表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/103

足跡~濃霧の先には~

 ――界希かいき

 僕は木立こだちの中を歩きながら、名前を持てる喜びを感じていた。何度でも呼ばれたいと思うほどに、名前が気に入った。

 ――あれ?

 冷静になって正面の景色を見てみれば、先ほどまではなかった霧が漂っていた。進めば進むほどに濃くなっていき、徐々に木々が隠されてゆく。

 ――――!?

 不意に手をつかまれて少しびっくりしたが、離れないようにだろうという考えにいたった。足下さえも見えない中で、優しく引かれながら進む。

 ――あ。

 霧が晴れてきて、少しずつ木々も見えるようになった。何か夢の中を歩いているような気持ちになり、眠たさを感じた。

「着いたぞ」

 つかさの教えてくれる声を聞いたと同時に、手を放された。目の前に広がる景色を見て、足を止めた。

 ――わあ……。

 穏やかな風が草をかすかに揺らし、ささくように奏でていた。霧を抜け踏み入れたこの場所は、木立の中心地にある原だ。

 ――……。

 景色は白黒のままだけど、記憶が虹の美しさを見せてくれた。まばたきすれば消えてしまうが、明るさに満ちていた。言葉もなかった。

 ――……。

 視線を上げて奥を見れば、白木とは比べものにならないほどの木が立っていた。真っ暗な天を手で支えているかのように高く、遠目でも分かるほどに幹は太い。抱き抱えようと思ったら、十人では足りないかもしれない。

「立派なものだろう?」

 見ると聞くでは感じ方も違うからこそ、見てほしかったと司は言った。何があるかは自分の目でと、教えてくれなかったのはそういうことらしい。

「とっても、きれい……」

 月のように青みを帯びた木が囲む原で、そびえ立つ木から目を離せなかった。光も色も無い空間の中で、神々しさを放っていた。せる姿は筆舌に尽くし難く、表現できる言葉を持っていない。

 ――これが。

 神霊たちが守ってきたものなんだと、僕はただただ見蕩みとれて居た。疲れも何もかも忘れてしまうほどに、神秘的な存在を感じた。

「界希、草を良く見てごらん」

 僕は呼び掛けられたことでわれに返り、何を言ったのと聞き直した。嫌な顔をせず笑みを浮かべ、優しい言葉で言ってくれた。疑問を覚えながらもしゃがんで、足元の灰色した草を見てみた。

 ――――‼

 注視しなければ気付かないほど、ほのかな緑の光を発していた。一枚の葉っぱに極小のほたるが、無数に止まっているようだった。

 ――色が、ある。

 何十年振りなのだろうと思えるくらい、見れたことが嬉しかった。小さな変化かもしれないけれど、僕に希望をもたらした。今までの苦労がむくわれた気持ちになり、泣きそうになったんだ。生きていると、感じられるから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ