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足跡~過去を知れぬ~

「むずかしい……」

 僕は木立こだちの中を歩きながら、重心移動を意識してみるけれど。身体で引力の感覚をつかむしかなくて、モノにできずにいた。

「だろうな」

 つかさは笑うことをせずに、焦らず積み重ねれば良いと言ってくれた。平地より坂道の方が疲れにくさを知れるけど、長時間の酷使は控えるようにと、忠告された。理由は、脚の裏側の筋肉を伸ばした状態で歩き続けると、負荷ふかの大きさによる痛みで歩けなくなるから。

「先に行かないでよ」

 置き去りされないために前もって、念を押した。月のような青みを帯びた木が明かりとなって見えるけど、距離が開くと闇が司を抱き込むみたいに隠してゆくんだ。失って、独りにされるのが嫌だという思いもある。

「怖いのか?」

「怖くない!」

 即座に言い返して否定したことで、司は黙り込む。意外だと言うような顔を向けながら、僕をまじまじと見るんだ。

「……どうしたの?」

「……何でもない。行くぞ」

 疑問に答えてもらえず、疑問だらけだが一先ひとまず、置いておくことにして追いかけた。司の右側で並んで歩き、景色を見て思った。相変わらず白木と暗闇だけだけど、最初に迷い歩いた時とは違って独りじゃない。

「司は、本当は、優しいんだね。今更かな……」

「そうでもない」

「……え?」

「私は変動の性状を持っている。正と負を併せ持っている」

 世界から切り離されたこの空間に時はないけれど、全てが止まっている訳ではないと言うんだ。木立の中を歩き進められるように、心もいつかは荒れる。僕を傷付けてしまうかもしれないと、痛そうな顔を垣間かいま見せたんだ。

「……えーと、怒ると怖いってこと?」

「……いつか、知るだろう」

 大きすぎる力は災いを呼ぶ。感情に左右される力は危うさをはらむ。司は真っ暗な天を仰ぎながら、後悔しているみたいに語ったんだ。

「…………」

 過去に何があったのが分からないけれど、空気の重さを感じて聞こうとは思えなかった。僕はその話を聞いては、言葉を交わさず歩き続けた。

「……疲れたか?」

「……だいじょうぶだよ」

 司にもらった灰色の実を食べてから、不思議と力が出てくるんだ。小さな実にはどれほどの、栄養が含まれていただろう。疲労を感じにくいことから、鉄分が豊富だと思えた。良薬は口に苦しとことわざは、本当みたい。

「……遠くないって言ったよね?」

「……立ち止まったりしているからな」

「悪かったね」

「休むことも大事だからな」

 時間と言うのがここに無いからこそ、遅すぎると言うことも無いのだから。苦痛に耐えてまで歩く必要性を感じないと、厳しくも優しい声を掛けてもらえた。

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