。力加減を覚えてほしい気分になる。
「俺の性状は、闘争だ」
風属性と同じで、正負の存在だと青年は自己紹介をするんだ。火は扱い方次第で、命を奪うことも守ることもできると話してくれた。
「人はそれを知ってなお――」
続きは聞き取れなかったけれど、思う何かがあるようだ。話を途中にして考え込むから、面白くなかった。
「言っておくが、俺も司だぞ」
「あっ、そうか……」
総称だと言っていたことを思い出し、男児姿の司を見た。今までは問題なかったけれど、呼び名を変えないと分からなくなるんだ。
「僕が考えてもいい?」
「駄目だ。今はその時じゃない」
風の司に拒否されて、がっくりとした。神霊に名を与えることは、配下にすることと同義だと教えられたんだ。期待していた分に落胆も大きかった。
「これからは、風起と呼べ」
属性と動詞で構成した名前は、覚えやすかった。相変わらず命令口調だけど、男児姿の神霊はそれに思い入れがあるようだ。
「俺のことは、火群と呼んでくれ」
青年も名前を考えたようで、倣ったのか覚えやすい。火は群れて炎に成るんだと、一つ教えてくれた。知ってるような気がしたけど、いつだろうか。
「よろしく、だな!」
自己紹介が終わると僕の肩に腕を回して、首を絞めてきた。痛い、苦しいと、火群の腕を掴んで、必死に踠いた。
「おい。遣りすぎれば、死ぬぞ」
「ふん。言われなくともだ」
風起が制止してくれたことで、ようやく解放された。左手て膝を地に着けては、右手を喉に当てた。息を整えながら、思いを声にした。
「本当に、人というのは脆いんだなぁ」
「分かってるんなら、気を付けてよ!」
「悪かった、悪かった」
「もうっ!」
呼吸ができなくて、死ぬかと思った。絶対に忘れるものかと、許さないと、怒りから顔を逸らした。




